第292話 お正月だ! 現世とコルティオールとバーラトリンデ!!

 クリスマスの余韻冷めやらぬ中。

 普通に年が明けた。


 季節感は置いてきた。

 修行はしたがハッキリ言ってこの世界にはついてこれそうもない。


 今回は各地のお正月の風景を見ていきましょう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 春日家では。


「おはよう! 柚葉ちゃん!!」

「……おはようございます。本当に鉄人さんはお正月だけ早起きですね」


「もう! 褒めたって何もあげないよ!! はい! お雑煮の出汁、味見してくれる?」

「何もいりません。まったく。……普通に美味しいのが腹立つんですよね。これなら兄さんに食べさせてあげてもいいです」


 春日鉄人は正月、誰よりも早起きして全ての家事を担当する。

 これは春日鉄人ジャスティスの上位に存在しており、もう6年も継続している。


「みんな。あけましておめでとう」

「おはー! お兄と同じタイミングで起きちったー! 今年は良いことありそう!!」

「ぐぬぬ。その手がありましたか! くぅぅ! いつも早起きしてるから、体が習慣を覚えていて……!! どうして私の今年最初の挨拶は相手がニート……!!」


 柚氏が膝をついて悲しんでいる中、お正月の風物詩が始まる。


「柚葉。未美香。これは少ないが、お年玉だ。すまない。俺がもっと稼げていれば……。5万しか入っていないが、受け取ってくれ」



 春日家の感覚は狂っております。

 ちなみに、中学生の頃にお年玉が廃止された人間もいます。ちくしょうちくしょうちしくょう。



 続けて鉄人にもポチ袋が与えられた。

 ポチ袋がブクブクに太っている。メタボリックシンドロームかな。


「鉄人。お前には農場の仕事も手伝ってもらっている上に、近頃は転移魔法であっちこっちに行ってもらっている。感謝の気持ちはこれでは足りんが。受け取ってくれ」

「ありがとう、兄貴! うわー!! 10枚も!! 大事にするよー!!」


 おのれぇぇぇぇぇ。


 それから、鉄人の作ったお雑煮を食べて家族でトランプやすごろくを楽しむ。

 午後になると全員で近所の神社に初詣。

 これが春日家のやり方であり、きっと来年も再来年も同じようにして過ごすのだろう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 春日大農場では。


「みんなー! ゴンゴルゲルゲがお餅つくわよー!! 集まってー!!」

「ワシ、最期の出番かもしれませんゆえ! 渾身の力を込めて奮闘いたしまする!!」


 ゴンゴルゲルゲは火の精霊なのに、ついに火なんて関係なく普通に餅をつきだした。


「甘酒配ってるですぅー。ヴィネさんが作ってくれたですぅー。苦手な方は温かいお茶もあるですぅー。どうぞですぅー」

「こっちには千歳飴もあるよー! 岡本さんが、余っていたのでどうぞー。ってくれたんだよー。歯の詰め物がとれるかもだから、気を付けて食べな!!」


 正月に千歳飴を食べる風習はあまりないが、たまに千歳飴っぽいものが配られる場合がある。

 正体はだいたい金太郎飴か寿の棒飴。

 紅白に塗られた縁起物。そして中身は千歳飴。


 なお、ガチで歯の詰め物がとれるので、食べる際は細心の注意を払おう。


「うおー。すげぇー。これがお正月!! なー! ゴンツ! すごいね!!」

「そうだね。お正月には里帰りする風習が現世にはあるらしいし、私たちも明日辺り、バーラトリンデに戻ろうか。ねぇ、リュック」


 輝石三神を含め、バーラトリンデチームは初めてのお正月。

 こちらの世界にはそもそも1年の区切りが辛うじてあるくらいなので、季節イベントの9割以上は現世からの輸入品。


「ブロッサムの旦那! お雑煮の用意はいいか!?」

「ギリー。すまんでござる。吾輩のトゲが抜け落ちて出汁の中に……」


「マジかよ。旦那のトゲって抜けるんだ?」

「1年周期で抜けるでござるよ。えらいことになったでござる」


「くははっ。困っておるようであるな」


 力の邪神・メゾルバ参上。

 もはや予測変換すらされなくなった男。登場するだけで面倒くさい。


「こちらに、既に出来上がったものがある」

「マジかよ! すげーぜ!!」

「おお! ちと味見を……ヴォエ」


 この後、お雑煮チームはミアリス様にむちゃくちゃ怒られた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 魔王城では。


「くっくっく。今年も新たな1年を卿らと迎えられたこと、余は心から嬉しい。実家に帰省中の者。家族を大切にせよ。魔王城に残っておる者。しっかりと休むが良い。全ての魔族たちよ、今年も励む事だ。さすれば、幸せはあちらから歩み寄ってくるであろう。卿らの未来に幸あれ。くっくっく。————くっくっく。ああ、緊張した。リモートで挨拶とかマジやばたにえん。こんなんもう絶対緊張するやん。実家に帰っとる子たちは仕事始めの時でええやんけ、挨拶なんて。年賀状もみんな送って来てくれてるしさ。お返事が大変なの。急に思い出したように送って来てくれた子とか、住所まで入力せんといかんやん? これがさー。いや、嬉しいんやで? ただね、じゃあちょっとだし筆ペンで書くかと思って挑戦したら、ビックリするくらい字が汚くなるの、あれなんなん? で、諦めて年賀状ソフト立ち上げるやん? そしたらさ? 次の年には送って来ないのよ。せやったらさ、なんで今年送ってきたんですかって話になるやん? ほんまにさ、気まぐれロマンティック過ぎるやん。気まぐれロマンティックと言えばさ、卒業して数年経って急に女子から年賀状送られてきたらドキドキするよね。いやさ、だって、余ともう繋がりないのに、なんでってなるやん? もしかしてそなた、余の事好きやったん? ってなるやん? いや、気まぐれかもしれんけど。けどもよ。そしたらわざわざ可愛い文字でコメント書きます? それも結構な量。でね、電話番号とか添えてあんの。迷うやん? これ、電話した方がええんか? ええ? なに? 余の事? ええ? ってなるやんか? でな、いざ電話したら、じゃあお正月暇だから会おうよ、とか言われるわけ。それで喫茶店行くやん? 久しぶりに会ったら化粧覚えててむっちゃ綺麗になっとるやん? で、ウキウキしてたらさ。宗教の勧誘なワケ。もうね、余のドキドキを返して欲しいの。今ってなんだか上手くいかない事多くない? とか言ってくんの、その子。現在進行形で上手くいってないのよ、余は。あわよくば、そなたと鏡開きを!! とか思ってきたら一緒に入信しよ! とか言ってくんの。そなた、既に入信しとるやん? よしんば入信したとしてもさ、余のソロ活動やん? マジなんなん? ……え? マイク入ったまま? …………卿らの今年に幸多からんことを。くっくっく」


 ベザルオール様による、新年のあいさつの義でした。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 バーラトリンデでは。


「コルティ! ポンモニ! ゴリ! ナオトインティライミ!! 炊き込みご飯できたよ!!」


 ヨシコが炊き込みご飯を大量生産していた。


「ヨシコ……。たまには違うものが食べたいのですが」

「この子は! お正月だからってデパートのおせち食べられると思ってるのかい!? ご家庭で作ったら、黒豆となますが関の山だよ! 作っても食べないくせに!!」


「まあまあ、コルティ様。ヨシコの炊き込みご飯のクオリティもずいぶんと上がったでゲスよ! 今日はアサリが入っていて、なかなか食べ応えがあるでゲス!!」

「ポンモニ……。あなた、今年はもう少し悪の心を身に付けましょうね」


「頑張るでゲス! 悪に染まって見せるでゲスよ!!」


 3人を眺めながら、炊き込みご飯をモグモグするゴリとイラミティ。


「お前さ。名前ナオトインティライミだったのかよ?」

「小官も一瞬自分の事かと思いましたが、多分違うと思います」


「ティラミスとも似てるよな」

「ナオトインティライミとイラミティを混ぜておられぬか? あと、ゴリアンヌも近頃ゴリとしか呼ばれおらぬような」


「あー! もうどっちが何だか分かんねぇよ!! インティライミ!!」

「小官はイラミティです……」


 こうして年が明けた。

 地獄の軍団がこの宙域に戻ってくるまで、あと1か月と少し。


 この世界の時間の流れはイベントに起因して急加速する事があるので、もはや油断できない。


 今日は世界が平和であった。

 諸君、あけましておめでとうございます。今日も暑いですね。

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