第177話 アイカ!(1)

「アイカァアアアッ!」、


「アイカァアアアッ!」、


「アイカさんは何処ぉおおおっ! 何処にいるのぉおおおっ⁉」、


「……何処にいるんだよぉおおおっ⁉」と。


 二国の王健太は声を大にして、自身の妻の名を叫び。叫んでいるのだ。


 元此の国の女王だった女性。アイカの予想を反して彼は。彼女の夫だった少年王健太は、炎が燃え盛る此の国の首都だった町の中を一人、怪鳥ミュウイに跨り。騎乗をしながら。上、頭上。側面、左右から炎で焼け崩れてくる家の屋根や壁──。


 それも、炎を纏った木の破片の落下物を上手く、器用よく除け、避けしながら。町中を必死に駆け回るのだ。自身の物。女。妻の名を彼は未だ夫だと思っている。自負しているからアイカのことを名指しで叫びながら探索をしている様子が窺がえる。


 まあ、健太。こんなにも自身の顔色を変え。血相を変えてまでも。己の妻を炎で燃え盛る危ない町中を探索するぐらいならば。


 先ずは、此の国の神殿へと見にいき。彼女がいるか、いないか、を確認してからでも遅くはないのでは? 皇帝閣下に告げたい衝動に駆られるところではあるのだが。


 実は健太は、もう既に神殿へとアイカを救出──迎えにいったのだ。


 でも、皆が知っての通りで、ウォンの強引な迄の自分への愛情。NTR。寝取られる行為に対して、アイカは最終的に折れてしまい。自身の身を、裸体を全部捧げてしまい。また不倫、浮気をする悪しき行為。夫健太を裏切る行為をしてしまい。


 もう二度目は無いだろうと、自分の中で諦め。此の国の神殿を捨て、己の身を死から守ってくれるとウォンが囁くから。強引な彼に従い。神殿も町も捨てて、ウォンと敗残兵を伴い。敗走。逃走の最中なのだが。


 二国の皇帝健太は、そんなことなど知らない。と、いうことはないか?


 二国の皇帝健太は暗君ではない。初代の皇帝陛下だから。




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