家の倉庫が転移装置になったので、女神と四大精霊に農業を仕込んで異世界に大農場を作ろうと思う ~史上最強の農家はメンタルも最強。魔王なんか知らん~
第299話 大魔王ベザルオール様のホームシアター! ~恋人と映画の楽しみ方を分かり合えなかった時の哀しみ~
第299話 大魔王ベザルオール様のホームシアター! ~恋人と映画の楽しみ方を分かり合えなかった時の哀しみ~
コルティオールのとある山脈。
魔王城では。
「くっくっく。アルゴムよ。準備は抜かりないな」
「はっ! ポップコーンは各種フレーバーを取り揃えておりますれば! ドリンクバーの補充も完璧でございます!! 温度も2℃ほど下げております!!」
「くっくっく。良い。映画は2時間程度ノンストップ。氷を入れるドリンクも悪くはないが、溶けて味が薄くなる。あと、ストローでズルズル吸ってたら周囲の者が不快に思うかもしれぬ。その点、ホームシアターであれば、常に冷えた飲み物を欲しい時に欲しいだけ取りに行ける。くっくっく。さすがはアルゴム。我が忠臣よ」
「ははっ! ありがたき幸せでございます!!」
ベザルオール様は現世の大型量販店との間に交易を結んでおられるので、常に発注書を送れば数時間で召喚魔方陣に転送されてくる状態を維持。
今回、元々持っておられたバックトゥザフューチャーの三部作セットが度重なる視聴により摩耗して、良いシーンで再生できなくなる不幸に見舞われた。
そのため、速やかに買い直されたベザルオール様。
ラインで世間話ついでにその話をコルティ様に告げると「私、映画と言うものを見てみたいです!!」と食い気味の返事が来たのが昨日の事。
ベザルオール様はコルティ様に対して「くっくっく。結局思い出せへんかってん」と言う負い目を感じておられるため、彼女の希望は優先的に叶えていく御心を持つ。
クリスマスイブにやらかしてから、その思いはさらに強くなったと言う。
だが、一般人とオタクが2人きりでバックトゥザフューチャーの三部作一気視聴はキツい。
相手が異性で、しかもバックトゥザフューチャーに対する予備知識がゼロとなると極めてキツい。
もはや名作、定番とも言える作品を一気視聴する際は、ネタバレ上等、個人的見解上等、何なら見ながら「くっくっく。ドクの知能と技術がちゃんと時系列で成長してるの、すごくね?」などと、上映を遮らないボリュームの声で討論を挟むまである。
それが楽しくてやっている趣も大きい。
が、もう一度言おう。
コルティ様は初見。
つまり、ベザルオール様は黙ってもう30回くらい見たマーティとドクのコンビネーションを拝見、静聴なさる必要がある。
結構辛い。
実質付き合い始めたばかりなカップルが無言で映画を6時間見るのはまぢむり。
飛竜が発着場へと到着したと、今日の守衛担当ガーゴイルが知らせに来た。
ベザルオール様は立ち上がる。
数分後。謁見の間にやって来たのは。
「じいさん。デカい画面でデロリアンが見られると聞いたが」
「いやー! もう謁見の間が実家のような安心感!! どうもー!!」
「私も何だか落ち着きます。ニートと同じ感想は悲しいです……」
「こんにちはー!! ベザルオールさん! お土産にミスタードーナツ買って来たよ!!」
春日家フルメンバーである。
「くっくっく。来たか。今日はお忙しい中、よくぞおいでくださいました。心ばかりのおもてなしを致しますので、どうか6時間。いや、そのあと感想会が絶対あるので、8時間くらいごゆっくりして行かれてください。お夕飯の準備もできておりますし、大浴場も掃除しておきました。本当に来てくださってありがとうございます」
彼らはもはやベザルオール様にとって最も気の置けない人間たち。
既に春日家の名誉おじいちゃんとして地位を確立しておられるベザルオール様は、日頃の行いの成果もあり、愛すべき家族たちを招集する事に成功していた。
しばらくみんなでドーナツを食べていると、魔王城の近くにある荒野が揺れる。
宇宙要塞ウェディングベザルが着陸したのだ。
映画鑑賞の幕が上がる。
◆◇◆◇◆◇◆◇
バックトゥザフューチャーについては説明不要である。
と、言いたいのだが、既に公開されて今年で37年。
不朽の名作過ぎるため、若者には未視聴の者も多いとインターネットが言っていた。
ゆえに内容にほんの少しだけ触れながら進行していく事をご了承されたし。
興味が湧いた人はレンタルやサブスクで見てみよう。
令和の時代に見ても面白いし、古臭さを感じないし、マイケル・J・フォックスはカッコいいし、吹き替え版もむちゃくちゃ良いので、あっという間に時間が過ぎる事だろう。
連休も近いし、時間のある方に是非ご提案したい休日の優雅な過ごし方である。
飲み物はペプシを推奨します。
なお、映画の布教活動をしている間に謁見の間ではパート1が折り返し地点を迎えようとしていた。
「あの、ベザルオール様? よろしいですか?」
「くっくっく。何用か。コルティさん。お花を摘まれるのであれば、一時停止をするが。遠慮をする事はない。あなた以外は全員が視聴済みである。くっくっく」
「あ。いえ。あの、ジゴワットとは、現代のエネルギーに置き換えるとどのくらいの出力なのですか?」
「くっくっく」
ベザルオール様に電流走る。
「くっくっく。この子、映画見ながら普通に喋るタイプやで」と。
さらに質問は続く。
「ええと。思ったのですが。ドクさんは、ご自分で過去にタイムスリップなされたら良いのでは? タイムパラドックス的な制限があるのかと思いましたが、マーティさん、普通に時空を歪めておられるようですし」
「くっくっく」
ベザルオール様に雷撃落ちる。
「くっくっく。この子、映画をフィクションと捉えずにロジカルな考察して来るタイプやで。さらに、隣にいる子に同意求めてくるタイプやんか」と。
とりあえずベザルオール様は「くっくっく。まずは最後までご視聴頂きたい。くっくっく」とお言葉を濁された。
そしてパート1が終わる。
「ふぃー!! やっぱり程よいアクションシーンが80年代映画の見所だねっ!! あたし、トイレ行ってくる!!」
「自分の母親を落とす無自覚イケメン……。むむむ。これは……。一周回ってありですね! 次回作のプロットに組み込みましょう!!」
映画の楽しみ方として百点満点なミミっちと、名作映画からもよくないものを拾っていくスタイルの柚氏。
2人の乙女がお花を摘みに一時退室。
「あの。ベザルオール様?」
「くっくっく。クロちゃん。てっちゃん。ジュースのおかわりは?」
「ベザルオール様。マーティさんは結構な時間あちらの時空に滞在していましたけど、どうして両親はその記憶がなくなっているのでしょうか? 夫婦どちらもですよ? しかも、相当印象的な出来事なのに」
「くっくっく」
映画の楽しみ方は人それぞれである。
が、「映画の視聴スタイル」と言うものは男女の価値観を隔てるきっかけとしてしばしばデートの番人役を務め、「なんやねん、こいつ」とお互いに思ったりした場合、喧嘩に発展、最悪の場合は破局にまで連れていかれると言う古来の伝承も存在する。
ベザルオール様は「くっくっく。作品はその作品独自の世界観とルールを順守して楽しむのが正しい作法である」と考えておられる。
対して、コルティ様は「お金払って見たのですから、疑問を口にするのも視聴者の権利では?」と言う派閥に属している。
どちらが優れている、どちらが間違っていると言う事はないが、この組み合わせは非常によろしくない。
だいたい戦争になる。
「コルティ。少し良いか」
「はい。黒助さん。なんでしょうか?」
「じいさんはな、この映画が好きだ。コルティの事も好きだ。自分の好きを好きな相手と共有したいと思っている。つまり、映画の考察よりも先に、あんたたちはまずお互いの心の考察をすべきではないか? 映画はそれから楽しめ」
「ひょー! 僕がコーラとオレンジジュース合成してる間に兄貴がイケメンムーブかましてる!! さっすがぁ!! 僕の自慢だよ!!」
「ははっ。なんだ鉄人。急に持ち上げたって小遣いは増やさんぞ? 来月からは10万だ」
クロちゃんもドリンクバーへと去って行きました。
「あ、あの。ベザルオール様」
「くっくっく」
「全て見終わったら、ベザルオール様がお好きなシーンを教えてください! そ、それで! 後日、今度はベザルオール様の解説を聞きながらもう一度見たいです……!!」
「くっくっく。もちろんである。余の全知全能をもって、あなたの希望と期待に応えよう」
その後、老齢カップルはものすごく静かに2と3を見て、幸せそうだったと言う。
春日黒助は根っからの救世主体質。
カップルの危機も華麗に救い、何も言わずに去って行くのだ。
今日のコルティオールは平和であった。
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