家の倉庫が転移装置になったので、女神と四大精霊に農業を仕込んで異世界に大農場を作ろうと思う ~史上最強の農家はメンタルも最強。魔王なんか知らん~
第303話 鬼窪玉堂のシティハンター ~春日兄妹は海坊主ポジション~
第303話 鬼窪玉堂のシティハンター ~春日兄妹は海坊主ポジション~
刃振組とは、かつて鬼窪玉堂が若頭を務めていたヤの付く自由業集団である。
今は任侠集団から人情集団に姿を変え、福祉サービスを時岡市で展開している。
組長は「お年寄りは大事じゃもんのぉ。じゃあ、ワシも施設入るわ」と言って引退したため、今は鬼窪が組長を務めている。
医療老人ホームと野菜の訪問販売をメインに活動しているが、児童福祉の分野にも手を伸ばし、4年後を目標にフリースクールを2校ほど開設予定。
既に組の若い衆が6人ほど大学受験の追い込みに入っており、教員免許を取得する計画になっている。
もはや、顔が怖いだけの優しい集団な刃振組。
だが、時々トラブルの解決を依頼される事もある。
今日はそんなお話。
◆◇◆◇◆◇◆◇
刃振組に近くの商店街から理事長が訪ねて来ていた。
かつてはショバ代を徴収する代わりにトラブルバスターを請け負っていた事もあり、鬼窪の方針で「なんぞ困ったことがありゃあ、いつでも言うてくだせぇや!!」と表明している。
これまではその約束が果たされることもなかったが、悲しいかな、ついにその時が訪れていた。
理事長は悲痛な面持ちで語る。
「私ら商店街に立ち退きをしないかと言う提案がですね、半年ほど前に持って来られたんです。建築業者から。立退料もそれなりでしたが、私らも愛着がありますので、お断りしたのです。それからですね……」
「なるほどのぉ。で、嫌がらせし始めたっちゅう事ですかい?」
「最初はいたずら電話などでしたが、今では夜の間に店舗に落書きをされたり、窓や看板を割られたりと……。警察には被害届を出して、巡回も強化してもらっているのですが」
「お上も頑張るけどのぉ、どうしても手ぇ届かんところっちゅうもんはあるけぇのぉ。よう分かった! ワシらに任せてくれぇ!! あんた方にゃ長年ご迷惑かけてきたけぇ! 刃振組が責任もってこの件、収めさせてもらうけぇの!!」
そこに軽トラがやって来た。
この世界で軽トラを運転する人間は限られている。
「これは間が悪かったか。来客中だったとは。出直して来よう」
「あああ! いや、兄ぃ!! すぐ終わりますけぇ! 応接間で待っちょってくだせぇ!! 柚のお嬢もいらしちょるんですか!? マカロンありますけぇ! すぐ用意させます!!」
「あ、そんな! お気になさらず!! って、行っちゃいました。私、付いて来ない方が良かったでしょうか」
「いや。柚葉は関係ないぞ。鬼窪はああいう男だ。義理堅いからな。とっくに禊は済んでいるのに、困ったヤツだ」
「ふふっ! 困っている割には嬉しそうですよ? 兄さん!」
「そうか? まあ、あいつは良いヤツだからな。時にそちらの御仁。話が少し聞こえてしまった。嫌がらせを受けているとか。心痛お察しする。良ければこれを。今朝採れたばかりのトマトだ。山ほど持って来たので、ご近所で分けてくれ」
段ボール1箱をポンと差し出す黒助。
理事長は当然固辞したが、3度目の押し問答で諦めたらしく、笑顔でお礼を言う。
「ほう。商店街に八百屋が3軒もあるのか。このご時世に稀有だな。素晴らしい」
「ええ。ですが、潮時なのかもしれませんな……。では、私はこれで。トマトありがとうございました」
力なく去って行く理事長を見送って、柚葉が黒助の服の裾を引っ張った。
「兄さん!」
「ああ。そのつもりだ」
鬼窪が戻って来た。
マカロンとロイヤルミルクティーを持って。
「お待たせしやしたぁ!!」
「鬼窪。今晩の予定を空けておいた。不埒な輩を懲らしめるのであれば、俺も付き合おう」
「とんでもねぇ! 兄ぃにそがいな事ぁさせられません!!」
「聞くが、鬼窪。普段世話になっている俺に、恩返しをさせてくれんのか?」
「あ、兄ぃ……。そ、そりゃあ反則ですわ……」
「私も行きますよ! 兄さんの活躍はこの目で見届けます! ちゃんとネタ帳も持って来たので、インスピレーション湧いたらすぐに書き残せますし!!」
黒助と柚氏、悪者退治に参戦決定。
◆◇◆◇◆◇◆◇
時計の針が回って、時刻は深夜1時。
報告によると、最も被害に遭う時間帯なのだと言う。
「む。早速来てくれたようだな」
「へい。しかし、若いですのぉ。ありゃあガキですわ」
「んー。大学生くらいでしょうか? でも、大勢いますね。20人くらい!」
鬼窪はスマホを操作して商店街の出入り口を組員で封鎖する。
これで逃げ場がなくなった。
「さて。問題はどの程度懲らしめるかだな。喩え相手が子供だろうと、人に迷惑をかけた分はお勘定を払わせるのが筋だと思うが。鬼窪の意見を聞かせてくれ」
「ワシも同意見ですわ。いたずら電話の時点で既に許せんですけぇ。器物破損。放っちょると傷害や暴行までやりかねませんわ。倫理観のないガキは怖いですけぇのぉ」
方針も決定した。
柚氏はメモ帳に何やら書き込んでいる。
さては今回の参謀を務めるのだろうか。
「柚葉? どうした」
「あ、はい! 若い男の子に囲まれてアレやこれされた後に、兄さ……こほん、ヒーローが助けに来てくれてアレやこれするのはイケるなって!! 忘れないようにプロット書いてます!!」
柚氏、平常運転。春日家は全員がメンタル強者なので、悪漢がうろついていても特に何かを感じる事はない。何ならインスピレーションが振って来る。
黒助が黒いダウンジャケットを脱いで、黒いシャツ姿になる。
「あっ! やっぱり主人公はシャツですよね! そうだ! 戦いでシャツをはだけさせましょう!! わぁ、これ良いです!! ベザルオールさんにラインしなくちゃ!!」
「柚のお嬢は熱中できる事が見つかってええですのぉ! ワシ、応援しますけぇ!!」
「そうですか!? じゃあ、今度モデルを頼みたいです!! 絡み方はやっぱり実物を見た方が捗るので!! ニートとお願いしますねっ!!」
「へ、へぇ? よう分からんけど、承知でさぁ!!」
と言う事で、シティハンターの出動である。
バットやバールを持った若者の群れに普通に歩いて行く黒い服コンビ。
「なんだ? おっさん、ガラス割る前にてめぇの頭かち割っひゅん」
「ひ、ヒロシぃぃぃ!! 何してんだてめぇ! ぶち殺すぞ、このひゅん」
「た、タカシぃぃぃぃ!! おい、おめぇら! 囲んで袋にすひゅん」
隣にいる鬼窪が控え目に進言する。
「あ、兄ぃ? 一応、なんぞ警告せんと、こいつらどがいして殴られるんか分からんけぇ、何の解決にもなりゃしませんで……」
「なるほど。鬼窪。お前は頭が良いな。では、任せる」
黒助の極弱パンチによって、既に戦意喪失のヤンキー軍団。
逃げようともせず、ルーベンスの絵を見た時のネロのように全てを諦めた表情が、切り分けた金太郎飴もかくや。綺麗に整列していた。
「おどれらぁ! 人様の店になぁにをさらしとるんじゃあ!! ちぃと度が過ぎたのぉ? 若かろうが、未熟じゃろうが、そがいなもん、人様に迷惑かけてええ免罪符にはならんのじゃ!! どがいして落とし前つけるんじゃ、ボケェ!!」
鬼窪玉堂、渾身のお説教である。
乱暴な言葉だが、しっかりとした筋が一本通っている。
「すみませんでした。死にます」
「え゛っ。い、いや、そこまで思いつめんでもええで?」
「ヒロシ、元ボクサーなんです。タカシは空手の全国大会で3位になった事があるんです。それが一瞬で作画崩壊しちまった。そっちのお兄さんに殴られるくらいなら、死にます」
「お、おお……」
そっちのお兄さんが一歩前に出る。
ヤンキーたちが全員ひれ伏した。
「お前たち。何とか言う会社に小遣い貰ったのだろう? そこはこれから、この鬼窪が塵も遺さず掃除をする。つまり、今、このタイミングで手を引かなければ巻き添えを食うぞ。さっきはつい手が出てしまった。すまん。お前たちはまだ若い。まずは明日の昼にでも、ご迷惑をおかけした店に行って謝罪しろ。許してもらえるまで何度でもだ。弁済はこの鬼窪が全部賄う。で、心を入れ替えろ。今後の買い物は全部、この商店街で済ませろ。あと、野菜と果物しっかり食え。分かったか」
「あ。はい。本当にすみませんでした。1回死んだつもりで明日から生きて行きます。野菜食べます。生まれて来た喜びを実感しました。もう2度と人の道から外れません」
「そうか。なかなか話せるじゃないか。では、俺は帰る。鬼窪、後は任せた」
「へ、へい! お疲れ様でござんしたぁ!! おどれらぁ! 頭下げぇ!!」
「「お、お疲れさまでしたぁ!!」」
こうして、1つの商店街の秩序が守られた。
全然シティハンター感が出なかったので、黒助が今からダウンジャケットを羽織った瞬間に『Get Wild』をスマホ等で流してください。
はい。今です。
ああ、良いですね。もう完全にシティハンターです。
今日から商店街は平和になった。
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