第142話 主、王の前にて……(7)

「ちょ、ちょっとあなた~」と。


 二国の男王健太へと慌てふためいた声色で声をかける女性……。



 そう、ジャポネの女王シルフィーなのだが、彼女が己の主へと声をかければね。


「……ん? あれ?」


「……どうした?」


「シルフィーは?」


「女王は?」


「お母さまは?」


「母上さま?」と。


 あちらこちら、至る所から騒めきが、この王……。もう既に、皇帝陛下と言っても過言ではない王を中心とした左右、両翼に並ぶ女王の椅子が二つ仲良く並ぶ謁見の間から聞こえてくるのだ。


 今の今迄は、他人のこと……。



『夫婦喧嘩は犬も噛まない』と、言ったことわざがあるくらいだから。男王健太と女王アイカの口論──。いくら健太が一方的に、浮気をした女王アイカを荒々しく叱る。諫める行為をしても。この場に。謁見の間に集いし。優艶、艶やか。煌びやかで美しい。各種族の選りすぐられた淑女、女性、少女達……。



 そう、二国(ふたこく)の皇帝健太の妻、妃達は、皆素知らぬ振り。他人顔をしていたのだが。流石にジャポネの女王シルフィーが、己の美しい顔の相を歪め、顔色を変えながら。


「あ、あなた~。わ、私(わたくし)を~。私(わたくし)自身を殺す~。殺害するつもりなのですか~」と。


 健太の細い二の腕を、自身の華奢な掌で掴んで握り。制御しながら問う。問えばね。


「煩い! 離せぇえええっ! シルフィー! あっちへいっていろ!」と。


 まあ、こんな感じで、自分達の主が荒々しい言葉を吐く。放つものだから。流石にこの場にいる妃達皆も、動揺と困惑を始め、三人の様子……。二国の男王健太と此の国の女王アイカとジャポネの女王シルフィー三人の様子……。


 周りにいる妃達皆は、今迄は冗談。本気で己の優しい主、王が。妃に妻に手をかけることなどしないと、たかをくくるところがあったのだが。自身の主のことを最も良く知る妃が、自身の顔色を変えながら健太がアイカにする。おこなっている。荒々しい所業を制御、止めようと試みているのが。皆には目に映るから。これは只事ではないと、妃達皆は思い出し。注目、観察を始めだすのだ。

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