最終話 もう遅い!

 あれから数ヶ月が経つ。


 ボクはどうにか大学を卒業し、ウェブサイトをデザインする会社に入れた。ユキヤと同期である。


 アキホさんは、セーナさんをすっかり気に入った。

 ちょくちょくウチに来ては、洋服や化粧品を工面してくれる。


 おかげで、セーナさんは着替えに困っていない。


 また、セーナさんもウェブデザインの職を得た。

 バイト扱いではあるが、ボクより一ヶ月早く仕事をしている。


 知識はボクのほうがあり、稼ぎも高い。


 とはいえ、セーナさんの飲み込みは異様に早かった。

 すぐに追い越されるだろう。

「迷惑をかけたくない」覚悟が、ボクより高かったのだ。


 ボクはまだまだ、甘ちゃんだな。



 充実した毎日である。



 そんな状態からのメールだ。


 

 宛先は、ボクのアカウントを消した会社から。


 ヘッドセットのホコリを払い、再度装着してみる。

 すると、音声データが。


『我々は、ゲームの運営です。突然のメールで驚かせてすみません。大事な話があって、ご連絡いたしました』

 

「どういうことですか?」


『実は、セーナ様をナンパしていた人物のアカウントを、永久停止することが決定しました』


 その人物は運営の関係者の地位を悪用し、やりたい放題してしまったらしい。


 おかげで、ゲーム世界は崩壊したという。


 ナンパヤロウはその全責任を負わされ、財産没収の上に解任、莫大な借金を背負わされる羽目になった。

 今でも裁判中で、毎日のように出資者に土下座しているという。


『この度の不祥事、まことに申し訳ありませんでした。すべては、我々の不手際によるもの。そこで、完全無料でお客様たちに、もう一度我がゲームで遊んでいただこうと』


 実際、ボクタチのような目に遭った被害者は、一〇〇〇人を超えるらしい。


「そんなにたくさんの人が」


『被害者全ての方に、このメールをお送りしております。いかがでしょう? もう一度、ゲームを遊んでいただけますか? 今なら、大量の特典を進呈いたしますが』


「戻らないと、どうなります?」


『実は、このゲームは異世界そのものだったのです。誰も戻らない場合、世界自体が崩壊いたします』


 話に出ていたナンパヤロウも、神様だったんだって。


 しかし、絶滅の危機に瀕している、と。一部の神が起こした横暴な態度のせいで。


 悲しげに、運営は語る。

 

 とはいえ、答えは決まっていた。




「もう、遅いです」




 ボクらには、もう次の日常がある。

 

『承知しました。では、ごきげんよう』


「ごめんなさい」


『いいえ。自業自得なのです。短い間でしたが、ご利用ありがとうございました』 


 運営との連絡が終わると、ヘッドセットが砂のように消えていった。


「ごめんセーナさん。キミの帰る場所が、なくなってしまった」


 ボクが言うと、セーナさんがボクを抱きしめる。


「わたしの帰る場所は、ここです」


(完)

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三日かけて作成した美少女キャラで遊ぼうとしたら、「ネカマは死ね」とゲームから追放されました。現実で世話します。ボクを追放したプレイヤーはアカウント永久停止になりました。 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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