小説家の親友、楓 2

「……亡くなった奥さんを一途に想い続ける。かぁ……」


楓が突然、ホントに突然ボソッと呟いた。


カップを持ち上げる私の手が止まる。


「でもさ、それも素敵な事だと思うけど、あたしはどうかと思うなぁ」


私がなるべく思わない様にしていた事を、楓にズバッと口にされて心臓が脈を打つ。


「……どうして?」


「だってさ、確かに自分が死んだ後も想って貰えるのは嬉しいし、それが良いって言う人もいるかもしれないけど、でもそれって本当に幸せな事かなぁ?なんか、前を向いていない気がして、もしあたしが奥さんだったら、嫌かな」


……楓が言っている事は、間違っていない気がする。


一人の人を想い続けるのは、確かに良い事。忘れる事なんて出来ないだろうし、忘れなくても良い。でも、三毛さんは本当にそれで幸せなんだろうか。


辛い時、淋しい時、嬉しい時。誰か側にいて欲しいって、思わないのかな。


三毛さんが不意に見せる淋しそうな笑顔が脳裏に浮かぶ。その笑顔を見る度に、私が本当の笑顔を取り戻してあげたい、と思うんだ。


でも、今の私では多分無理だと思う。


「……手強いと思うよ」


楓が私の気持ちを見透かした様に、言った。


「うん。分かってる……」


「引き返すなら、今じゃない?」


「……もう、遅いよ」


楓の目を見て、笑う。


そんな私を見て、やれやれ……と肩を竦め、楓が紅茶をすすった。


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