第22話 防犯カメラ
俺は言い訳を考えながら研究所に戻った。
初めてぶち当たった事件らしい事件だったのに、なにもできなかった。
情けない思いはある。
だが当然といえば当然だ。俺には追跡能力も捜査能力もない。犯人の姿が見えなければイサムも力を発揮できないだろう。
俺にはせいぜいケンカを止めるぐらいのスペックしかないのだった。万筋服には役不足かもしれないが、それが現実だ。
世ノ目博士が出てきたところで、すぐ報告する。
「現金輸送車が襲われた現場に出くわしたんだけど……」
「なに?」
博士は寝ぼけたような顔になった。俺は続ける。
「犯人たちは完全に姿をくらましてて、俺たちにはなにもできなかったよ……」
博士はしばらく沈黙したあと、疑い深げに口を開いた。
「それは本当に本当かね?」
「ああ。じきにテレビかネットでニュースが流れると思うぜ」
「わかった。モニター室へいこう。来てくれたまえ」
連れ立ってモニター室へ入る。名前の通り、壁一面にモニターが並んでいる部屋だ。
博士が聞いた。
「場所と時間ははっきりしてるね?」
「ああ。デパート前の交差点、夕方四時くらいだ」
「新城町(しんじょうちょう)四丁目五の三、周辺の防犯カメラを」
博士が宙に向かってつぶやくと四つのモニターが反応した。街路と道行く人々が映しだされる。
そのうちのひとつには俯瞰した角度で、潰れた車両と交通整理にあたる警官が映っていた。事件現場のいま現在が映っているに違いない。俺はもちろん驚いた。
「ええっ! 街頭の防犯カメラがここで見られるのか!?」
「まあ、いろいろツテがあるのでね……。イサムも見ていてくれ。午後四時ごろの録画」
四つのモニタの画像が乱れ、続いてなんの変哲もない平穏な風景が写った。まだ事件は起きてない。
俺たちが数分見守っていると、ひとつの画面で変化があった。
とつぜん、道路へ黒尽くめの人影が飛びだす。衝突寸前に現金輸送車が急停止。直後、車のボンネットが潰れた。人影は目立ったことをしていない。
俺は目がおかしくなったような気がしてまぶたをこする。そのあいだにも事件は進行していった。
車から警備員がふたり降りてきた。黒尽くめがもうひとり現れる。そいつは警備員の頭に触れただけで、ふたりとも倒してしまった。
黒尽くめがさらにひとり、画面外から入ってきた。現金輸送車の後ろから現れ、大きなケースを抱えていた。そして三人は画面外へ消える。
俺は言った。
「目撃者の話じゃ四人組だったらしいけど」
数秒後、別のモニターに黒尽くめたちが映った。道路を横からとらえていた画像に、目出し帽、黒尽くめの四人組が走っていく様子が流れた。
「なるほど、四人だね……」
博士はそう言って次の指示を出した。
「新城町、三丁目、四丁目の防犯カメラ、すべて。午後四時の録画」
新たなモニターが情景を映す。
天井からイサムの声がした。
「うぇーい、四人組、ひとりは女だぜーい」
俺は感心した。
「そんなこともわかるのか。こっちじゃ全員男に見えたぜ」
「胸は目立たなかったからな。画像は粗いがそれぐらいならわかるぜー。四人の身長と推定体重も言おうかー?」
博士は額をこすりながら言った。
「これから周辺地域の録画にイメージ検索をかけて探してみるが、しっぽをつかめるかどうか怪しいな」
博士はため息をつきながら続けた。
「なぜならこれは常識の範疇を超えた事件だからだ。ひとめでわかっただろう。武器も振るわず車を潰し、触れただけで人を無力化。現金輸送車の後部ハッチは電子錠だ。それをこともなげに解錠し、数十メートルほどで完全に姿を消す」
「お手上げなのか?」
俺の問いに博士は意外な反応をした。首を横に振って否定したのだった。
「警察任せではお手上げだろう。だが、我々は違う。いまからこそ、いまからこそ我々の仕事の本番だ。ついにこのときが来てしまった」
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