06-1 デザベア先生の世界講座とクリスちゃんのガバガバ原作知識①
「何だ、何だ。お前も結構やるじゃないか」
空中にぷかぷかと浮かぶデザベアは、先ほどまでの不貞腐れた態度が何のその、ニヤニヤと意地の悪い笑みを顔に浮かべて、非常にご満悦だった。
「なに、が?」
「何って?あのアレンって餓鬼の事だよ!!良く重要人物と繋がりを持った!上手くやったじゃぁないか!!」
この世界を元にしたゲームの主人公。
デザベアはアレンがどんな人間か知りもしないし、これから聞き出す所だが、しかし主役に抜擢される以上、何かしら英雄めいた点があるのだとは推察出来る。
そう言った人物に擦り寄って、甘い汁を頂戴する。
金も健康も、一般人が持っているであろう大抵の物は何も持っていない小汚いスラム生まれの餓鬼が、厳しい異世界で生き抜くには?と言う疑問に対する回答としては、満点に近かった。
難点として擦り寄った人物が抱えている問題に巻き込まれやすくなる、というものがあるが、クリスは元々(デザベアの所為で)大きな事件に巻き込まれやすい運命に成ってしまっているので、実質ノーリスクと言って良い。
兎に角、閉塞していた己の人生に一筋の光明が差したようで、デザベアの気分は実に上々であった。
「そう、いう、つもり、じゃ、ない、けど!!」
対称的に一気に不機嫌に成ったのはクリスだ。
何故なら彼女にそんな意図は一切存在しなかったからだ。
クリスがアレンと友人に成りたかった理由に、相手が主人公で目覚ましい活躍をするから、何て
純粋。
純粋……?
じゅん……す……い?。
………………………………………………………………。
純粋にいやらしい気持ちだけだ!!!
打算の方がまだマシなのでは???????
「まぁ、まぁ、そう怒るなって。普通に仲良く成りたい、とは思っているんだろ?」
「それ、は、そう」
主役だから仲良くしたいなんて思いは無いが、逆に主役だから距離を置きたい、だなんて考えもまた、クリスには存在しない。
色欲云々はさておいても、クリスにとって人と仲良く成る事は、大好きな事であったし、そうして出来た友達には出来る限りの親切をしたい、とも思っている。
「それならそれで良いんだよ!お前さんに出来た新しいオトモダチは、ちょっと運命の激流に流されやすい奴で、だから力に成ってやりたい!って思うだろ?」
「う、ん」
「そうしてお前が相手を助けて、相手もお前を助けてくれる。オトモダチってのはそういうもんだろ?嗚呼!仲良きことは美しきかな!!」
「うーん?」
何となく詭弁ではぐらかされている様な感じがする。クリスはそう思った。
それは言っている事は正しくとも、それを述べているデザベアに打算的な感情が見え隠れするからだろう。
まあしかし、言っている事は正しいので、クリスとしては粛々と自分の倫理観に従って仲良くするまでの事だ。
「それと、だ!!こう成って来るなら、お前に色々説明することと、質問することがある」
「何?」
「まあこの世界自体の事やら、お前が持っている知識なんかについて、だな」
「?」
「まずこの世界が、お前の世界でゲームに成っているのは何故かっていう話と、それに関連する注意事項だな。まあ前にも言ったが、そもそもお前がそのゲームとやらを大して知らない様だから、そんなに意味の無い話では有るんだが……。まあ全く気にならない訳でも無いだろ?」
「ま、あ」
形式的にはゲームの世界に転生!と言う形のクリスだが、そのゲームの知識を殆ど持っていない所為で、感覚としては唯の異世界転生に近く、今までは特に気に留めることもなかった。
しかし目の前に、その物語の登場人物が現れた、とあっては、それで相手に対する対応を変える気はサラサラ無くとも、一体どういう事なのか気になるのが人の性と言うもの。
「とは言っても、実はそんなに難しい話じゃあ無い。世の中には、別の世界で起こる・起きた事件の内容を観測出来る。そんな能力を持った奴が結構な数居るんだ」
「他の、世界、知れる?」
「まあ知れるって言っても、大多数はそんな詳細に、映像か何かとして受信出来る訳でも無く、頭の中にふっ、とアイディアとして湧き出るみたいな感じで、自分たちが別の世界を観測しているなんて風には、露とも思っていないんだがな。だから、そいつらの中には、その受信した情報を元に物語を作ったりする奴も居る」
「そう、なの!?」
「ああ。だから世の中に存在する【物語】の中には、他の世界で実際に起った出来事を記した物ってのが、実は結構存在する――勿論、全部が全部じゃねぇけどな?だからそうだな……。例えば今この瞬間、俺様たちの事を観測している存在も、どこかの世界には居るかもな?」
「びっ、くり!!」
冗談めかして笑うデザベアの発言に、クリスはふと気になって頭上を見上げた。
其処にはボロボロの屋根しか見えず、当然他の物は見えなかった。
「ま、此処らへんの詳しい事は、さして重要じゃねえ。鶏が先か、卵が先か。この場合が、世界が先で、物語は後だ、って言うのだけを覚えとけば良い」
「わか、った」
「で、だ。問題はそれによって発生する注意事項だ。言ってしまえば当たり前の話ではあるんだが、勘違いしているとエライ目に合うからな」
世界が先に存在することによって発生する注意事項。デザベアは、その具体例を幾つか挙げ始めた。
「例えば、この世界を元にしたゲームに、特定の手順を取ることでキャラを無敵化出来るバグが合ったとしよう。だけどこの世界で同じ手順を取った所で、そんな事は起きない」
「当たり、前、では?」
現実的に考えればそれはそうだろう。
クリスの言葉に、デザベアも深く頷いた。
「そ。当たり前の話だ。要は、ゲームでは〇〇出来たから、コチラでも出来る筈!何て風には思い込むなよって事だ」
「うん、他にも、あるの?」
「応。今のは飽くまでちょっとした注意で、本当に重要なのはこっちの方だ。そもそもゲーム――というか【物語】の知識自体が其処まで信用できる物でも無い。って話なんだよ」
「良く、分から、ない」
この世界にやって来た直後もデザベアが、そんな話をしていた様な気がするが、いまいちキチンとした理解には至っていなかった。
「何、少しずつ整理していけば単純な話だ。まず先程も言ったがな、別の世界で起こった出来事を観測出来るって言っても、詳細かつ完璧に知ることが出来る!なんて奴は余程の例外を除いて居ないんだ。大概は途切れ途切れ、歯抜けの情報をふと思い付くだけ、とそんな感じだ」
「あんまり、当て、なら、ない?」
「そういう事。それに其処から更に、その物語を世に出す奴の都合も入ってくる訳だ」
「都合?」
「これも先程言ったが、大抵の奴は自分が別の世界を観測している、何て事に全く気が付いて無くて、それが自分の頭から出たアイディアだと思っている。そしてソレを【物語】として世に出そうとするのなら
それが問題なのだ、とデザベアは続ける。
「例えば陰惨なバッドエンドの事件を観測した奴が居るとしよう。そいつはそのままじゃ一般受けしないと考えて、色々とその物語に自分なりの解釈を加えてハッピーエンドにした上で、世に発表する訳だ!さて、この場合物語の元となった世界でも、発生する事件がハッピーエンドに成ると思うか?」
「なら、無い?」
「大正解!世界が先で、物語が後な以上、物語に新たな要素を付け加えた所で、世界には何の影響もない――当然の話だな?だがしかし、例えばその物語の読者の1人が、元となった世界に転生したとしよう。その場合、彼はこう思うわけだ。この世界は、ハッピーエンドの大団円で終わった物語の世界だから安心だな。ってね!」
すると、どうなるか。とデザベアは大仰な動作と共に答えを言い放つ。
「嗚呼哀れ。彼は陰惨なバッドエンドに巻き込まれて死んでしまいましたとさ。とこんな感じに成るわけだ」
「怖、い!」
「纏めれば、お前たちが見る他の世界の出来事を元にした物語ってのは、唯でさえ歯抜けの知識に、更に作者の独自改変が入った情報、って事だ」
だから、完全に信用しきれる情報では無い。とデザベアは再三言っている訳である。
「だけどその上で聞くが、お前の持つ所謂【原作知識】ってのを、ここで纏めて言って貰う」
「さっき、までの、聞くと、怖い、けど」
「少し大げさに驚かしたが、まあ全部が全部役に立たない、って訳でもねぇからな。実際に【主人公】の役割だったアレン何某が居た以上、お前が知っている程度の大雑把な知識は比較的参考になる筈だから、ここで聞いておく」
プレイしている最中で他のゲーム(18禁)に浮気した所為で、殆ど無いクリスの原作知識。
だが逆にその程度の知識しかもっていない方が、下手に変な思い込みをしないかもな、とデザベアは笑う。
「まあゲームの知識を隅々まで知った上で、何が役に立って、何が役に立たないかって検証出来るのが理想なんだけどな。とはいえ知識があり過ぎると、どうしても先入観が入るから、実際そう上手くはいかねぇ」
「そう、だね」
原作知識だ、未来の知識だのと言った重要な情報は、どうしても持っている人間の眼を曇らせる。
言わば、バイアスがかかるという奴である。
「で、実際お前はどの程度の知識を持っているんだ?」
「えっと、ね。まず、あらすじ!後、公式、サイトに、あった、PVと、キャラの、紹介!最後に、ゲームの、序盤、だけ」
「本当に殆ど知らねえんだな……。まあいいや、それを教えてくれ」
うん、と返事をして、クリスはゲーム知識を語っていき始めた。
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