国外追放された聖女は、隣国の王子と一緒に国を創る
綾月百花
プロローグ
国王と王妃不在の春の実り祭りのダンスパーティーが始まる。
聖女であるエリザベートは、楽しみ一つない、このパーティーに出席したくなかった。
けれど、ミミス王国のホタモス王太子の婚約者として、このパーティーに出席しなければならない立場だった。
国王様と王妃様は、エリザベートの聖女の力を信じ、この国の和平と繁栄を期待していた。
だが、エリザベートは、その期待に応える気は全くなかった。
エリザベートは異国の生まれだった。
聖女の力の開花は10歳の時だった。
干ばつが続き、作物が育たない。立ち枯れを起こしていた畑や農園を見て、エリザベートは慈愛の雨を降らせた。怪我人が出れば、小さな体で隣国との戦場にも足を運び、怪我人を治した。疫病が起きれば疫病を治し流行を抑えた。
エリザベートの聖女の目覚めと同時に、国は益々に栄えていった。13歳の時、その噂を聞きつけた隣国の王族に誘拐された。エリザベートは、誘拐されたことを悲しみ聖女の力を使わなくなった。
どんな脅しや嫌がらせにも耐えて、聖女の力を封印した。そのお陰でエリザベートには、聖女の力がないと判断された。
15歳の時、大金と引き換えに、ミミス王国に売られた。
ミミス王国に来ると、すぐに、王太子殿下と婚約させられた。
そこに、エリザベートの意思も希望も何も含まれていない。
住まいは王宮の中にある鉄格子のある牢屋の一つだ。
窓は無い。
最低限、簡素なベッドと古びたブランケットと小さなテーブルは置かれているが、プライベートはないに等しい。
トイレはかろうじて、囲いがあり、お風呂は夕方に大浴場に入ることを許されている。
必ず、騎士が見張りにつき、行動の制限があるので、罪人と変わらない生活をしているが、そんなエリザベートに、王妃だけは、表面上は優しく接してくれた。
王妃教育を行い。お茶会をしてくれる。
お菓子もケーキも出てこないお茶会は、味気ない紅茶を飲む時間だった。
全て、このミミス王国の未来のために。
どんなに煽てられても諭されても、戻るのは牢獄だ。
聖女の力を使う気持ちになれない。
いつも沈んだ顔のエリザベートに、王妃様はミミス王国にある貴族学校に通う許可を出してくれた。
そうして、エリザベートは貴族学校に通うようになった。
けれど、気分転換になると思っていた貴族学校では、殿下の婚約者として僻まれ、いつの間にかエリザベートの悪口を言う輩も出てきて、その悪口を聞く度に、エリザベートの心は壊れそうなほど傷つき婚約破棄していただきたいと思うようになっていた。
初めから、婚約者への愛情は微塵もない。押しつけられた婚約者だ。それはお互い様だったのかもしれない。
肝心の婚約者は、エリザベートに興味がないのか、優しさの欠片もないし、話した事も殆ど無い。
ホタモス王太子は女好きで、いつも傍らに女性を侍らせ、特に同じ聖女の力があるかもしれないと言われているエレナの事を気に入っている様子で、学園のガゼボでよく仲良くお茶を飲んでいる。
並んでお茶を飲むなら、まだ目をつむることができるが、二人は、明らかに抱き合っている。
婚約者のいる前だけではなく、全校生徒がいる前で、堂々と体を重ねていらっしゃる。
まったく恥じらいの無い恥ずかしい婚約者と結婚などしたくないのが事実だ。
ただいま国王様と王妃様は、国王の父上が病気で臥せっていると連絡が来て、お見舞いに行かれている。その間のパーティーだ。
エリザベートは王妃から贈られたたった一着の白いドレスを身につけ、パーティー会場に出向いた。
紅一つなく、装飾品もない。
見窄らしいと思われても、エリザベートはどうでもよかった。
実際は、エリザベートの本来持つ白銀の長い髪は血統の良さを現し、透明感のある黄緑の瞳は宝石のように輝いている。装飾品などなくても十分に美しい。
「偽物が来た」
「見窄らしい、痩せ細った幽霊みたいだ」
「気持ち悪い女だ。聖女では無くて悪魔か?」
「目を合わせるな、呪われるぞ」
……
…………
今日も次々に悪口が紡がれていく。
その言葉を聞くだけで、エリザベートの心は痛みを残す。
いつも見守るだけの騎士が、エリザベートがパーティー会場に足を歩入れると、左右から腕を捕らえた。
「何事ですか?無礼者!」
いきなり淑女の腕を罪人のように捕らわれ、普段、無口なエリザベートも、黙ってはいられなかった。
「エリザベート、そなたは聖女と偽り、我が妻になろうと王妃を誑かし、国を危険に晒した。従って、只今をもって、婚約は破棄する。罰として国外追放にいたす」
左腕に、エレナを抱えたホタモス王太子は、大声でエリザベートを断罪した。
「誠にありがとうございます。婚約破棄はとても嬉しゅうございます。国外追放は喜んでお受けいたします」
エリザベートは凜とした声で、ホタモス王太子に最上級のお辞儀をした。
「なんだと!生意気な偽聖女!さっさと連れていけ!」
「はっ!」
二人の騎士は、またエリザベートの腕を捕らえようとしたので、「触らないで」と強い力で、騎士二人に触れられない魔術を使った。この国で聖女の力は、今初めて使った。
エリザベートは一人でさっさと歩いて行く。
「エリザベート様、馬車にお乗りください」
今、聖女の力を見せつけられた騎士が、恭しく頭を下げた。
聖女の力を一度も使った事の無かったエリザベートは、偽物の聖女と言われていた。だが、確かに今、その力を見せつけられ、騎士は戸惑っていた。
エリザベートは、王宮の中をさっさと歩いて馬車に向かう。
「殿下、本当にいいのですか?」
戸惑った騎士が殿下に確認するが、殿下は「早く連れていけ」と怒鳴った。
パーティー会場が一瞬にしてシーンとした。
ホタモス王太子の腕の中で、エレナのクスクスと笑う声が聞こえるだけだ。
騎士は急いでホタモス王太子の指示に従った。
「愚かな王子よね。あなた達も可哀想。いいわよ、馬車でどこまで連れて行ってくれるの?」
「国境までと言われております」
「あらそう?このわたしを見殺しにするつもりなのね?好きにすればいいわ」
エリザベートは喜んで馬車に乗り、馬車は急いで走っていく。
馬車は三日走った。途中の休憩もなく、馬車の中に閉じ込められて食事も与えられなかった。野営はなく、馬を替えて三日走って国境で馬車から降ろされた。
馬車は、来た道を戻っていく。
辺りは、見渡す限り森の中。
それでも、エリザベートは、やっと囚われの身から自由を手に入れた。
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