第45話 ユーゴとの再会
「私の愛し子、可哀想に。聞こえている?」
一瞬意識を失っていたのだろう、目を閉じていたサラのすぐそばに、真っ白な鳥が一羽現れていた。
「……アフロディーテ……さま?」
「そうよ、もうすぐユーゴも来るわ」
「ユーゴが?」
ユーゴが来る、その言葉でサラの瞳に希望が見えた。
「私はこの姿でしか来られなかったから、拘束を解くことはできないの。いい? 今からケサランパサランの姿に戻すから」
「でも……、またこの姿に戻れますか? ユーゴの妻として、サラとして」
アフロディーテの化身である白い鳥は大きく頷いた。
「大丈夫、必ずサラに戻れるわ。だからほら、早く!」
そう言うと、辺りは眩しく金色に輝いてサラの姿は無くなって、そこには柔らかな紐だけが残った。
「モキュッ」
ケサランパサランと白い鳥は、炎の僅かな隙間を縫って窓から外へ飛び出した。
熱い室内から、外のヒヤリとした空気に触れた時、モフはスウッと息を吸い込んだ。
「さあ、炎が燃え移ると危ないわ。あちらの森の方へ!」
「モキュー!」
白い鳥とモフは、家の周りを囲む湖を越えて森の入り口へと移動した。
ホッと一息ついたところで、ゴオッという音と共に家は大きく燃え盛った。
その時、向こうの側の森から飛び出す人影が見えた。
「サラ! サラーっ!」
湖の淵から家の方を向いて、悲痛な声でそう叫んでいるのは、長い濡羽色の髪を持つヒイロだった。
顔や頭から血を流しているのにも関わらず、杭に繋ぐ舟を出そうとしている。
「ダメよ! あちらへ行ってはだめ」
「モキュウ……」
ヒイロは燃え盛る家に向かってサラの名を叫びながら、とうとう湖の中に浮かぶ小舟を出した。
「モキュ! モキュー!」
「しっかりしなさい! あの者は愛し子を傷つけたわ。ユーゴがもうすぐそこまで来ているのよ!」
「モッ!」
ケサランパサランのモフの身体は小さいから、何とかヒイロの方へと向かおうとするのを、白い鳥は行かせまいと
その時、サラを呼ぶユーゴの声が聞こえた。
「サラっ! サラーっ!」
「ピィー……ッ!」
アフロディーテの化身である大きな鳥の鳴き声を目指して進んだユーゴは、白い鳥に嘴で掴まれたケサランパサランを見つけた。
「サラ⁉︎ モフ?」
すぐに地面に跪いたユーゴは、急いで白い鳥に掴まれたモフを手に包み込んで、もう逃がすまいとした。
「モキュー!」
手の中で何故か暴れるモフに違和感を感じて、ユーゴは手を少しだけ緩めた。
そこから飛び出したモフは、アフロディーテの化身である鳥に何か訴えているようだ。
「ユーゴ、あそこの湖に小舟が浮いているんだけれど、ヒイロが居るわ。この子がまだあの家に居ると思って向かっているの」
ユーゴは急いで湖の方を見た。
するとゴウゴウと燃え盛る浮島の家に、何とか近づこうとする小舟を見つけた。
そこに乗っているのは濡羽色の長い髪の男。
「あなたが行かなければ、この子がヒイロを助けに行こうとして大変なのよ」
よく見れば、また少し暴れるような素振りのモフが、白い鳥の嘴に掴まれていた。
「サラ……、アイツを助けて欲しいのか?」
「モキュウン……」
「……分かった。必ずここで待っていろ」
そう言って、ユーゴはその場を駆け出した。
あっという間に湖の淵までたどり着くと、小舟のヒイロに何か大声で叫んでいるようだ。
燃え盛る炎が木の家を燃やす音で、何を言っているのかは分からないが、小舟のヒイロがユーゴの言葉に耳を傾けているのは感じ取れた。
「モキュウ……」
「だめよ、愛し子が行ってはだめなの。ユーゴに任せなさい。愛し子はユーゴの妻なのだから」
「キュウ……」
モフにだって分かっていた。
ヒイロの元に行くことは、誰のためにもならない事は。
ケサランパサランがサラの正体だとバレれば、ユーゴと居られなくなるかも知れない。
それに、嫉妬深いユーゴだって他の男を庇うサラをどう思うのか。
「モキュウ……」
「大丈夫。ユーゴはやる時はやる人間よ」
やがて、浮島の家は燃え尽きてしまった。
ユーゴは小舟を岸に寄せさせて、そこに乗るヒイロを舟から降ろした。
こちらからは後ろ姿しか見えないヒイロは、もう反抗する素振りを見せることなく、大人しくユーゴの手によって縛られている。
しばらくすると、森の中から多くの騎士達が現れた。
騎士達は先程家から逃げ出した二人も捕縛し、アジトに居た盗賊たちも全員捕まえたようだ。
ヒイロを部下に預けたユーゴは、一目散にモフの元へと帰ってきた。
「モフ! サラ! 怪我はないのか? いや、血が出てるじゃないか! 何処を怪我したんだ⁉︎」
「モキュウ……」
「女神よ! 早くモフを元に戻せ! 怪我をしているんだ!」
モフを優しく手に包み込んだままで、白い鳥に向かって吼えるユーゴ。
「もう、煩いわね! 誰のおかげでここまで来れたと思ってるのよ! さあ、愛し子、この煩い男の為に元に戻っておあげ」
パアーッと煌めく金の粒が消えるのを、ユーゴは待ちきれずに手を伸ばす。
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