第4話 サングラス少女→ストーカー少女@学食
「……なあ」
「何かね、奉助さんや。今日のランチはいまいちだった?」
灰谷は僕の言いたいことに気が付かないふりをしてとぼけたことを言ってくる。
「いつもどおりの食堂の味だよ。値段の割に悪くないかき揚げうどん」
これで300円なら全然良い。
「うーん、私もそっちの方がよかったかな」
灰谷の前にはきゅうりとハムがたっぷり乗ったシンプルな冷やしラーメン(大盛)。季節外れもいいところだ。
「まだ4月だよ……一昨日の夜だって雪が降ってたじゃん」
「食べたいときに食べたいものを食べる! それが私の信じる道なのだが!」
かちかちとプラスチック製の箸を開け閉じしつつ、真面目な顔でアホなことを言うが、それ自体は本音なのだろうと思う。もちろん、食い意地が張っているのは悪いことではない。
「……話を本筋に戻すと」
僕が腕を組むのにあわせて、灰谷も一度箸を置いて居住まいを正す。
「はいはい」
「まだあの子見ているんだけど」
灰谷の後ろの方、四つほど離れたテーブル席からサンドイッチをぱくつきながらじっとこちらを見てくるサングラス女子。
「熱心なファンだねえ」
「……」
「悪かったって!」
僕のじっとりとした目線に耐えられなかったのか、すぐに灰谷は謝ってくる。
「でも、本当に分からないなあ。奉助に対して興味を持っているのは間違いないと思うけど」
人間嫌いのくせに感情に異常なまでに敏感な灰谷の言うことだ。その感覚は信頼できる。しかし、灰谷にもよくわからないというのなら僕なんかに分かるはずもない。ただ一つ言えることは――
「正直、煩わしい」
「うん、そうやって断言できるのは奉助のいいところだと思うよ」
「だが、面倒臭い気配がすごくするから関わり合いたくもない」
「うん、そうやって面倒くさがりなところも奉助のいいところだと思うよ」
からからニマニマと灰谷は笑う。僕の性格をよくわかっていらっしゃる。だから、僕も気楽にこんなことを言える。
「なのでどうしたら良いかご助言ください」
「対価はそのおにぎりだ!」
びしっと、僕が気まぐれに買っていたツナマヨおにぎりを指差す。
「……相変わらず食欲旺盛だな」
「いくら食べても太らないから、食べなきゃ損なのさ」
「栄養バランスには気をつけろよ。野菜もしっかり食べるんだぞ」
「ちゃんと、冷やし中華に野菜が入っているから大丈夫!」
「世界で一番栄養のない野菜こときゅうりさんじゃないですかー」
「それ嘘らしいよ」
「そうなの?」
……まあ、あまり口うるさく言うものでもないか。おにぎりをずいっと皿ごと献上すると、灰谷は実に嬉しそうにする。
「ほら。それで、アドバイスは如何?」
「簡単さ。まずはね……」
そう言いながらこちらにずいっと顔を寄せてきて、小声で秘策を託してくる。彼女の艷やかな髪の毛から、甘い花のような香りがするが特に気にするほどのものではない。
「……それ、より面倒臭いことにならないか?」
思わず、灰谷の提案にしかめっ面を返してしまう。っていうか秘策でもなんでもなかった。シンプル・イズ・ベストというほどのものではない、ただの直球勝負である。
「今の状況よりもマシじゃない? 放っておいてストーカーにならないとも限らないわけだし」
「……経験談?」
「ノーコメント」
その言葉と裏腹に、思い切り歯をむき出しにして、眉を捻じ曲げるその表情は実に雄弁だ。
「はあ……大学二年目初日にして厄介だ」
流石にげんなりして、力なくうどんをすする。気づけばもうすっかり冷めており、まあまあなうどんから美味しくないうどんにスペックダウンしていた。
「初日の朝から見たんでしょ? 本当にどうしたんだってくらいついてないね。流石にちょっと同情する。……そういうわけで、さっきの作戦には付き合ってあげるから、今日の四限目の後にでも済ませちゃおう」
「はいはい、お願いしますよ灰谷さん」
灰谷に対して適当に返事をすると、彼女はぼそりと面倒くさいことを言い出す。
「……おにぎりじゃなくて、名前で呼ばせればよかったかな」
勘弁してくれ。
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