第37話 従業員名簿
諸戸逮捕の朝。
俺たちはいちど研究所に集合したあと、現場で刑事たちと合流した。
俺とセツは、顔を隠すためと防御のために、フルフェイスのヘルメットを被っている。
セツなんかフルフェイスのヘルメットに赤い革のツナギだから、まったくライダーにしか見えない。刀を携えたライダーだ。子供に人気出そう。ちなみにセツの刀には刃が入っていないそうだ。刀の形をした鋼の棒だ。
いっぽう俺のほうはそれほどかっこよくない。いつ服が破れてもいいように安物のジャージだった。足も、靴を無駄にしたくないからサンダル履き。ヘルメットとバランスがとれてないだろうとはわかっていた。だが、世の中コストってものがある。
ヘルメットは被ってないが、博士も一緒に来ていた。
諸戸の能力が透明化だった場合でも、博士の右目なら見える可能性があったからだ。
刑事たちは四人。特殊な装備は持っていない。
あいつらが次元接続体の力を侮っているのは確かだ。
諸戸が俺やセツみたいな能力の持ち主だったら、あっという間にふっ飛ばしちまうだろう。まあ、それに対する用心のために俺たちが出張ってきているわけだが。
諸戸の住まいは市内の高級マンションだった。その八階。最上階の角部屋だ。
刑事たちとマンションの管理人、それと俺たちに別れてエレベーターに乗る。
俺たちの目の前で、年配の刑事が嫌味ったらしく舌打ちしていった。
気持ちはわかる。
俺たちみたいな珍奇な連中の力なんてアテにしたくはないだろう。こういうタイプには実力を見せないとなかなかわかってもらえない。それを披露する機会が訪れるか。
じつのところ、すでに諸戸の車がないことは確認済みだった。諸戸がいない可能性は高い。
俺たちはひと塊になって諸戸の部屋の前に来た。
刑事が呼び鈴を押す。しばらく待っても反応はなかった。
刑事のひとりが頷くと、マンションの管理人が鍵を開ける。
「諸戸さん! あなたには拉致監禁、遺棄、未成年者略取の容疑がかかっています!」
「諸戸亮吾!」
刑事たちが一斉に部屋へ踏み込む。俺たちも身構えた。
しかし、そのまま待つこと数分。なにごとも起こらない。
部屋のなかから、年配の刑事が顔を出した。
「諸戸はいない。あんたらは帰っていいよ。またあとで協力を要請する」
しっしというふうに手を振る。
雑な扱いだ。でも用は済んだ。もう俺たちにできることはない。
刑事の言葉に博士が頷いた。
「わかりました。なにかあれば呼び出してください」
完全に肩透かしを食らった形だが、怪我人がでなかったのは幸いだろう。俺たちは現場を後にした。
帰りにイサムのなかで諸戸の行方を話しあってみたが埒があかない。俺たちには手がかりがないのだから、井戸端会議みたいななもんだった。
研究所に戻ると、ロボが飲み物を作ってくれた。
今日は一日、緊急時の待機にあてる。それが博士の方針だった。
テーブルの上にヘルメットを置き、ソファにくつろぐ。
俺はコーヒーをひとくち啜った。
「ちょっとは痛い目にでもあえば、俺たちへの態度も変わるだろうけどな。現状はキテレツチームにしか見えないだろうけどよ。むかつくが、あんまり腹立てると万筋服が出ちまう」
ツナギ姿のままでセツが言った。
「難しいな。敵を即座に無力化すれば簡単なことだと思われ、怪我人が出れば無能と罵られる。次元接続体の力は極端だからな」
そのまま警察無線を聞きつつ、テレビを見ながら無為な時間を過ごす。
午後になって動きがあった。博士がモニター室へ呼ぶ。
「アクロスザスター店舗の捜索も行われた。写真つきの従業員名簿が入手できた」
モニターにデータが表示される。
坂上蒔絵(さかがみ・まきえ)
もうおなじみだ。電子機器を操る女。
川辺夕(かわべ・ゆう)
細い顔の男だった。俺は思い出した、こいつが麻痺の男だった。
烏羽鉄火(からすば・てっか)
エラの張ったたくましいあごをした男だ。
江藤耀司(えとう・ようじ)
女みたいな顔をした美青年だった。
こいつらふたりのうち、どちらかが衝撃波、どちらかが透明化だろう。
とりあえず、これで敵の名前と顔はわかったわけだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます