第二十二話 自称高学歴トリオvs金髪トリオ+α俺

「おいやめろ」

「んだよ……」


 言うと、悪態をつく金髪だが、俺の顔を確認すると目を丸くした。


「ってサトリスト⁉」

「暴力は結果的に自分を苦しめる事になるだけだ」

「で、でもこいつらがよぉ……」


 金髪がとりあえず拳を収めるので、拘束を解く。


「あー、そっちにもまともそうな人いてよかったね? もし止めてくれなきゃ君人生終わってたよ?」


 爽やかイケメンが微笑を湛えながら言うが、目の奥は全然笑っていない。いっそのこと殴ってくれればよかったのにとでも言いたげだな。


「確か西高の人達だったか。市内では一番の偏差値をお持ちの人達が何か用でも?」


 ちなみに市内にある高校は二つだけである。まぁ確かにうちより偏差値は高いが、そんなもの幾らあったって同じだろう。今や学歴と問わず自分次第で幾らでも収入を得られる時代だからな。


「用も何もー? つっかかってきたのそっちなんだよね~?」

「そうなのか?」


 金髪に問いかける。何にせよ両者の主張を聞かない事には始まらない。


「いやこいつらが俺らが使ってた台横取りしたからだし」

「なるほど……」


 大よそハイエナ行為でもやられたか。


「でもお前らいなかったですしおすしっしっきししっ」


 珍妙な笑い方をする太っちょだ。


「さっきからそう主張しているのにこの無能な低学歴と来たら話を聞く耳を持たない」


 いや学歴重視するにしても高校ので測るなよ。


「だーかーらー! 俺らおつり取りに行ってた言ってるよねぇ?」

「離れた時点でお前らの権利はない」

「それな。むしろ待ってただけでもありがたく思えカス」


 眼鏡と太っちょが口々に言うが、金髪は引かない。


「だから人としておかしいつってんのよそれ?」

「話にならんな」


 眼鏡が吐き捨てるが、まぁ言わんとしてる事は分かる。質はともかくあちらは論理的にものを言っているのに対し、金髪は勝手な主張しかしてないからな。ここが公共の場である以上権利も主張するのはお門違いだ。まぁ権利という言葉を使っているのはあちら側だが……。


「まぁどっちでもいいけど、この景品は僕たちが落としたから、所有権は僕たちにあるのは変わらないよ~?」


 爽やかイケメンが少しよさそうな腕時計を見せつけてくる。


「ざっけんな!」


 以下、堂々巡り。と言ったところだろうか。

 マナーとして見ても、ハイエナ行為は褒められたものじゃないが、台を占有しようとするのも大概だしな。まぁあちらもいちいちカスだの低学歴だの挟んだりして煽ってくる辺り金髪がムカついてしまうのも分かるが……。これはこちら側の方が分が悪いな。


 どうやって金髪を宥めるかなという方向に思考を切り替えていると、ボトンと傍で何かが落ちる音が聞こえた。


「あーくっそ~!」


 声が聞こえるので見てみれば、玄間がカギの入ったカプセルを取るタイプのクレーンゲームをしていた。


 どうやら取ることができなかったらしい。

 再び金を入れようとする玄間を、太っちょが小馬鹿にしたような目を向ける。


「沼過ぎでワロタ。これ確率機なのに取れるわけないしっしっしきししっ」

「そんなもんやってみなきゃわかんねーじゃん」


 そう言って再び玄間が百円を投入すると、一番遠くにある五番のカプセルを掴む。商品はアプリコットウォッチか。腕時計型の究極のデバイスとやらだな。

 クレーンが上昇していくと、掴まれたカプセルもまた上昇していく。


「おっ? おっ?」


 ゆっくりと取り出し口まで移動するカプセルだったが、道半ばでクレーンが力尽き落ちる。


「あーくっそ~!」

「残念だったねぇ~? あと十万円くらい使ったら行けると思うからせいぜいがんばれ~?」


 爽やかイケメンが応援すると見せかけ煽ってくる。十万とは恐らく天井の事を言っているのだろう。確かにこの手のクレーンゲームは一定量のお金が入らないとアームが弱く絶対とれないみたいな仕様はあったりするが……。


「うるせぇ! もう一回だ!」


 玄間が再び金を投入しようとするので、止める。


「なんだよ元宮君。今の行けそうだったし、次ならいけるかもだろー?」


 その姿に小馬鹿にしたような視線を送ってくる自称高学歴トリオ。


「俺がとってやるからそれ寄こせ」

「おっ、サトリスト行くか!」

「おっし、託した、元宮君」


 玄間から百円を受け取ると、背後から空気の漏れるような音が聞こえてきた。


「ははっ、なんだぁ、まともかと思ったら結局こいつらと同類じゃんマジウケる~」


 爽やかイケメンが笑い飛ばしてくるが、無視して金を投入する……前に、レバーを予め傾けておく。


「ぷぷっ、実はくっそ効いてたの大草原不可避」


 続いてデブ……太っちょまで煽ってくるが、それも無視し次こそ金を投入した。

 特に玄間と変らない方法でクレーンを動かし、先ほど道半ばで落ちて落下口付近で横たわるカプセルに狙いを定める。


 アームはしっかりとカプセルを掴むと、落とすことなくそのまま持ち上げる。

 誰かの息をのむ音が聞こえると、アームはカプセルを離すことなく落下口へ舞い戻り、カプセルを滑り落とした。

 アームが広がるころには、子気味良い落下音が聞こえる。


「おっ……おっ……」


 玄間が目を丸くするのを横目に、カプセルを手に取り鍵を取り出すと、ウォッチの入った扉を開けた。


「ほれ」


 とりあえず賞品は玄間に手渡す。こいつから受け取った金だったからな。


「おお~!」


 ようやく理解が追い付いたのか、金髪たちは歓喜の声を上げる。高学歴トリオの方を見ればその表情は強張っていた。


「まじぱねぇ! 流石我らがサトリスト!」

「祭りだぁ!」

「胴上げだぁ!」


 訳の分からない事を言いながら三人が囃し立ててくる。まぁこれならハイエナされたことも忘れてくれるだろう。


「う、うるさいぞお前ら! 馬鹿なくせに!」

「低学歴が」


 太っちょが唾を飛ばしながら叫ぶと、眼鏡もまたぼそりと呟く。こいつらもしつこいな。


「んだとコラ!」

「どうせ偶然なのにいい気になってるのほんと動物園出身って感じー」


 吠える金髪にあくまで煽り倒す見た目だけは爽やかなイケメン。そこまで荒れてないってか別に世間的にも普通だぞうちは......。


「なぁサトリスト! 偶然じゃないよな⁉」

「まぁ取ろうと思えばまだ取れるが」


 ただ技術の穴を突く感じで褒められた方法じゃないからあまりしたくないんだよな。このタイプの機械を残したままの店の怠慢と言えば怠慢だが。一応メーカーの方は勘づいて対策バージョン配布してるはずだしな。


「よっしゃかましてやれ!」


 まぁもう一回取ればこいつらの偶然という主張も否定できるだろうし、店には悪いがあと一回だけやるか。


 クレーンゲームに向き直り、レバーを再び予め倒しておく。この旧型タイプはそれをする事によってクレーンの座標を狂わせることが可能だ。結果、本来とは異なる挙動をアームにさせることができ、確率無視で景品が取れてしまう。いわば裏技というよりバグ技だ。先ほど玄間がプレイしていた時の挙動を見てもしやと思ったら本当にそうだった。

 百円を要求すると、今度は金髪が手渡してきた。


「ワイレスイヤホンでいいか?」


 落下口に近い方が安定するので、一番近いカプセルを示して言う。玄間が一回目落としてたやつだな。


「マジ? 良すぎじゃね? てかもよい」


 もよい……あー、最良いって事か。特殊な言葉を使いおって。


「それじゃ行くぞ」


 金を投入し先ほどと同様に操作すると、しっかりとカプセルは取り出し口に落ちた。


「おお~! おお~!」


 ワイヤレスイヤホンを渡すと、金髪が感動したように目を輝かせる。

 かと思えば嫌らしい笑みを浮かべ始めた。


「あ、くふっ。あ、あっるぇ~? ぷっ、おた、お宅のくくっ、腕時計、かっこいいっすね。ぷぷっ、え、そこから取ったんすか?」


 金髪が煽り倒すので、特に太っちょが烈火のごとく顔を真っ赤にさせる。


「効いてる効いてるゥ」


 その様子を取り巻きと共に笑い倒す金髪。

 お前らも大概な性格してるよな……。いやまぁ、こればかりは相手も相手だし因果応報っちゃ因果応報だが。


 半ば呆れていると、物を叩きつける音があたりに響く。

 見てみれば、爽やかイケメンが腕時計を捨てたらしかった。


「こんな奴ら相手にするだけ無駄無駄~。もう行こうよー」


 にこやかに言うと、身を翻しコーナーを後にするので眼鏡と太っちょもその後に続く。

 平静を装っているが、握られた拳は隠した方がよかったな。 


「おつかれさまでえっす」


 金髪が面白がりながら高学歴トリオの背中を囃し立てていると、玄間が打ち捨てられた腕時計を手に取る。


「これ要らないならもらおっかな」


 そう言って腕時計をカバンに入れようとするので止める。


「やめとけ。後で盗まれたとか騒がれたら窃盗扱いになりかねない。ここは落とし物として店員に渡した方がいい」

「うわっ、あっぶね! そういう事かよ。あいつら腹黒すぎ……」


 まぁ外面イケメンがそこまで考えていたかは分からないが、あの性格なら後で思いついて実行しかねない。


「いや~まじめしうまでしたわぁ」

「それなー!」


 横で金髪たちが盛り上がるので、一応釘を刺しておく。


「お前らもお前らだ。そんな煽ってたらあいつらと同類になるぞ。ていうか取ったの俺だからな。あれじゃ虎の威を借る狐だ」


 正直不快にしかねないような物言いだと思うが、オブラートに本音を包むのは得意じゃない。


「うっ……確かにそれはそうだよな……。ちょっとイライラしすぎてから我を忘れたかもだわ。サンキュー元宮君」

「お、おう」


 存外好意的な反応が返ってきて戸惑うが、それだけ金髪の性根がくさってなかったって事だろう。まぁ、変な動画見せてくるあたり、若干頭のネジぶっ飛んでいるところもあるが。


「それじゃ、俺は行く」

「じゃな~!」


 金髪らの声を背に受け打つ、白崎の元へと戻る。

 彼氏にしては少し彼女を待たせすぎだな。

 とは言え、彼氏役を演じるのであれば今回の件もまた業務の一環ではあるだろう。 

 何せあの高学歴トリオ、自転車で並走して俺の彼女を危ない目に遭わせた奴らだったからな。

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