第179話 アイカ!(3)

 と、なれば? 二国の皇帝健太の行く末は修羅。覇王への階段を昇る。昇っていくしかないのだ。


 彼は性懲りもなく、また愛する妻に平然と騙された訳だから。彼の顔の相は、みるみる魔王若しくは、鬼へと変化していく。


 そんな恐ろしい容姿へと変化した彼の許に。


「……閣下! 只今、逃走を図る。逃亡犯のウォンと、アイカが敗残兵達を率いりながら退却──。逃走している様子を発見したとの方が届きました」と。


 健太の許へとミライが供を連れて報告を届け歩み寄ってきたのだ。


「そうか。ありがとう」


 健太はミライの顔を見ると少し落ち着いたのだろうか?


 今の今迄、魔王の如き形相していた健太なのだが。今一番健太が寵愛をしているミライの顔を見ながらの報告を聞けば。先程とは打って変わり。和らいだ顔へと変化しているのだ。


 まあ、多分? 妃の顔を凝視して少しばかり安らぎに満ちた健太なのだろうと、思うことにして彼は、いつもの穏やか。柔らかい顔へと戻り。ミライへとお礼を告げると。


 今度は燃える。燃え盛る此の国の町の中で、火の粉を浴びながらも宙を、空を、眺め物思いに耽る。


 そんな主の様をミライは、一時様子を窺いながら待ち続けると。


 この世界にはない。異世界でしか販売をされていないルージュ……


 そう。彼女の王からプレゼントされたルージュで濡れ、艶やかに輝く、唇を開いて。


「……閣下、二人をどうします?」と。


 健太のことを見詰めながら問う。


「……ん? 二人をどうするって……。二人とも捕まえて民衆の前に晒して、今度は直ぐに首を落としてしまうつもりだよ」


 健太は苦笑を浮かべながらミライへと説明をする。


「はい。分りました。閣下。直ちに二人への追撃の兵を向かわせます」と。


 二国の皇帝健太から下知をもらったミライは、直ちにアイカとウォンへの討伐、追撃兵を向かわせると告げる。


「ありがとう。ミライ。よろしく頼むよ」


 健太は少しばかり寂しいような様子を、それとなくミライに見せながら。彼の最後の妃となるミライへと、最後のお礼と下知を飛ばしたのだった。



 ◇◇◇◇◇

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る