小説家の親友、楓 1

「まるで漫画か小説のようだね」


鼻と上唇でペンを挟み、私の話を聞きながらフムフムと頷いているコイツは、中学からの同級生で親友の『佐山楓さやまかえで』。


見た目は悪い方じゃないのに、家に引き籠っているせいかいつもスッピン、髪はボサボサ。中学からのジャージを着て、一日中パソコンとにらめっこをしている。


「漫画か小説って、そんな単純な話じゃないわよ」


「あら、失礼な!漫画だって小説だって、試行錯誤して出来上がるんですからね!単純なんかじゃないわよ!」


フンッ!と鼻息を荒くして楓がふんぞり返る。


「はいはい。それは失礼いたしました」


「心が籠ってないなぁ……」


ブツブツと文句を言っているけど、放っておこう。


「そんな事より、新作の調子はどうなのよ」


「うっ……」


楓の職業は、小説家。こんな成りしているけど、決して引きこもりではない。


デビューして何作品かはまあまあの売れ行きだったんだけど、最近はスランプで作品が書けていない。でも本人はあっけらかんとした性格だから、多少は気にしているものの全体的に気にしてないみたい。


(それもどうかと思うんだけど)


楓曰く、無理やり考えても案が出ない時は出ないし、かと思いきや急に良い案が出る時もあるからそれを気長に待っているらしい。


なーんにも考えないで過ごす方が、パッと閃くんだって。


「あたしの話は置いといて、こないだ言ってた件、どうしたの?」


都合が悪くなったのか、話をすり替えて来た。


「ああ、あれ……」


実は今、会社を辞めようかどうしようか迷っていた。きっかけは、三毛さんのお店の求人広告。


前から思っていたんだけど、三毛さんのお店は繁盛している割りに他に従業員がいなかった。だから忙しいお昼時とか夜は三毛さんが一人でパタパタ走り回っている。常連さんとかはお冷なんかを自分で取りに行ったり。


私もたまに手伝ったりしていたんだけど、皆から「三毛ちゃん、従業員雇ったら?」と言われて三毛さんも「お客さんに迷惑がかかるなら」って事で求人の貼り紙を出した。


「確実に雇って貰えそうなの?」


「多分。私、学生の頃ファミレスでアルバイトしてたし、その時はホール任せられてたから大丈夫だと思う」


誰かが面接に来たって話は未だに聞かないから大丈夫だと思うんだけど……。


「ああ、そう言えばそうだったね。おばさん達はなんて?」


「お母さんもお父さんも、好きにしたらって。私が元々紅茶好きって知ってるし」


「そう……。まあ、実森がそうしたいって言うんなら、あたしは応援するよ」


楓がニッと笑って私の頬を突いた。


「ありがとう」


私は突かれた頬をさする。


これ楓の癖なんだけど、事ある毎にこれをやって来るから前に「なんでそんなに触るの!」と怒ったら、「実森のほっぺはぷにぷにで触りたくなるんだ!」と逆ギレされた。


あまりにも堂々とそんな事を言うからおかしくて、その時から放っといてるんだけど、いつまで経ってもこの癖は治らない。


暖かい陽射しが降り注ぐ中、ジャズをBGMにまったりと二人で紅茶をすする。


三毛さんに勧められた茶葉。琥珀色に輝くこの紅茶はクセがなく、とても飲みやすい。

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