第11話 前を向く彼女と燃え痕

「……なあ、灰谷よ」

「なんだいね、奉助くん」

焼肉ランチは後日で、なんて取り決めのもと僕たちはいつものように食堂で向かい合っていた。僕の前にはA定食(ハンバーグ、ご飯、味噌汁、サラダ)、灰谷の前にはかき揚げうどん(大盛り)。すでに灰谷の食事は半分ほどまで進んでいるが、僕はほとんど手をつけられていない。

「結局、こんな状況なんだけど?」

「なんのことやら?」

「……」

「ごめんって! 流石に私も予想もしてなかった!」

昨日を再現するかのような僕の目線に、灰谷は笑いながら謝罪を告げる。一体なんの話かというと……。

「いやあ、今日もいるねえ」

そう、少し離れた席から美井路が熱い視線を送っているのである。今日は三テーブルほど離れたところにいるが、若干近づいてきているのは気の所為だろうか。

「……どうしよう」

「どうしようもない!」

灰谷にヘルプを求める前に切って捨てられてしまう。流石にお手上げのようだ。

「しかし、昨日のあの感じから即謝罪だよ?」

「しかも、友人になってくれときたもんだ」

今朝の出来事を思い出したのか、灰谷は実に楽しそうに相好を崩す。昨日と違ってもう僕だけの問題ではないというのに、どこ吹く風といった様子にため息をつかざるを得ない。

「灰谷が友人になってあげればすべてが解決するんじゃないか?」

そんな、少しだけデリケートな問題に絡む僕の言葉に灰谷は曖昧にニヤつく。

「そうさなぁ……要検討で」

彼女のその曖昧な表情とは裏腹に、堅い拒絶が潜んでいる気がして、僕はこれ以上踏み込むのを止めた。

「まあいいけど」

コミュニケーションが下手な僕の半端なごまかしを、灰谷は見抜いているだろうけど彼女は何も言わない。

「とにかく……放置するしかないかな」

そう結論付けてしまおうとしたのだが、不思議そうに首を傾げる灰谷の顔が目に入る。

「というか君が友達になってあげればいいじゃん」

「……まあ、色々あるんだよ」

「なんだそれ」

こちらをからかうようなニヤつき顔がちょっとだけ鼻についたけど、詳しくは説明しない。昨日の公園での一件があるので、気まずい。とてもじゃないけど、自然な形で友人になれるような気は全くしない。

――正直、昨日感じた燃えるような苛立ちは、すでに灯火ほども残っておらず、残された「燃え痕」がどんな形をしているのかはまだ分からない。その形に興味がないと言ったら嘘なのだけど、あえて見に行くほどのひたむきさは僕にはない。

何かをごまかすようにハンバーグを口に運ぶが、すっかり冷めていて美味しくなかった。

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