第173話 えっ? 彼女?(5)

 それでも無視。無視を続けていると。やっと電気屋さん。家電量販店さんの方にも色々メーカーさんが出す。発売をしてきた。留守番電話機能のついた電話機を購入してアパートへと備えつけている僕だから。電話の向こうから。


「(一樹ー! 一樹ー! いるんでしょう? いるのは分かっているのよ。貴方! 早く、早く。電話にでんさいやぁ。今直ぐに。早く! 早く!)」と。


 翔子の奴は、声を大にして叫ぶのだ。


 僕が電話に出る。受話器をとり。上げ。自身の耳と口に当てて──。


『もしもし、なんやぁ?』と。


 僕が面倒、気だるげに言葉を返すまで叫び続けることが度々あったのだ。


 でっ、僕が仕方なく、というか? 翔子の声のデカさと、荒々しさに根負けし。


「なんやぁ? 用か、翔子?」と。


 僕が不機嫌極まりない声音で告げ、問えば。


「今から一樹、うちらを迎えにきんさいやぁ」と。


 翔子の奴は、何も罪悪感もない様子。電話の向こう側で御機嫌麗しく笑いながら。もう深夜零時も過ぎた時間なのに、平然と告げてくる。


 だから僕自身も、いい加減なことを平然と告げてくる翔子に対してね。


「何で俺が、お前を迎えにいかんにやぁ、いけんのんやぁ。今何だと思っちょるんやぁ? 俺は、明日は、仕事じゃけぇ、いける訳なかろうがぁ。自分でぇっ。自分らで、タクシーひらって帰れぇっ。この酔っ払いがぁっ!」と。


 そう。要するにさ、会社の同僚達なのか、学生時代の友人なのかは、僕自身もわからない。知らないけれど。友達数人と飲んでいて酔いつぶれたみたいでね。タクシーをひらって帰ろうにも。酔い方が酷いから乗車拒否をされる可能性が大だから。元カレの僕。都合がいい僕へと電話をかけてきたのだと思う。


 た、多分ね? 僕も翔子でないからわからない。理解ができない。


 只その時の僕は、電話の向こう側の元カノと、自分自身が思っている。信じている翔子の奴が、他のボーイフレンド、若しくは? 本命の彼に断られた後の電話なのだとばかり思っていたから。


 尚更アイツに対して不機嫌極まり様子──。


 そう。自分自身の気を荒くさせながら。いつも電話対応をしていた。続けていたのだ。


 でっ、その都度翔子の奴は、僕にこんな言葉を告げて脅すのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る