第103話 男の威厳って奴?(3)

 また罵声を吐いてくる、ではないね。もう何度も罵声を吐きながら【ロ○コンパンチ】を繰り出す僕の両手を掴み、押さえつけようと試みてくるから。


「いい加減にしろはぁあああっ! お前だぁあああっ! エル──!」と。


 僕も売り言葉に買い言葉ではないが。先程からエルが怒声や罵声を、夫である僕へと吐く。放つ度に、荒々しく言い返しているのだけれど。


「はぁ~。何をいっているの? 一樹は! こんな時に不謹慎というか? いい加減にしなさいよね。私に悪戯行為。破廉恥極まりない行為をするのは……。後にしてよ。後に……。今はこんな事をする時ではないし。私自身も気が乗らないから。今は嫌~。嫌だから……」と。


 僕に訳の解らない言葉を告げる。告げてくるのだよ。エルはね。それもさ? 今は泣く、嗚咽する。漏らす行為をやめてね。自身の頬を桜色に染めながら。僕へと不満を漏らしてくるのだ。『後にしろと!』


 でも、後にしろ。何を後にしろと申しているのか、今の僕……。自身の妻。いくら元勇者、英雄であろうとも、女性から一方的に荒々しい行為を受けている最中……。



 そう、夫婦喧嘩で一方的に負けている。敗退をしている男の僕の気持ち、プライドはね。ズタズタ、悲惨……さんざんな物だよ。もうエルの、夫、主としての威厳は無いに等しい状態だからね。


 だって自分の手で自ら命を絶ち、他界をする。あの世へと旅立つと言っているわりには、後にしろ! 今は駄目! と、訳解らないことを漏らす。呟いているエルに僕は、


〈パチン!〉


〈パチン! パチン!〉と。


 相変わらず平手打ちの制裁を受けていると、言った情けない様子だから。


 でもさ、僕自身は確かに悔しくて、嗚咽を漏らしているけれど。絶対に負けない。負けないし。挫けないからね。妻の荒々しい行為に対して。


 だから僕は更に抗うのだ。


「うぉ、おおおっ!」と、荒々しく掛け声! 遠吠えの如くあげ! 己! 自分自身に気合を入れる僕なのだ。




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