第143話 主、王の前にて……(8)

『えぇ~?』


『ちょ、ちょっと待ってよ。殿~』


『御方さま~』


『旦那さま~』


『殿下~』


『皇帝陛下~』


『お父ちゃん~』


『あんた~』


『パパ~』と。


 最後の複数の妃、妻達は、この場の雰囲気と言うか? ここにいる。集っている者達皆は、二国の王である健太の妻、妃であり。『お母~』、『母ちゃん』、『おっかさん』に、『ママ』と、安易に呼ばれる身分、身の上の者ではないのだから。流石に自身の主、夫、王である健太のことを、普通の家庭のような呼び方で呼ぶのは、どうかと思うのだが?



 まあ、それぐらい健太は、妃達から見れば、大変に話し易く、気を遣わないですむ、主、夫、皇帝陛下なのだ。なのに、彼が? 自分達の主が、大変に恐ろしい者へと凶変──。


 それも? 武と力、個々の能力が高いと定評がある女王アイカが苦し紛れ。苦しさに耐え忍べなくなり。自身の両手を使用して、健太の細い腕を掴み握り。己の首に巻きつき握る健太の両手の掌を強引に引き離そうにも離れない、どころか? ジャポネの女王シルフィー。


 もう一人の自分自身であるシルフィー自身も、二人の許に慌てて近寄り。健太の二の腕を掴んで、女王アイカの首から掌を離そうにも。火事場の力の如き、力強さで、健太は二人の制御に耐え切ってしまうから。


「あがっ、うぐっ、あう、うううっ、く、くるしい……」と。


 女王アイカの美しい紅の瞳から粒が。粒が垂れながら。悲痛、苦しそうな声音での声が漏れてくるのと。


「あなた。あなた。お願い。お願いします。私(わたくし)を。もう一人の私(わたくし)にお慈悲を。お慈悲をください。あなた~。お願いします。お願いします」と。

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