第294話 修行とかしてみちゃうコルティオールの戦士たち

 コルティオール。

 ペコペコ大陸の野球場では。


「よし。では頼むぞ」

「任せといて! みんな、今日は頑張るわよ!!」


 春日黒助を中心に、数人の春日大農場の幹部たちが集まっていた。

 ミアリス様は創造で産み出せる最も固い鉱石『ガチムチ石』を大量生産中。


「兄ぃ! ワシ、手加減せんけぇ!! 任せてくだせぇや!!」


 鬼窪玉堂も本日はコルティオールに参上していた。

 さらに力自慢たちがストレッチ中。


「吾輩、出てくるたびに生の喜びに打ち震えているでござるよ!!」

「そりゃオレも一緒だぜ、ブロッサムの旦那ぁ! 呼ばれるだけありがてぇ!!」


 本日はコルティオールおよびバーラトリンデの「特訓デー」と決められていた。

 最終決戦が迫る今、特に先頭に立てるであろう戦士たちを強化しておくのは未来を勝ち取るための必須条件。


 先陣を切るのは我らが主人公。

 春日黒助事業主。


 特訓内容は実にシンプル。

 と言うか、彼には物理しかないので、物理を鍛えるしか方法もない。


 ありもしない魔力を求めて「これは魔法だ」と豪語する時期はとっくに過ぎたのだ。


「おっしゃ! ブロッサム! ギリー!! ワシが合図したらその固い石を投げぇ!!」

「承知でござる!!」

「ガッテンだぜ!!」


 まず、鬼窪は精密射撃を身に着ける。

 魔弾を撃ち出せるピストルをライフルに取り換えて、ガチムチ石の中心をバシュンバシュンとピンポイントで狙う。


 砕けないガチムチ石は推進力を得て、黒助に襲い掛かる。

 彼はそれを普通に砕く。


 もはや付与された最強の肉体の最大解放も済ませている黒助にはこれ以上の伸びしろや潜在能力の解放みたいな特殊イベントが起きないので、地道な訓練しかない。


「よっしゃあ! やってくれぇや!!」

「うるぁ! でござる!!」

「いくぜ、いくぜぇ!!」


「ワシ、散弾銃もライフルも結構経験あるけぇ!! バンバン撃つけぇ!! 兄ぃ!! 行きますで!! おらおらおらぁ!!」


 魔弾を受けたガチムチ石は加速して黒助に襲い掛かる。


「ふぬぅあ!! 『農家のうかパンチ』!! まだ来るか! 『農家のうか連撃ラッシュ』!!」


 ガチムチ石は粉々になる。

 既に次のガチムチがミアリス様によって生産済み。

 後はこれを日が暮れるまで繰り返すのである。


「……なんかさ。地味じゃない?」

「ミアリスの姉御。それ言うたらいけん。修行っちゃあ、だいたい地味なもんじゃけぇ……」


 地味な主人公チームは置いて行こう。

 間が持たない。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「くっくっく。覚悟は良いな。春日鉄人。余の得難き友。いや、ズッ友よ」

「もちろんですとも! ベザルオール様!!」


 こちらは魔力強化チーム。

 魔法使いポジションが2人になり、さぞかし出番食い合いが起きるかとワクワクしていたところ、万能に魔法を使い分けるベザルオール様と転移魔法や肉体強化などのチート系に活路を見出す鉄人に綺麗に分かれやがったため、この2人はダブル魔導士として最終決戦のチケットをゲット。


「頑張れだしー!! ウチが応援してるしー!!」

「おじいちゃん! 負けるなー!! ボクねー! おじいちゃん応援してあげるー!!」


 なお、風の精霊セルフィちゃんと土の精霊ウリネたんは、別に特訓の手助けをしている訳でもなく、ただ近くで観戦している。

 だが、ちゃんと意味は存在していた。


「くっくっく。孫の声がよォ! 余の魂を滾らせんだよなァ!! ぬぅぅぅぅあ!!」


 ベザルオール様のクイックルワイパーから灰色の雷が走る。


「あらー! ギャルの応援とか、オタクニートが燃えない訳ないんだよねー!! よいしょー!!」


 鉄人の突き出した拳からはピンク色の螺旋がほとばしる。


 双方の魔力は中間地点でぶつかりしばらく押し合いを続けたのち、火花を残して塵となった。


「くっくっく。これは完全に新魔法を覚える流れ。最終決戦前の個別修行パートで新魔法覚えなかったらもう嘘やん。……はっ! 余は……余はついに、メドローアを覚えてしまうのか……!!」

「ベザルオール様的にはカイザーフェニックスじゃないんですか? メドローアは僕が担当しますよ! ほら! ヘタレですし!!」


「くっくっく。鉄人。卿、それはちょっと欲張りと言うもの。卿にはギャルの恋人もおり、聞けばお年玉で10万貰ったうえにお小遣いを8万ゲットしたらしいではないか。さらにニートであるがゆえの無税……!! 卿、ちょっとズルくない?」

「ベザルオール様だってコルティ様とよろしくしてるって聞きましたよ? なんかお正月休みを利用して、魔王城へお泊りに来たらしいじゃないですか!」


「くっくっく。何で知っとるん?」

「リュックたんに聞きました!」


「くっくっく。余は思うのだが。余と卿とリュックたんのライングループ。いくらなんでもプライバシーなさ過ぎじゃない? もう、下世話な話とか何の遠慮もなく走って行くやん?」

「そうですねー! 僕なんか、リュックたんに柚葉ちゃんの下着の写真撮って来いとか言われましたよー」


「くっくっく。何それ? 余、知らんけど?」

「あ。すみません。これ、個別のラインでした! なんか大人っぽいヤツ買いたいから、参考にするんですって!」


「くっくっく。卿、余を除け者にしたん? 酷いやん?」

「でもベザルオール様? 僕とベザルオール様の個別ラインもありますよね? と言う事は、ベザルオール様とリュックたんの個別もありますよね?」


「くっくっく。分かった。余はクイックルワイパーを光魔の杖と言い張るゆえ、メドローアは卿に譲ろう」

「ありがとうございます!! じゃあ、もう一度お互いに名乗り口上のとこから始めましょうか! やっぱ大事ですもんね!!」


「くっくっく。それな」


 魔法使いコンビの修行は極めて効率が悪かった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 バーラトリンデでは。


「おし! エネルギー充填完了!! おわぁぁ!? てめっ! ゴンツ! ふざけんなよ! 私、今まさに必殺技撃とうとしてたじゃんか!! ハゲ!!」

「いや、ごめんね? でもさリュック。邪魔される想定で訓練しないと。敵さん、絶対に後方の遠距離砲狙って来るよ」


 登場が比較的遅かったバーラトリンデ軍は現役で戦える戦士も豊富。

 リュックたんは二の腕に格納されているロングレンジ砲の出力アップと、平常心で砲撃する心構えを習得中。

 ゴンツは心を鬼にしていやらしい妨害を学習中。


「うけけけっ! ヨシコ! アタシに気にせずどんどん撃って欲しいでゲスよ!!」

「無理だよ! お母さんね! 何もしてない子に折檻なんかできやしないんだから!!」


「なんと美しい心でゲスか……!! アタシ、とりあえずその辺を高速で転がるでゲス!!」

「コルティ!! あんたぁ! ちょっと的になりな!!」


 ポンモニは機動力を強化中。

 一撃の破壊力ではとても戦力になれない自覚があるので、持ち前の耐久性と俊敏性を活かして陽動役を買って出ていた。


 ヨシコはポンモニの真逆で、一撃の破壊力が抜きんでている。

 代わりに耐久性は未だ不明。敏捷性をお母さんに求めるのは酷なので、とにかくデカい花火を打ち上げる事に注力。


「どうして私が狙われるのですか……。あ゛っ。ヨシコ! あなた本当に撃ちますね!? くぅぅぅぅ!! 鉱石バリア!!」

「行くよ! コルティ!! 『紅玉母愛砲ルビーおかんガン』!!」


「ひぃぃっ!! 本当に撃つんですか!? 直撃喰らったら私、死んじゃいますけど!?」

「コルティ! お母さんが娘を殺すかい?」


「今、確実にフルパワーで撃ったでしょうに!! 冗談じゃありませんよ!!」

「まだイケるよ! お母さん、夜は3回戦までやれるからね!!」


「なんなんですか!? 仮にお母さんキャラを認めたとして、そのカミングアウトしてくるお母さんは世間一般でもレアですよ!?」

「チャージ充填120パーセント。座標固定グリーン。対象ロックシマス」


「なんでいきなり機械音声になるんですか!? お母さんそんな声出しませんよ!? あなた、正体はペッパーくんなんじゃないですか!?」


 なお、コルティ様も魔力がそこそこ高いため、戦場に駆り出されそうな情勢。

 農協の哀愁漂う牙の異名を誇る某次長も、自宅で通信空手の見直し中。


 本日のコルティオールとバーラトリンデは平和だが、なんだか血気盛んであった。

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