09 第一印象:ムラムラします!!
クリスとアレンが何時も会っている道の上。
そこには1人の男が居た。
「君が、クリスと言う子か」
「は、い!」
その男は
背丈は元より、圧巻されるのはその肉体だろう。
鍛えに鍛え上げられた筋肉の鎧は、大きく、それでいて引き絞られている。
その上全身に刻まれた戦闘によって付いたであろう傷跡は、その肉体が飾りで無い事を示す、男の勲章だった。
しかも事も無げに背中にしょっている大剣など、人の身長ほどの大きさで、常人ならば持ち上げられるだけで賞賛されて、振り回すなど、とても、とても、と言ったレベルの代物だ。
きっと、ドラ〇ン殺しとか、そんなカッコイイ銘があるに違いない。
それに加えて漂わせる雰囲気の鋭いものと来たら!
もしも色んな人間に、この男を一言で言い表すのなら?と聞けば、一番多く返って来る答えは【戦士】だろう。
そんな雄々しい男、ルーク・ルヴィニ――アレンの伯父がクリスの目の前にいた。
クリスはルークに対して、強い第一印象。1つの感情を抱いた。
そうそれは――
(ムラムラします!!!)
自重しろ変態ッ……!!
人の容姿に然程拘りの無いクリスだったが、それでも敢えて好みを挙げるとすれば。
女性の場合は、おっぱいが大きくてお尻が安産型の人で、男性の場合は、逞しい人であった。
(背負ってる剣も大きいけど、股間の剣♂も大きいんですね、ウフフ)
自重しろと言った筈だが……!?だが……!!
まさか眼前の子供がそんな事を考えているとは思う筈も無く、ルークの視線は、クリスを紹介したアレンの方に向いていた。
「あ、その、伯父さん……」
あまり他人と不用意に関わらないという、母からの言いつけを破った罪悪感から、アレンはどこかバツが悪そうに眼を泳がせていた。
そんなアレンの様子を見てルークは、優し気にふっ、と笑った後、その大きな手でアレンの頭をわしゃわしゃと撫でた。
(家族じゃなかったら、ナデポが見られそうだった!)
お呼びじゃねぇ。座っていろド変態。
「そんなに、緊張する必要は無いさ、アレン。俺もお前と同じくらいの頃は、親の言いつけなんて破ったもんだ。それに
「伯父さんっ」
友達が困っている。どうにか助けて欲しい。
それが昨夜、ルークがアレンから打ち明けられた相談だ。
我儘なんてまるで言わず、毎日努力しているよく出来た甥からの、珍しいお願い――それも他人の為の、だ。
断る気も、怒る気も、ルークには欠片も無かった。
「おっと、放っておいて済まなかったな。俺はルーク、ルーク・ルヴィニと言う。アレンの叔父だ。君は、アレンの友達なんだって?」
クリスは笑顔で返答した。
「は、い!仲、良し、です!!」
「それは良かった。これからもよろしくしてくれると、俺も嬉しいよ」
「勿論、です。こちら、こそ、よろしく、お願い、します!!」
「礼儀正しい子だ」
無いとは思っていたが、変な相手にアレンが誑かされている可能性も殆ど無くなって、ルークは軽く微笑んだ。
……いや、そいつは変(態)な相手なのですけどね。
「まあ、何時までも立ち話は何だ。アレンと一緒に俺の借りている宿まで来ると良い。少し体が汚れているようだしな、一度洗い流した方が良いだろう」
控えめに言っても、クリスの身なりは酷い物だ。
それが、嫌だ。不愉快だ、と言う話では無く。
年端のいかない子供が、ずっとこんなに体を不衛生にしていたら、何時・どんな病気に罹っても可笑しくは無い、と言う判断からだった。
お風呂大好き日本人の魂のクリスとしては、わーい、お風呂だ~♪と、飴玉に釣られて誘拐される児童の如く、ホイホイと付いて行く心算だったのだが……。
空中に浮かぶデザベアが、手をバツマークの形に交差させながら、首を凄い勢いで横に振っている。
何せデザベアときたら、クリスが体を清める事に異常なまでに厳しかった。
風呂に入るな。体を拭くな。水を浴びるな。雨の日は家の外に出るんじゃ無い。いっその事、体に生ゴミの臭いを擦り付けておけ。等々、それは酷い話である。
(ベアさんも大袈裟だな~)
そうは思うクリスだったが、他者のお願いはなるべく叶えてあげたいと思っているので、デザベアの望み通りにすることにした。
視線を悲し気に伏せて、ルークにたどたどしく返答する。
「ごめん、なさい。スラ、ムで、体、綺麗、危ない、ので……」
「――――」
「…………クリス」
「?」
クリスのその言葉を聞いたアレンが悲痛な表情を浮かべ、ルークも一瞬、顔を歪ませた。
そう言った意見、発想が出る為には、実際に危険な目に遭遇した経験が有るからでは?そう思ったからだ――――勿論、勘違いなのだが。
「ねえ、クリス」
「ど、したの?アレン、君」
「知らない男の人にお金を渡してるのも、そう言う理由?」
(ああ、そちらも見られてたんだ)
否定する意味も無いので、クリスは正直に答える。
「お金、持ってる、知ら、れる、危、ない、ので。全部、渡した、事に、して、貰って、るの」
「ちょっとした用心棒代と言うことか……」
ルークは、子供ながらに良く考える、とクリスの発言に対し、そう感じた。
成程、アレンから少しは聞いていたが、利発で人懐っこいと言うのも正しいようだ、とも判断した。
で。あるのなら、とルークは昨夜アレンから相談された後から考えていた提案を、クリスへと持ち掛けた。
「なあ、そう言う事であれば、君に頼みたい仕事があるんだが。その男には、俺からも話すから、頼まれてはくれないか?」
「??それ、は、大丈、夫、です、けど。どんな、事、です、か?」
「アレンは毎日、戦いの訓練をしていてな。その手伝いをして貰いたい。お金を持つのが危険なら、一先ず代わりにご飯を保証しよう」
無論、そういう口実の下、クリスの生活環境を改善する為の方便だ。
それを察して、アレンの表情もパァっと明るくなった。
最善は、住み込みか何かで住居も保証するのが良いのだろうが、こう言った物は性急に進めようとしない方が良い、とルークは考えている――相手が、明らかに善人で、他の人の手を借り過ぎるのを、悪く思いそうなタイプであれば、尚更。
勿論そう言った気遣いは、クリスにも伝わっていた。
「良い、の、です、か?」
「さて、な。こちらこそ、頼まれてくれると、助かるよ」
飽くまで自分から頼んでいるという体を崩さないルークに、クリスは大きな感謝と、カッコよさ、そして沢山のムラムラを感じた。
……ムラムラはしないでいただけますか???????
それは置いておくとして、自分の境遇で同情を誘った感じになって、クリスとしてはバツが悪いのだが、しかしアレンの母親に起こるかもしれない悲劇を防げる可能性が最も高そうなのが、アレンの伯父――つまりは、ルークである。
そのルークとの繋がりはクリスからしてみれば、奇貨であると言えた。
そもそもここまで心配させて、行動させた以上、今更断るのも逆に……。という感じもする。
「あり、がと、ござい、ます。よろ、しく、お願、い、出来、ます、か」
クリスのその言葉に、ルークは柔らかく微笑んで、アレンは顔色を明るく光らせた。
「ああ、良かった。こちらこそ宜しく頼むよ」
何か良い感じに終わったが、宙にぷかぷか浮かんでいるデザベアが、してやったり、とニヤついているのには、イラッとするな、とクリスは思った。
*****
クリスの同意が得られた途端、後の話はとんとん拍子でサクサクと進んで言った。
まず、アーノルドとの件だが、ルークがクリスを連れて、「この子に頼みたい仕事があるから、これからは金を持ってこれなくなる可能性が高い」と伝えたら、簡単に了承された。
大した金額でも無いお金の話で、明らかに強者の風格を漂わせるルーク相手に争うのは馬鹿らしい、と言うのもあるのだろうが。
それ以上に、クリスが普通に好感を持たれていたというのが大きいだろう。
難色を示される所か、「何の仕事かは分からないが、体に気をつけて頑張れよ」と、激励を貰ったくらいで合った。
クリスの人の良さによる利点が、大いに出た形だった。
その後クリス達は、ご飯を食べに街へと繰り出した。
やはり、クリスの胃に配慮された食事はとても美味しく、クリスは思わず微笑んだ。
まさか2日連続で、マトモな食事が取れるとは――!!なんて、日本に居た時だったら絶対に感じなかったであろう驚愕を、クリスは覚えていた。
食べ物の味とか、栄養だとか以前に、他者と一緒に食事を取れる事がクリスには何より嬉しかった。
え?デザベアとの食事?
アレは、食事枠では無く、SMプレイ枠なので……。
そうして、諸々の準備を済ませた後。
クリスはこの世界に来て1ヵ月以上経って、遂に初めて街の外へと足を踏み出した。
空は澄み渡るような青空。
新たな門出には相応しい1日だった。
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