第96話 元エルフな勇者の凶変(7)

 そう、自身の鼻から情けなく血を垂らしている僕の頬を平手打ち。それもエルは、夫の僕へと手加減無く、と、言っておくけれど。多分エルは憤怒、怒りをあらわにしている状態ではあるのだけれど。至って冷静に対処してくれたのかも知れない。僕は今のエルの張り手数発で、妻の背から抱きつき状態が維持できなくなり。後方へと倒れたぐらいで、勇者相手に僕はすんだ。すんで、己の命と首の方はちゃんと繋がっている状態でいたから。エル自身は、一応は夫の僕のことをちゃんと尊重してくれて手加減をしてくれたのだと安堵しながら思うのだが。


 何せ、勇者に打たれた頬だから。いくら手加減だとしても痛い。痛いのだ。


 だから僕の口から自然と。


「痛、痛たたた……」と、悲痛声が漏れてくるのだが。


 僕自身は、いつまでも己の、痛い箇所である頬を押さえておく訳にはいかない。


 だって僕のエルは。僕を、夫を置いて先だとうと……。僕達二人が最初の繋がりできた魂の後追いをして冥府、天国へと旅立とうとして、自身の所持していた武器、大刀剣を取りに、握りにいこうと未だ試みているから。


「エルぅっ! だめだぁっ! いかせないぃっ! いかせるものかぁっ!」と。


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