第13話 怪力のメイド

 こいつらとどこまで付き合ってやったものか。さっさと帰ったほうがいいんじゃねえか。

 そう考え始めたとき、えひめが道路の先を指差した。

「せっさん来た!」

白いワゴン車がカーブを曲がって現れたところだった。車は俺たちの前まで来て止まる。

 間を置かずに運転者が降りてきた。そのカッコに度肝を抜かれる。アッシュグレイの髪をしたミニスカメイドだった。ロボ、博士と続いて今度はメイドか。

 世ノ目博士が声をかける。

「セツくん、すまないね、予定が違ってしまったよ」

「いつものことですから」

 ミニスカメイドは車のバックドアを開けるとロボを片手で抱えて放り込んでいく。

 そんなに軽いのか、あのロボ。

 ちょっと興味を引かれて手伝ってやろうと、俺も一体のロボを持ち上げようとする。

 重い。人並みかそれ以上あって、簡単には持ち上がらない。

 うんうん唸る俺を尻目に、メイドはやはり片手でロボを車へ放り込んでしまった。とんでもない怪力だ。俺は思わず聞く。

「もしかしてあんたもロボなのか?」

「そんなわけあるか。目が節穴もいいとこだな」

 無表情でそういう。可愛い見かけのわりに愛想がない。

 横からえひめが取り繕うように言った。

「せっさん、この人が例のおじさん、特異点スーツの」

 メイドは俺を一瞥した。

「そうか。つきあいが長くなるかもしれないな。万頼(ばんらい)セツだ」

「釘伊丈だ……」

えひめが弾んだ声で言う。

「せっさんはすごいんです。なんでもやってくれるんですよ、それでちょう強いし! すごいんです!」

「それだと逆にすごさがよくわからないな……。制服がメイド服っていうのも説得力にかけるし……」

 セツが唇を尖らせる。

「うちの服装は自由だ。メイド服は単にわたしの趣味だから気にするな」

「う、うぅーん、そうなんだ……」

 また怪しいのが出てきたな。

 世ノ目博士が口を開く。

「自己紹介も済んだのなら行こうか。丈くん、構わないね?」

「ああ、いいとも。同行しよう」

 こいつらの怪しさは満点だが、好奇心が疼いた。どうせ家に帰ったところでなにもないし。

 俺たちはワゴン車に乗り込んだ。

 運転手はメイドのセツで助手席に世ノ目博士。えひめと俺は後部座席だ。

 車をスタートさせながらセツが言う。

「直接研究所へ行っていいんですか? このおっさんを乗せたまま」

 世ノ目博士が答える。

「ああ、構わない。悪人になれるような男じゃない」

 出会ったばかりでわかったようなことを言う。俺はちょっとカチンときて言ってやった。

「アジトを突き止めたらそこで暴れるかもしれないぜ?」

 世ノ目博士が初めて微笑んだ。

「そうなってもセツくんがいるからな」

 俺は仰天した。このメイド、そんなに強いのか。万筋服を着た俺の力を目の当たりにしても渡り合えると踏んでいるとは。セツに直接聞いてみる。

「キミ、そんなに強いの?」

「まあな。正面から当たったらまず負けない」

 セツは俺の力を見ていないはずなのに即答だ。凄まじい自信だ。こりゃすごいのかもわからん。

「おじさんもなかなかですよ!」

 えひめが俺の肩をパーンと叩く。

「いってぇな! やめろよ!」

「はぁはぁ……」

 後ろの騒ぎを聞いたか、前を向いたままセツが咎めてくる。

「お嬢様を籠絡したからといっていい気になるなよ、おっさん。まだ世間知らずなだけなんだからな」

「そこまで言われることか」

 世ノ目博士が難しい顔でブツブツ呟いた。

「えひめがこんなに早く懐くとは。父、嫉妬」

「大丈夫かな、こいつら」

 俺は声に出して言ってやった。なのに誰も気にしていない様子だった。

 車はそれほど長く走らなかった。街外れの森へ入っていく。ほどなく一軒家が目の前に現れた。

 シャッターのついたガレージがある四角い二階建て。門の奥にはけっこうな広がりがある。金持ちそうではあるが、まだ普通の住宅といえる造りだ。

 門が自動で開き、俺たちのワゴン車は広い庭へ入っていった。

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