第11話 謎の親子

 走ってくる女子高生。その後ろにはマスクとサングラスをつけた三人組が続く。違和感を覚えるのは、三人とも妙にキレイなフォームで走っているところだ。そんなことに感心している場合じゃねえか。万筋服の出番だ。

 俺は走り出しながら、現場に焦点を絞って怒りを醸成していく。

 不埒な奴らだッ!

 女の子ひとりを三人で追いかけ回してなにをするつもりだッ! 誰であろうとも、どんな理由があろうともッ! 人をいたぶるようなことッ! 俺はッ! ゆるさんッ!!!

 怒りで体が熱くなり、着ていた服が破れる。

 俺は万筋服に包まれていた。

 強化された脚力で二飛び。追手の三人組に肉薄し、いちばん近かった男の胸を殴りつける。

 男は叫びもあげずに大きく吹っ飛んだ。

 やばい! もっと手加減しないと!

 だが理性のブレーキより早く体が動いてしまい、俺は残る二人も打ち倒していた。

 抵抗などなく、三人は倒れたままだった。

 ひとりは片足が、もうひとりは胴体が、折れたマッチ棒のように曲がっている。二人とも、うぃんうぃんと変な音をたてて痙攣していた。やばい、これは重傷間違いなしだ……。

 やばい、やりすぎた、やばい、どうしよう。

 呆然と立ちすくんでいると、逃げていた女の子が駆け寄ってきた。思いがけぬことを口にする。

「あーん、みんな高いのにー! 修理代がー!」

 少女は腰に手を当てて俺に向きなおる。

「おじさん、やりすぎ!」

「あ、ああ。やっぱ救急車呼ばないとまずいよな。君、呼んでくれない」

「そうじゃないの!」

 女の子は近くの男に向かってしゃがみこんだ。帽子、サングラス、マスクを剥いだかと思うと、無表情な顔まで外してしまう。メカニカルなフェイスがあらわになった。

「みんなロボ!」

「う……そ……」

 そっかロボか! うぃんうぃんていうのもモーター音か! 走るフォームが妙にキレイだったのもロボだったからか! 安心した!

 いや待て。

 ほっとしたのは本心だが、いろいろ腑に落ちない。いくらロボットが発達したからといっても、こんな一般人みたいな子がロボを持てるのか。見たこともないほど精巧だし、それを三体も引き連れて歩くなんて。常識に収まるレベルじゃない。

 それを言ったら俺の万筋服も同じかもしれないが、まあいろいろ納得できるものじゃないだろう。まるで俺のまわりの宇宙が変貌してしまったようだ。

 俺は当然の疑問を口にする。

「これはおまえのロボットなのか。なんで追われてたんだ? 確かに助けを求めたよな? 説明してもらおうか」

「えーっと、それは……。あっ、お父さんから!」

 女の子はセミロングの髪をゆすって俺の背後に目をやった。

 俺も振り返る。

 薄暗がりのなか、白衣の長身痩躯がすぐそばまで来ていた。なんちゃら博士って感じだ。

五十は過ぎているが六十には達していないぐらいか。

 近づくとわかったが隻眼だった。右目に金属製の眼帯をしている。

 博士っぽい男はニコリともせず言った。

「娘がお世話になりましたな」

「いやなに。いったいどんな事情があって……」

 ここはカッコよく決めたい。ヒーローの醍醐味だ。と、思っていたら。

 突然、ぬるりとした感触が体を包む。続いて寒気。素っ裸だ! 万筋服が消えた!

「きゃっ!」

 少女の視線が刺さる。

 きゃっとかいいながら、身を乗り出して俺の股間を注視しやがる。

「ちくしょう!」

 俺は股間だけはなんとか隠しながら走り出す。

「ちょ、ちょっと待っててくれ! そこに着替えがあるんだ!」

 変身する前に投げ捨てたリュックのもとへつき、大急ぎで服を着る。パンツもはいた。

 まったく人生思うようにはいかない。

 もうカッコもつかないけど、事情を聞かなければならなかった。おヌードを披露してしまって気まずいが、二人のところへ戻る。

 女の子が言いやがった。

「わたし、大人の包茎って初めて見ました!」

 屈託なく言われるとマジで傷つくもんだな。

「皮被っててわるかったな! 包茎じゃないのはいっぱい見てるのかよ!」

「な、生はないですけど! ネットとかで! いや、嘘です見たことないです! おじさんのが初めてです!」

 女の子は父親に睨まれて慌てて訂正する。

 俺は言った。

「まあいまはどっちでもいい。それよりあんたらのことだろ」

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