第293話 バーラトリンデより今日の観測! ~地獄の現在地をお知らせいたします~

 コルティオール。

 春日大農場では。


「さて。では行くか。すまんな鉄人。今日は大事な用事があったらしいのに」

「平気だよ! 老人会のみんなと太極拳するのは明後日でも平気だからさ!!」


 春日兄弟が準備を進めていた。

 鉄人がいると言う事は、転移魔法の出番。


「お待たせしてすみません! あの、ちょっと服が決まんなくて……! マジすみません!!」

「いや。構わんぞ。リュックには仕事を休ませてしまったしな。好きな服くらい選んでくれ。お。それも一緒に買ったヤツだな。確か見せパン必須とか言っていたヤツだったか。つまり、今日は見せパンか。とても良く似合ってるぞ」


「うおおお……! やべぇ! もう話の流れ的に、私に見せパンがよく似合ってるとしか聞こえねぇ……!! 完全なセクハラなのに、なんで私はこんな嬉しいんだよぉぉ……!! いやいやいや! 落ち着け、私! 黒助さんは私の服を褒めてくれてんだぞ!! なんでパンツに意識持ってかれてんだよ!! うがあああ!!」


 今日も独り言で迷走するのに余念のないエメラルド乙女。

 さらに2分ほど遅れて、ダイヤモンドマンもやって来た。


「申し訳ありません。干し芋がなかなか干乾びませんで。お時間を取らせてしまいました」

「いや、ゴンツ。芋に対して干乾びねぇとか文句言って……。あんた、もう多分ダメだな。分類が鉱石生命体から、メカか何かに変わってるわ、ぜってぇ」


 メンバーが揃ったころで、いざ転移。

 目的地はもちろん、バーラトリンデ。


 本日は地獄の現在地を確認する、痛みの伴う業務である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 岩山にある創始者の館へと寸分たがわぬ転移をキメる鉄人。

 もはやその精度は岡本さんに追いつこうとしている。


「お待ちしていたでゲス! 皆様! こちら、ヨシコのウェルカム炊き込みご飯でゲス!!」

「ああ。ありがとう。頂くとしよう」


 黒助が頂いてしまったので他のメンバーも断れず、全員でまず炊き込みご飯を口にかきこむ。


「鉄人。気付いたか?」

「兄貴! 間違いないね!」


「このシーチキンの炊き込みご飯。ツナ缶の汁とマヨネーズが入っているな?」

「ごぼうとニンジンを具に選んでるとこもポイントだね! 全然脂っこくない!!」


「腕を上げたな、ヨシコ」

「立派なお母さんだね! ヨシコさん!!」


 後ろでモグモグやっている輝石コンビも「確かにうめぇ」「うーむ。おかわりが欲しくなるね」と高評価。

 ポンモニが自分の事のように喜ぶ。

 ヨシコは館でお昼寝中。


「アタシたちバーラトリンデの民は、来る決戦に向けて特訓中でゲス! アタシは魔力のコントロールを! ゴリとイラミティは魔力の譲渡を! ヨシコは炊き込みご飯の精度を集中して鍛えているでゲスよ!!」



「……ヨシコだけ鍛える方向間違ってね? あ。やべ。黒助さんが頷いとる!! じゃあいいや!!」


 リュックたんは恋愛の波動の前には正論がへし折れる事を既に学習済み。



「では、始めるか」

「ゲス! 『宇宙観測探索装置バーラトアストロサーチ』の稼働準備、整ってゲス!!」


「すまんな、リュック。ゴンツ。力を貸してくれ」

「うす! とんでもねぇっす! 私、頑張ります!!」

「私もお役に立てるのであればなんでもします」


 輝石三神の魔力を合わせなければ、この観測メカは起動しない。

 代わりに、ひとたび起動すればはるか宇宙の先まで見通せる万能マシーン。


「じゃあ僕は補助しますねー! 魔力で観測地点を固定するの、ポンモニさんが兼務するの大変でしょ? 僕、暇ですから!」

「鉄人様……! なんとお優しいお方でゲスか!! アタシ、生まれ変わったら鉄人様のような人間になりたいでゲスよ!!」



 心清らかなニートが誕生する未来の分岐が発生しました。



 輝石三神がそれぞれの魔力出力プラグを握り、エネルギーを込め始めた。

 鉄人が照準を合わせる。


 すると、地獄の軍団の輪郭が少しずつ鮮明になっていった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 はるか彼方。

 バーラトリンデよりもずっと向こうの宇宙空間では。


「さあさあ! どんどん行くよ! あんたたち!! しかしあれだね! お腹空かないってのは良いね!! わたし、もしかして痩せたかな? ねぇ?」


 辺境の岩石惑星ウィシュマルバグを飛び出した原さん、亀、ミニノワールの3人。

 彼らは原さんの推進力により、着実にバーラトリンデの宙域へと向かっていた。


「とんでもない事になってしまいましたわ。惑星の端を掴んで加速して、次の惑星までジャンプすると言う理屈がもう分からないのですわよ。わたくし、この世の理を知ったつもりでいたはずですのに」

「まあ、そう気を落とされますな! 私のフィアンセ!!」


「ぶち殺しますわよ!! このクソ亀!! 何回蹴り落としてもしぶとく食らいついて来て!! あなた、スッポンではなく亀でしょうに!? 腹立たしいですわ!!」

「まさか、私があなたに対して邪な妄想をすればするほど、ノワール様が大きくなっていくとは!! ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! ご褒美だぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 哀しい事に、ノワールの周囲には原さんと亀しかおらず、2人から常時負のエネルギーが発せられているため、彼女の体はどんどん再生中。

 もう体長は70センチを超えており、そろそろミニノワールのミニが取れそうなサイズまで復活していた。


「ぐぅぅぅ。背中には甲羅がガッツリついていますし……。両肩にはJAって刻印が付きましたわよ……。もはや、虚無将軍ノワールでもなければ、虚無のノワールでもありませんわ。これ、わたくしこそが農協のゆるキャラじゃありませんの……」

「ゆるキャラポジションは私ではなかったのですか!?」


「うるさいですわね! 亀!! あなたみたいにキモい生き物がゆるキャラになれるとお思いですの!? ゆるくないんですわよ!! ハードなキモさなんですわ!!」

「あのさ。ノワールちゃん?」



「あ。はい。すみませんですわ、原様。うるさくしてしまいました」


 完全な主従関係が出来上がっている地獄の軍団である。



「いいのよ、いいの。あのさ、暇だからね。カレーに何トッピングして食べたいか話さない?」

「それは大変素晴らしいご提案ですわ! 原様!! わたくし、カツを推しますわよ! やはりゲン担ぎ的にもカツカレーが1番! サクサク食感とカレールーのハーモニー!! これぞ調和というものですわね!!」


「私はハンバーグカレーが良いのですが。やっぱり肉ですよ。ビーフカレーに敢えてハンバーグを追加でドン。そこにウインナーも載せたら完璧です」

「はぁぁー。所詮は亀ですわねー。それ、もう肉じゃありませんの。だったら肉をお食べなさいな。野菜多めのカレーにカツ。これが究極ですわよ。まあ、納豆カレーよりはマシですけれど」


「あー! 確かに! 納豆はないですな! ベタベタしますし! なんか、傷んだカレーってあんな感じになりますよね! かきまぜた後なんかは特に!!」

「亀の発言に分かりみが深くなってしまう事は不服ですが、概ね同意ですわね」


 原さんが浮遊している隕石をゴリッと握りつぶして、ぼそっと呟いた。


「わたし、納豆カレー好きなのよね」



「納豆カレー以外のカレーなんてこの世から消えてしまえば良いのですわよ!! なんですの、カツカレーって! 胃がもたれますわ!! あんなもの!!」

「ハンバーグはハンバーグ!! カレーとは相容れぬ仲でした! 今度、ハンバーグに会ったらこのゲラルド、キツく言い含めておきます!!」



 地獄の軍団。

 番長を真ん中に、両サイドを舎弟が囲むバスの最後列のような雰囲気で順調に接近中であった。


 修学旅行かな。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 観察を終えた一同は大きく息を吐いた。

 ポンモニが演算を始め、ゴンツが結論を出す。


「想定通りのスピードです。到着予測は2月16日と言ったところでしょうか」

「そうか。みんな、ご苦労だった。……岡本さんから、謎のマシュマロを貰ったんだが、みんなで木の枝に刺して焼いて食うか」


「う、うす! そうしましょ! 黒助さん! ゴンツ、火!!」

「かしこまりました!」


「アタシ、木の枝探してくるでゲス!!」

「僕がコルティオールで拾ってきますよ!」


 それから、みんなでマシュマロを焼いて現実逃避をした。

 今日のバーラトリンデは平和だったが、未来は明るくなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る