第297話 エメラルドのリュックたん、最終決戦フォームへと進化する時!!

 コルティオール。

 春日大農場では。


「おい。メゾルバ」

「くははっ。何用か、我が主」


「今日はリュックが休みだからな。お前、暇そうだし手伝ってくれ。畑を増やそうと思う。最終決戦に勝ち残ればバーラトリンデの連中にも農業をさせようかと思ってな。その準備だ」

「我にお声がけとはお目が高い。久方ぶりの仕事である」


「そうか。とりあえず、俺とお前で土を耕すぞ。手で」

「……くははっ。主よ。トラクターを借りぬのか?」


「バカタレ。最近な、営農課の当たり判定がキツいのだ。この間なんか、ほんの少しミラーに傷がついたとかでな。そもそも、あの傷は元からあったのだが。と、言っても詮無きことだ。2日で畝たてまで一気に済ませたい。水筒を首から下げて、ポケットには氷砂糖を入れておけ。逐次、適切な摂取をしろ。昼飯は5分で済ます。日が沈むと仕事にならん。晩飯はしっかり食って構わんからな。よし。かかるぞ」

「くははっ。我の出番、さてはこれにて終わりであるな?」


 力の邪神・メゾルバさんの生存報告でした。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 リュックたんの家に、ミアリス様がやって来ていた。


「マジすか。ミアリスさん。ガチのマジすか。んな事、マジでできるんすか。あなたは女神じゃなくて創造主だったんすか。偽物おっぱいでも嬉しいっす。うす」


 正座をしているエメラルド乙女。

 ミアリス様にはフカフカのにゃんこ座布団と、未美香に分けてもらったお気に入りのハーブティーを差し出している。


「ええ……。そんなかしこまらないでよ。コルティさんから連絡が来たんだってば」

「あのクソ女将っすか? てめぇの乳はでけぇくせに、私のおっぱいは機能性考えて最小に設定しやがった、あのクソ女将っすか。何言ってきたんすか? 場合によっちゃ、私も考えあります。二の腕から発射口出して、即刻『翠玉遠距離射撃形態エメラルドロングレンジ』に換装して、バーラトリンデにぶっ放しますけど」


 リュックたんも修行中なので、彼女の砲撃でバーラトリンデの2割くらいは消し飛びます。


「お、落ち着いてってば! コルティさんもね、リュックの、ええと」

「うす。遠慮は無用っす。ミアリスさんの言い淀む優しさが逆に刺さるっす。この貧しい胸に。貧乳に。こないだ、イオンモールに行ったんすよ。未美香と。で、2人でお揃いの下着買おうって売り場に寄ったんですけど。店員さんになんて言われたと思います?」


「りゅ、リュック?」

「お客様はお胸が慎ましいので、こちらのタイプなどよろしいかと! とか言われて。スポーツブラコーナーに連行されたんすよ。可愛いブラ買いに来たのに。で、仕方なくその中でも可愛いヤツ探してたら、隣に来たんす。……小学生の女の子が」


 こんなに悲しいセリフをリュックたんに言わせるのは辛い。

 辛いついでにコルティオールおっぱい番付をそっと公表しておこう。


 ウリネたんの方がリュックたんよりもわずかに強い。


 お察し頂けると幸いである。


「ちょ、泣かないでよ!」

「あはっ。鉱石生命体にも、涙って出るんすよね。はははっ」


 埒が明かないので、ミアリス様が大きな声でリュックたんに告げる。


「今日はね! リュックに成長する胸を創造するために来たのよ!! 急に大きくなるわけじゃないけどさ! これまでの鉱石の体に有機体の部分を創造して、栄養とかで大きくなるように……! リュック!? えっ、どうしたの!?」

「や。てっきり、パッドみたいなもの作ってもらえるんだとワクワクしてたら。なんか、私の貧しい乳が成長するとか言われて。うす。軽く吐きそうっす」


 それから、リュックたんが落ち着くまで2時間かかった。

 その間にミアリス様は非常に大事な説明を3度繰り返した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 リュックたん、キャストオフ。

 普段はかなり恥ずかしがる彼女なのに、今日の脱ぎっぷりにはなんの迷いもなかった。


 いつもなら顔を真っ赤にして胸を手で隠すのに、堂々と腰に手を当てて何だか誇らしげにも見える。


「え、ええと。あの、リュック? 説明聞いてたわよね?」

「うす! 全部忘れたっす!!」


「この子、普段あんなにしっかりしてるのに!! 恋愛絡みでダメになるのはわたしも人のことを何も言えないけど!! おっぱいでここまで自我を失くす!? って、叫びたいけど! 持たざる者の気持ちをって件で多分ものっすごい長文のセリフ吐かれそうだから絶対に言えない!!」

「どうしたんすか? ミアリスさん! いや、聖母様!!」


「ほらぁ! すっごい崇め奉って来るんだけどぉ!? やだぁ! わたし、さっき超緊張して、細心の注意払って説明したのに、この子マジで全然聞いてなかったの!? またやんないとダメなの!? 嘘でしょ!?」

「やー! おっぱいデカくて性格良くて、顔も可愛くて仕事がデキて! 料理もうめぇし、ちょー優しいし!! 神ってんすよねー、ミアリスさんって!! うおおー!! 私、男だったらマジで何回フラれても告り続けますわ、マジで!!」


「んぎゃぁぁぁぁ!! 言いづらい!! このキラキラした瞳に見つめられながら、わたしはこんな残酷なこと言わないといけないの!? サンタクロース信じてる幼稚園児に、それお前の親父だぞって言うくらい罪悪感よ!! あのウルトラマンの中はね、運動がデキるおじさんよ? とかヒーローショーに来てるちびっ子に宣告する気分!!」


 リュックたんは上半身をフルオープンさせたまま、キッチンへ。

 大福をお皿に載せて戻って来る。


「ミアリスさん! これ、未美香と一緒に買ったヤツなんす! 最後の1つで、今日の晩御飯の後に食べようと思ってたんすけど、どうぞ! マジでどうぞ! ミアリスさんに食べてもらいてぇんで!! うす!!」

「うわぁぁぁぁ! ウキウキしてるんだけど、この子!! なんでノーリスクでおっぱい育つようになると思ってるの!? どうしたらいいの、わたしぃ!! もう今さら、やっぱヤメようとも言えないしぃ!!」


 リュックたん、おもむろにジャンプを始める。

 もはや奇行である。

 彼女の常識力は黒助ハーレムにおいても随一。


 他の追随を許さなかったはずなのに。


 これが最終決戦効果なのだろうか。


「あははっ! こんなに飛んでも! 揺れることすらねぇんすよ! 見てくださいよ、ミアリスさん!! ほらぁ! なんかちょっと膨らんでるだけ! なんなら、ハチに刺された方が大きく膨らむかもっす! あはははっ!!」

「……もうヤダ。セルフ貧乳ディスまで始めちゃったわ。……よし。言おう。もう一度。と言うか、既に三回説明したから、四度目なんだけど。言わなくちゃ!!」


 ミアリス様は魂を燃やした。

 その消費エネルギーは筆舌に尽くしがたいものがあり、彼女は差し出された大福を口にする。


 モグモグやってごくりと飲み込み、ハーブティーで喉を潤したらいざ決戦の時。


「リュック!!」

「うす!」


「もう一回だけ言うから、ちゃんと聞いてね!?」

「うす!!」



「あのね? あんたの体の胸の周りだけを創造して、再構成するから。その、育つようにはなるんだけどね? ……一時的にさ、なくなるの。一旦ゼロになるから。わたしの創造の力って、基本無機物を生み出すものだし。有機物を創る時は無からスタートなの。あ、あれ? リュック?」

「……これが精神的レイプっすか。あー。私の初めて、奪われたっすわ。マジでこの喪失感。え? 私のおっぱい、無に帰するんすか? 貧乳ですらなくなるんすか? 無乳になるんすか? マジっすか。もう、外出られないっすね。は、はは……」



 瞳から光が消えるのはこの世界の伝統芸能。

 リュックたんも習得しました。


 その後、「や、やっぱりヤメとく?」と聞くミアリス様に対して、涙目でリュックたんは答えた。


「やるっす。……世界が滅ぶ瞬間に、後悔したくねぇんで。ただ、お願いがあるんす。……私のおっぱい、最期に見てやってもらえますか? はは。生乳、ついに黒助さんには見せらんなかったな……。はははっ」

「いや、ちゃんと育つわよ!? じゃあ、やるけど!? あとね、わたし、しばらくあんたの家に泊まるから! 心配でしょうがないわよ!! やるからね!? はいっ!! ほら、やってる! 今やってるわよ!! ちょ、無表情ヤメてよ!? ねぇ、わたしなんかすごく酷い事してるみたい!! ねぇ!?」


 リュックたんの家から眩い光が溢れ出し、数分続いたのち静寂が訪れた。

 あの光の正体は、希望か。

 はたまた絶望か。


 リュックたんおっぱい編。

 回跨ぎです。

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