06-2 デザベア先生の世界講座とクリスちゃんのガバガバ原作知識②

「まずね!この、世界、剣と、魔法の、ファン、タジー!!」


 タイトルはブレイジングファンダジアである、と此処までは前にも1度言っている。


「それで、主人公、アレン君!結構、偉い、貴族の、子供、だった」


「ほー。だった、って事は勘当か何かされた訳か?」


「アレン君、呪わ、れた、みたい。それが、原因で、家、居られなく、なった」


「……呪い?」

 

「左手、黒い、ウロコ、生えてる。ドラゴン、みたいに。後、黒い、炎、使う。そういう、人、【呪い憑き】いう、らしい」


「ああ、それであの腕か」


 アレンの包帯が巻かれた左手を思い出して、デザベアは納得したように呟いた。


「上手く喋れないお前の代わりに纏めると、だ。体が異形化する現象が【呪い憑き】。貴族のアレンは、その呪い憑きに成っちまった所為で家を追い出されたって事でいいな」


「うん」


「貴種流離譚って奴だな。よし、続けてくれ」


「えと。アレン君、成長。王を、決める、戦い、巻き、込まれる、らしい」


「――あん?」


 自分はそこまでやってはいないけど、と語るクリスの言葉にデザベアが大きな反応を示す。


「王を決める戦いってのは、どういう意味だ?国が荒れて、跡継ぎ候補の王子同士の勢力争いに巻き込まれるって事か?それとも――文字通り・・・・の意味か?」


 デザベアの言葉に、クリスはえーと、えーと、と頭を悩ませながら記憶の海に深く潜る。

 そして実際にその場面までプレイしていなくとも、あらすじやPVなどから推察できる情報で答えを導き出す。


「多分、言葉、そのまま。勝つと・・・王様・・成れる・・・戦い・・


「――へえ」


「えと。えと。アレン、君。右手に、証、ある。他にも、体の、どこかに、証、ある人、一杯。その人達、戦う、100年、1度?勝つと、神様・・に、認め、られる、らしい。王様、成れる!!」


「そう言えばあの餓鬼右手も隠してやがったな……。それにしても、ねぇ。本当の意味での神かは知らんが、まあ納得だ」


 通常、王なんて権力の象徴に、唯の切った張ったで成れる訳も無い。

 だがそれは、科学知識で発展した所謂現代社会的思考においての話だ。

 そう言った世界においては、人間のスペック差などほぼ無い――とまで言うのは言い過ぎだが、力が強い人間でも殴って山を消し飛ばすことなど出来ないし、頭が良い人間だって、スパコンより早く計算など出来ないだろう。

 だから国のトップに成れる方法など凡そ相場が決まっていて、しかしそこに【魔法】やら、【超常存在】が絡んでくると話は別だった。

 例えば、国のトップが守護神を笑わせる事で、一定期間の平和と繁栄が約束される――そんな世界があったとしよう。

 その世界での王様を決める方法はお笑いグランプリになる筈だ。

 現代社会から見れば、それはギャグに見える光景だろうが、やっている当人たちにとっては至って真面目で道理の通った方法だろう。


「100年に1度、神の名のもとに王を決める戦いが繰り広げられる世界。そんな世界の中で、尊ばれるべき戦いの証と、虐げられる呪いを持った少年による貴種流離譚、ってか?大体煮詰まって来たな」


 右手に祝いを、左手に呪いを。そんなアレンの境遇を聞いたデザベアは、成程いかにも・・・・だな、と笑った。


「うん。大体、そんな、感じ――」


 自分が覚えている事を大体伝え終わって、まだ他に伝え忘れが無かったかな?と記憶をもう一度深く思い返していたクリスの元々悪い顔色が、更に青くなった。


「オイ。何か思い出したのか?」


「だ、だめ。死、死ん、じゃう!!アレン、君の、お母、さん!!」


「…………取り合えず、詳しく話せよ。対応はそれからだ」


 下手をすれば、このままアレンを探して町まで出て行きかねない剣幕のクリスに、デザベアが待ったをかけた。

 それを聞いて、多少冷静さが戻ったクリスが、思い出した情報を整理して語りだす。


「アレン、君。貴族の、家、出て、いかされた。でも、1人で、じゃない。お母、さんと、一緒!その後、アレン、君、お母、さん、それと、お母、さんの、お兄、さん。3人で、旅を、するの!!」


「それが、お前がプレイしていたゲームの序盤なのか?」


「うん!でも、思い、出した!あらすじ、書いて、あった。アレン、君。王を、決める、戦い、参加、する理由、子供の、時、殺、された、お母、さんの、敵、探す、為、だって!!」


「……成程な。お前自身は、その母親とやらが殺されるシーンをプレイした訳では無いんだな?」


「う、ん」


 だからこそ、思い出すのが遅れてしまったのだ、とクリスは頷いた。

 でも……と話を続ける。


「ゲーム、止めた、シーン。アレン、君の、おじさん、用事で、一旦、故郷に、戻った。だから、多分、その後……」


「ん。確かにそれはきな臭いな」


 母親が子供の頃に殺された、と言った設定があるゲームで、その母親と旅をしているシーンが序盤にあるのならば、その章の終わりは十中八九、母親が殺される場面だろう。

 そしてそんな中、頼れる保護者の1人が居なくなる状況が発生したのなら――そこが、の起こるタイミングと見て、まあ凡そ7、8割方は間違いあるまい。


「取り合えずそのタイミングで、あの餓鬼の母親が殺されると仮定しよう。で、お前はどうしたいんだ?」


「助、ける!!」


「そう言うと思ったよ。それで、方法は?」


「説明、して、警戒、して、貰う!!」


 貧弱極まり無いクリスが、何か出来る事と言えば、それは話す事だけだ。

 故に、現実的な考えではあるのだが……。


「まあ、そんな所だろうな。――勿論、却下だ」


「なん、で!?」


 クリスが唱えた案をデザベアが、ピシャリ、とにべも無く切り捨てる。

 更に、呆れたようにやれやれ、と首を振った。


「まず、そもそもお前。前世の知識を他人に話せないのを忘れてねぇか?」 


「あ」


 クリスは基本的に自分が異世界に転生したことや、前世の知識などを他人に伝えられないようになる、呪いがかけられている。

 デザベア相手に対してだけは、極めて強い繋がりがある為、その呪いの例外となっていたので、逆にその事実について忘却してしまっていた。


「まあ、前世でプレイしたゲームの知識云々は喋らずに、予知か予言か何かを得たという事にすれば、ギリギリ伝えられないことも無いだろうが……」


「それ、なら!!」


「信じられる訳がねぇだろうが」


 そもそもの話。とデザベアは断言した。


「仮に前世知識を話せる状態だったとしても、だ。スラム住まいの小汚い餓鬼が、私、未来の出来事を知っていて、これから貴方のお母さんが殺されちゃうの、ウフフ。ってか?馬鹿か、そんなもん未来の知識持ってるなら、御大層な予言をかます前に、テメェの境遇をマトモにして見ろ、って話しだろう」


「うぅ」


 簡単に言えば、説得力が無さ過ぎる。

 魔法なんてものが存在する世界なのだから、厳かで神秘的な予言者などが言えば、信じられる可能性が無い訳でも無いだろう。しかし今のクリスの現状では到底…………。


「まず間違いなく一笑に付されるし、最悪質の悪い悪戯だと思われる。そうなっちまえば、もう終わりだ。お前の言葉は何も届かなくなる」


「…………」


 先ほども似たような事を言ったが、人間1度でも先入観・バイアスを持ってしまうと、それが解ける事は中々に無い。

 だから、クリスの言ったことが悪質な悪戯だと判断されれば、大きく信用を失ってしまうだろう。

 そしてそうなれば、アレンの母親が殺される事件までに挽回は難しいだろう。


「まあもしも、ゲームの知識をもっと沢山持っていて、かつそれがこの世界においても正しい物であったのなら、話はまた別だったんだが……。お前の持っている【原作知識】はもう終わりだろ?」


「……う、ん」


 生まれも育ちもスラムの子供が、本来ならば知り得ないであろう知識を数多く持っていたのであれば、それを上手く用い限定的ではあるが、自分が未来の知識を持っている事に、説得力を出せた可能性はある。

 だが残念ながら、クリスが持っているカードだけで、他人をそこまで納得させるのは極めて難しいと言って良い。


「だから、次にあの餓鬼と会った時に、直ぐに事件の事を話すなんて、馬鹿な事はしてくれるなよ?」


「……わか、った」


 残念ながらデザベアの言っている事はド正論以外の何物でも無く、クリスはそれに頷くより他に無かった。


「まあ。となると、取れる手段は限られてくる」


「!!何か、良い、案。有るの?」


 これがチェスや将棋であれば王手チェックメイトが掛かっているような状況で、未だどうにかしようが有ると言うのか?

 クリスは期待と共にデザベアの話の続きを待った。


「良い案、と言うよりは、消去法で残る案でしかないがな。先ずどんな事件・事故が起こるにせよ、俺様たちが力づくで止めるってのは不可能だ」


 それが出来れば話は一番早いが、階段を上るのすら激しい運動に入る不健康幼女と、魔法少女物のマスコットみたいな体に成っている絞り粕悪魔の2人に、力で物事を解決するのは難しい。


「俺様の力が全快していれば、どんな相手だろうが2秒でぶち殺してやるし、どんな事故だって完璧に止めてやるんだが……。まあそれは置いておこう」


 その場合力が回復している、デザベアはアレンを助ける事に力を貸さないので、本当に意味の無い仮定である。


「だからお前クリスが何か出来るとすれば、精々が話だけだっていう考えは間違いじゃねぇ」


「でも、駄目、なんで、しょ?」


「ああ。残念ながらお前の話の内容・・が信じられることは無いだろう。信じさせるに足る材料が無い。口八丁で真実に出鱈目を混ぜて騙して動かすってのは無しでは無いが……そもそもお前が予測した時期に事件が本当に起こるとは限らないからな。1度外せば終わりな以上リスクが大きい。――故にここは正攻法だ」


「正、攻、法?」


「ずばり信頼・・を得る事だ」


「信、頼」


「まあ言ってしまえば、極々普通で真っ当な手段だ。お前の話は信じられなくとも、お前自身の事は信頼出来る。故にそのお前が不安がっているのなら、それを解消するのに多少は面倒な事をしてみても良いだろう――とそんな信頼関係を築ければ良い」


 デザベアが言っている通り、それは極めてマトモな解決手段だった。


「おお!でも、間に、合う、かな?」


「急がば回れ、ってお前の国の諺では言うんだろ?あの餓鬼の母親が殺される事件が、本当に発生するのか、起きるとしても何時なのか。それすら未だ不明確なんだ。最終的に他の手段を取るとしても、先ずは正攻法で挑むべきだろう」


 悪魔らしからぬ真っ当な助言は、デザベア自身の命も掛かっているからに他ならない。

 これがもし自分の身に無関係な場合であれば、一見すれば上手く行くような、それでいて実は大きな落とし穴があるような案でも出していた所だ。


「つま、り。小っ、ちゃな、男の、子と。仲良く、なろう、大、作戦!!!!」


「……………………いや、間違ってはいねーけど。もう少し別の言い方があんだろ」


 ――ショタの信頼を得よう大作戦の始まりである。

 お巡りさん、こっちです!!!!







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