言ってしまった 2
「……あれ?」
そんな事をしていたら、いつの間にかmilk teaが目の前に。でも、電気が全く点いていないしカーテンも閉まっている。
「なんで……あっ!今日水曜日じゃん!milk teaお休みだよ!」
そうだった。毎週水曜日はmilk teaの定休日。すっかり忘れて来てしまった。
「そうだ~。うわー、バカだ!」
いくら嘆いても定休日は定休日。
「しょうがない。帰ろう……」
こんな寒い日はミルクティーを飲んで温まりたかったけど、定休日じゃどうしようもない。
私は項垂れながらクルッと踵を返し、来た道を戻ろうとした時――、
「実森さん?」
後ろから、チリン――と言う鈴の音と一緒に声がして振り向いた。
そこには、照明もなにも点いていない真っ暗な店内から半身を出している三毛さんと、その足元にアールの姿。
「え?あれ?今日は定休日なん、じゃ……?」
突然の三毛さん&アールの登場に、ちょっとうろたえた。
ここは、お店兼三毛さんの自宅(お店の二階)になっていて、お店の入り口と自宅の玄関が別の構造になっている。自宅の玄関から顔を覗かせるんなら分かるんだけど、真っ暗な店内から出て来た事に少し驚いた。
「あ、はい。定休日なんですけど……」
「……?」
歯切れの悪い返答に、私は首を傾げた。
「ニャーン」
三毛さんとドアの間をすり抜けて、アールがお店の中へと戻って行く。開いたドアから何気なく目で追うと、アールはカウンターにトンッと上がって何かに顔を擦り寄せた。
その反動で少しそれが傾き、何かが分かる。
……奥さんの写真が飾られている、写真立てだった。
「アール、ダメだよ」
もう一度写真立てにすり寄ろうとしたアールを三毛さんが抱き上げ、下へ下ろす。
「ニャーン……」
ごめんなさい、と言っている様に鳴いて、いつものアール専用ベッドに丸くなって寝てしまった。
写真立ても、いつもの位置に戻される。
私はそれを、何も言わずに見ていた。
と言うより、言えなかった。
三毛さんの横顔が、今にも泣き出してしまいそうで……。
(奥さんの事、思い出していたのかな……)
そう思ったら、ギュッと胸が締め付けられた。
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