第14話 真冬の怪奇?(2)

 まあ、始めだすのだが。


 当の本人と言うか、物なのかな?


 物の怪様の方は、そうはいかないみたいでね。


 ガリガリ、


 ズルズル、


 ガリガリ、


 ガシャンと。


 今度は鈍い金属音と足音を混ぜ合わせながらの怪音を出しつつ、こちらへと向かってくるのだ


 それもやはり物の怪、お化け様のようでね。


「うっ、うう、うぅ」と唸り声……。


 そしてズルズルと、引きずる鈍い金属音……。


「あっ、あぁ、ああ」、


「うう」と更に呻るのだよ。地の底と、言うか冥府?


 まあ、世に言う地獄と言う奴から聞こえてくるような重たい、悲痛な声音でね。


 ガリガリと物の怪様は、何かを相変わらず引きずりながら鈍い音──怪音を出しつつこちらへと優しくね。


 そう、物の怪、お化け様はどうしても僕と楽しく会話をしたいみたいだから。


 自身の足を止め、反転をしてくれる事もなく、こちら! 僕方へと真っ直ぐに迫ってくる。


 だから僕の口から次に漏れる言葉は。


「南無……」、


「南無」と。


 僕は恐怖の余り、御経まで唱え、祈り始め、終われば。


「悪霊退散! 悪霊退散ー!」


 僕は背後に迫る物の化へと御払いも試み。


「頼むから僕の許へとこないで! こないでください! 物の怪様! 幽霊様」と。


 僕は、自身の背後に迫るお化けに対して、なりふり構わず嘆願、命乞いをする。


 でも? 彼? 彼女はね?


 ガリガリ、


 ズルズル、


 ガリ、


 ガリッ、


 ズルッと、怪音を出しながら僕の背後へと、どうしても迫ってくるから。


「神様! 仏様! 女神様! 哀れな子羊である僕の事を助けてくださいお願いします! お願いしますよ! 僕の背後にお化けが近づいているので、何とかしてください! お願いします!」


 僕はこの通りで、神頼み──。作業をする手を休め。自身の胸の前で、両手を合わせ、漆黒の夜空だろうがお構い無しだよ。


 そう、僕の二つの瞳には、月や星すら映らないほどの漆黒色の夜空だけれど。


 僕は天を仰ぎつつ神頼み──。祈りを捧げた。


 神様、哀れな僕の事をお化けから救ってください、お願いしますとね。


「南無……」、


「南無……、南無……」と。


 僕は御経を唱えつつ、この後も、何度も神様、仏様、女神様へと嘆願をするのだが。


「うぅ、ううう」、


 ガリガリ、


「あぁ、あああ」、


 ズルズル、


「はぁ~」、カンカンの呻きと息遣い、怪音は止まらない、どころか? 更に僕の耳へと大きく聞こえてくるから。


 悪霊退散の御札をもたいな、無信仰の僕では──。


 神様、仏様、女神様も慈愛の精神、気持ちも湧かないのかも知れないね?


 僕の事をお化けから救済、救助してくれる様子もないようだから、と。僕が三神に対して嘆きや愚痴を言いつけても仕方がないから本当にどうしよう?


 僕の背後に迫りくる物の怪、幽霊は、この地の残る地縛霊……。



 それも先程から僕の耳へと聞こえるのは、鋼の擦れる金属音だから。


 多分、地縛霊の正体は、落ち武者の幽霊なのだと思うよ!


 だって、この農協が建っている場所はね、毛利元就公が幼少期に過ごした猿掛け城や郡山城……。



 そして毛利両川の武の要──吉川元春公の小倉山城や館の遺跡も近隣にある場所だから、沢山の兵士が死に、地縛霊もあちらこちらに居るとは思われるから?


 僕は以前農協の展示会で仏壇屋さんから聞いた怪奇話……。



 安芸の武田氏の居城があった、武田山に多々ある団地──。


 そこのお客様の家に刀傷を顔に負った落ち武者の霊……。



 そう、家のトイレ……。



 未だこの時代、昭和の終わりの時代は、水洗トイレではなく、汲み取り式のトイレも未だ多々あった時代だから。汲み取り式のトイレに出るらしい? 落ち武者のお化けがね。用を足していると下から。


「うぅ、ううう」と呻きつつ、覗いているらしい。


 だから普通ならば、『この変態! 痴漢! お巡りさん、助けてください!』で、事が済む事なのに、相手がお化けだから、警察に頼んでも解決できなからと、地縛霊を供養する為に御仏壇を購入していただいたのだと、言った怪談話が、僕の脳裏を横切る、ではなく。


 僕の脳内をグルグル回るから、自身の顔色がいくらでも変わり、震え、畏怖して仕方がないのだ。


 この僕はね……。



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