第二十一話 トラブル
いとファに到着した。
「それで、買い物に付き合うという事だが、晩飯とかの買い出しか?」
「流石元宮君。よく分かったね」
「まぁ、いとファだしな」
確かに大きな店舗だが、婦人服やら紳士服と言ったような店舗も多く、特に若者がウィンドショッピングで時間を潰すような場所でもない。
それに、ストーカーが出没するという事は、この店が白崎の普段使いしている店であるという事だからな。恐らくよくここで買い物をしているのだろう。毎日特定の店に通う目的と言えば、日用品か食品の購入くらいだ。
「でもちょっと買い出しするには早いかなー?」
「ふむ」
時刻はちょうど六時をまわった辺り。そこまで早いとも思えないが。
「ならもう少し遅く集合しても良かったんじゃないか?」
指摘すると、白崎は未だ取り続ける腕を抱き寄せるように引っ張ってくる。
「せっかく彼氏と買い物に来たのに、それだけで帰るのはもったいないよ」
少し不貞腐れたように言う白崎だが、こいつは決定的な思い違いをしているようだ。
「彼氏じゃなくて彼氏役だ」
「一緒の事だよ?」
「偽装するだけなら最低限でも十分だろ」
ストーカーも付けてきてるわけじゃなさそうだし。
「あ、そういえば正成君ってゲームとか好きそうだよね?」
聞いちゃいないな。まぁどうせ拘束されてもここは九時半にはしまるし、長丁場になるわけじゃないだろうからいいか。
「まぁそれなりには」
「そっか、じゃあゲームコーナーにでも行ってみる?」
「了解」
せいぜい彼氏役としての業務をこなそうと自動ドアをくぐると、派手な格好の二人組が目に飛び込んできた。おいおいマジかよ。
「マジか?」
どうやら俺と同じ事を思ったらしい。二人のうちアロハシャツがこちらに気づくいなや、まずそうな顔をする。
「お、もしかし可愛い子ちゃん見つけっちゃた感じじゃな~い……事もな~いけどこの二人ってぇ……」
アロハシャツに続いてロン毛がこちらに気づいたらしく、口元を引きつらせる。
束の間の沈黙が訪れ、硬直状態に陥る。
これはもう見て見ぬふりをしてお互い関わり合いにならないのが得策かとスルーしようかと思ったが、突然白崎が口を開くので叶わない。
「あ、秋葉原で正成君に追い払われた人たちだよ~」
何故か楽し気に言う白崎に、二人組が後ずさる。
余計な事言いやがってこの女。
「ああ、先日の……」
「ひっ」
平和的に解決したいと愛想よく笑ったつもりだが、帰ってきたのはひきつった顔だった。
「すみませんっした~!」
間もなくして身を翻すと、二人組は一目散に逃げていく。
「意外に賢い人たちだったね。せっかく助けてくれた時の正成君がまた見れると思ったのに」
「俺の黒歴史を掘り起こそうとしないでくれ」
掘りおこせるほど遠い昔でも無いが。
「でもあの時の正成君すごく……」
白崎は一旦言葉を区切ると、遠慮がちな目でこちらを見てくる。
「かっこよかったよ?」
「そういうのいいから」
あんな醜態二度と晒してたまるか。
「本当の事言ってるのに」
「それよりなんで友達との遊びを蹴って一人で秋葉原来てたんだ?」
秋葉原でのとった俺の行動は忘れたいので、適当な話題を振って話を逸らす。
「えっとね、炊飯器が壊れたから見に来てたんだよ。お鍋とかでも炊けるけどやっぱり不便だからね」
「なるほどな」
どうやら白崎は家事などを自分でこなしているらしい。まぁ掃除とか洗濯までやってるのかは分からないが、少なくとも料理はしているのだろう。菅生に聞かれた時に家の用事と口にしていたことだしな。
適当に会話しつつしばらく歩いていると、やがてゲームコーナーへたどり着く。コーナーと言ってもしっかりテナントは入っているようで、子供用のパークがあったりとそれなりの大きさだ。
とりあえずUFOキャッチャーコーナーに入っていくと、見知った髪色が見える。
「ざっけんな!」
荒げられた声に、白崎もその髪色に気づく。
「あれってもしかして……」
「金髪だな」
それ以外にもいつもの取り巻き二人がいる。その中に玄間の姿もあった。
しかしあまり穏やかではなさそうだな。こちらからは死角で見えないが、何やら誰かと口論をしている様子だ。
店員の姿は……無しか。
「ちょっと待っといてもらっていいか白崎」
「うん」
スルーしても良かったのだが、色々と思う事があるので様子を窺いに行く。
「だから何回も言ってるだろカス。俺らの行為は正当なんだよ」
見てみれば、少し肥えた男が金髪に見下すような視線を送っていた。
他にも爽やかイケメンと真面目そうな眼鏡も対峙している。いずれも他校の制服のようだが。
「それなー? 僕たち悪い事なにもしてないしー?」
爽やかイケメンがのんびりした口調で金髪を煽る。
「いや普通に考えておかしいよね? 人が使ってたとこ取るのはどろぼうって分かるよね?」
「そーだそーだ!」
金髪の言葉にいつもの取り巻きの一人が賛同する。玄間の方については、何か探してるかのように辺りを見渡していた。
「くだらん。これだから低学歴は」
「んだと眼鏡!」
眼鏡から軽蔑の眼差しを向けられ、金髪が激高する。
「チンパンが吠えてて草。実際高校の偏差値っていう数値で人としての優劣は一目瞭然なんだよなぁ」
太っちょが嫌らしい笑みを浮かべ煽り始める。偏差値を人の物差しにするのはどうなんだ。しかもうちそんな悪くないし。
体系に似合わず小さい男よと謎の達観を決め込んでいると、金髪が声を荒げる。
「てっめ……!」
おいおい......。
頭に相当血が上っているようだ。金髪が飛びかかろうとするのを、俺はすかさず止めに入った。
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