after-6
時は進み翌日。
相変わらずなのは雨もそうだが、綿貫が朝から自宅へ襲来するのも相変わらずだった。
しぶしぶそのままの足で共に学校へと向かえば、昇降口にボールペンのようなものをくるくる弄ぶ松さんの姿を見つける。
また朝からあのノリに付き合わされるのは疲れるのでスルーしようと思っていたが、松さんの方が綿貫を見るやいなやすっ飛んできた。
「あ! 綿貫さんおはよぉ~!」
「お、おはようございます先生?」
突然抱き着かれ、綿貫は戸惑い気味に返す。かくいう俺もなんだこいつという視線を向けざるを得ない。
「はう~今日も綿貫さんきゃわいすぎるんだゾ?」
突然放たれた松さんの言葉に背筋が凍りついような錯覚に陥るが、綿貫の方はそうでもなかったらしい。
「え、えと……急にどーしたんですか先生。えへへ……」
肯定的な言葉を投げかけられたからか、笑みを隠し切れない様子だ。
「昨日の朝はありがとね? 綿貫さんが話を聞いてくれたからすご~く楽になったのよ? すぐにお礼言いたかったんだけど……」
松さんは一旦言葉を区切ると、ぺろっと舌を出す。
「昨日はバタバタしてたから」
「なるほどそれでか……」
随分と面倒な奴に懐かれたものだな。
俺が一人ごちると、初めて松さんがこちらの方を向く。
「元宮君、ちょっとこっちにおいでなさい?」
松さんは綿貫から離れると、少し離れた場所に俺を手招く。
教師と生徒という立場上無視するわけにもいかないので仕方なく言われた通りにすると、ペンの先を俺に突き付けてくる。
「聞いたわよ⁉ 白崎さんと別れたんですって⁉」
「はあ、まぁそうですが……」
今更なのかと思わないでもないが、大よそ昨日白崎の家に家庭訪問へ行った際にでも聞いたのだろう。いやまぁ本当に家庭訪問してたのかは知らないけども。
ただ仮にそうだとして何故その話を急に持ち出したのか。もしかして慰めの一つでも……。
「この、やり〇ン!」
……慰めの一つでもかけてくれるつもりなのだろうかと考えたが、全然そんな事は無かった。
むしろ凄まじい罵声を浴びせられた。
「えぇ……」
「そうして女をとっかえひっかえしてるんでしょあなた!」
「いやそんな事無いですけど」
「そんな事口では言ってるけどね? あなたみたいな無害そうな子が一番危ないって先生知ってるんだから!」
まぁ、ある意味その認識は間違ってないかもしれないが……。
「でも勘違いしないでほしいのよ? 先生はね? 単純に元宮君の将来が心配なの。このままじゃいつか刺されるわよ? ネットで事あるごとに正成しねって言われるわよ⁉」
松さんがずいっと顔面を近づけてくる。
学校の日々を描いたエロゲ原作アニメのキャラの事を言ってるんだろうが、名前にそのキャラの字が含まれてるのがなんとも言えないな……。
「それで? これまで元宮君は何人の女子を食い物にしてきたのかしら? ワンナイトラブも含めて正直に先生に教えてみなさい? 怒らないから」
腕を組みながらすました顔をする松さん。
この女、生徒になんて事聞いてんだ……。こちらに答える義務は無いが、答えないとしつこそうなのでここは正直に答えるとする。
「ワンナイトも何も俺童貞ですけど」
「嘘おっしゃい!」
即否定された。
「いや本当ですよ。なんなら付き合ったのだって今回のが初めてでしたし」
「ふーん……」
心底うんざりしながらも冷静に答えると、先生が目を細めて俺の顔をまじまじ見てくる。
「なんだ、そうだったんだ~!」
ややあって、松さんは顔を綻ばせると、おもむろにしゃがみこみ、俺の制服のベルトの下辺りを人差し指ではじいてきた。
「お可愛い奴め」
「ハラスメントで訴えるぞ」
教師として最悪な所業につい敬語をつけ忘れる。
「キャー助けて綿貫さ~ん! 元宮君が先生をいじめてくるぅ~!」
松さんがわざとらしく言うと、綿貫の方へ舞い戻りその後ろに身を隠す。
「ま、まーくん! 先生いじめたら駄目だよ⁉」
慌てて松さんをかばうようにして綿貫が前に出てきた。
仲がよさそうで何よりだが、こいつが誰かをかばおうとする姿もなかなか珍しい。やはりシンパシーでも感じてるのかね。
「付き合いきれん……。俺はもう行く」
「あ、ま、待ってまーくん!」
松さんを脇目に通り過ぎていくと、すぐに綿貫が追い付いてくる。
「またねー先生~」
「きゃーかわいい~! またSHRでねぇ~ん」
「えへへ」
先生の言葉に綿貫がはにかむ。
すっかり仲良しになったようだが……やはりこの二人を近づけ過ぎるのは危険だな。
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