第23話 次元接続体
俺は眉根を寄せた。
「ぜんぶ話してもらわなきゃわからねぇぜ」
「たしかにすべてを話す時期だろう。こんなに早くくるとは思わなかったが。まずは今回の犯行についてわたしの推測を述べよう」
ここで博士はデスクからリモコンを取りだした。それを操作すると事件発生時の画像が映し出された。人影が飛び出し、車のボンネットが潰れる。
「まずこれだ。これは見ため通りの力を使っていると思われる。念動力か衝撃波か、手を触れずに破壊する力だ」
「……」
突拍子もない話に博士の正気を疑う。横顔を窺うがしごく真面目な表情だった。博士は落ち着いて続ける。
「次、警備員ふたりを倒した人物。電撃か麻酔か、この人物は人に触れただけで気絶させる能力を持つ。最初の人物の念動力か衝撃波で襲わなかったのは、このグループが殺人を望んでいないからだろう。あの力を人に振るったら死んでしまう」
「三人めは? 箱を持ってきただけだ」
「現金輸送車の後部ハッチは電子ロックされている。キーは使われていない。ハッチを怪力でこじ開けたか、電子機器を自在に操作できるか、どちらにしろやはり特殊能力を持っている」
「なるほどねぇ……」
「最後に、犯行グループはこつ然と姿を消したが、その仕組は次のどれかだ。全員が透明になったか、空を飛んだか、瞬間移動したかだ。姿を消したタイミングからして瞬間移動の可能性は低い。透明化がもっともありうる」
博士は大真面目でそう言い切った。小学生並みに自由な推理だった。どこまで本気なんだか。俺は頭を抱えた。
「博士は真面目なようだけどさ、そんなことがまかり通るのか。常識ハズレもいいとこじゃないか。そんなことができるんならやつらはまるで……そう、まるで超人じゃないか」
博士の眼帯がぎらりと光ったような気がした。
「そうだ。彼らは超人だ。公式には『次元接続体』という」
「じげん……せつぞくたい……?」
「その身に多次元接続を有し、ほかの次元の物理法則、ほかの次元のエネルギーをこの世界に顕現させる。次元接続体とは漏れなく異能者であり、ひとことで言えば、まさしく超人だ」
「そんな……超人たちがいきなり降ってわいたってのか。信じられないよ」
「信じられないもなにもない。いきなりでもない。この地域では次元接続体が増加している。だから我々がいる。君の目の前にも次元接続体はいる」
俺は息を呑んだ。
「それはつまり……」
「わたしもだ。わたしも次元接続体であり、セツくんもそうだ」
セツも次元接続体だって! どうりで強すぎると思った。
さらに博士は俺を指差した。
「そして……君もだ」
「なにぃっ!」
俺が次元接続体!? いや、たしかに万筋服という超人の力を持ってるし、自覚はないけどそういうことを含むのか、次元接続体ってのは……?
混乱する俺に、博士は説明を加えた。
「厳密いうと、君は次元接続体ではない。君の持つ万筋服を作ったAIを作った人物が、次元接続体だったのだよ。次元接続体のなかでも工作者と呼ばれる。現代科学の常識を超えた新成物を作りだすタイプだ」
「つまり、俺の爺さんが次元接続体だったのか……」
「だが万筋服は君と一体だ。君は次元接続体ではないが同等の能力を持っているといえるだろう」
「いったいなにがどうなってんだか……」
「わたしが思うに、君が万筋服を受けっ取ったときからこうなる運命が始まったのだろうと思う。運命論者でもないがね」
博士は両腕を広げた。
「見たまえ、君は次元接続体関連のどまんなかにいる。君は年の割には柔軟な思考力の持ち主だ。万筋服を受け入れ、セツくんの強さを受け入れ、ここのロボたちやイサムを受け入れた。だが、普通はもう少し疑問に思うはずだがね」
「俺だって疑問には思ってたよ。ただ万筋服のこともあるし、先端技術ってすごいのかなって」
「ここのロボもイサムもほかの物も次元接続体の新成物だ。わたしは工作者でね。ここは研究所と名乗っているが、なんの研究所か疑問に思わなかったかね?」
「まあ、細かいことを詮索して仕事を失うのも面倒だったんで黙ってた……」
「ここは……『次元接続体犯罪抑止研究所』だ」
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