家の倉庫が転移装置になったので、女神と四大精霊に農業を仕込んで異世界に大農場を作ろうと思う ~史上最強の農家はメンタルも最強。魔王なんか知らん~
第284話 【リュックルート】春日黒助とリュックたんの遊園地デート
第284話 【リュックルート】春日黒助とリュックたんの遊園地デート
12月23日の深夜。
エメラルドのリュックたんは原因不明の動悸と息切れ、胸の痛みに苦しんでいた。
鉱石生命体は基本的に風邪などのウイルス由来な体調不良とは無縁である。
リュックたんはとりあえずラインを立ち上げ、最も使用するグループでメッセージを送る。
『やべぇ! 胸が痛い! 息苦しい!! 私死ぬかも!! 助けろ!! ガチだぞ!! おい!!』
すぐに2人の賢者が召喚された。
現時刻は午前2時。余裕の活動時間である。
『くっくっく。余には原因が分かった』
『あらー! 僕にも分かりました!!』
誰とは言わないが、リュックたんのマブダチたち。
『教えろよ! マジで苦しいんだが!!』
『くっくっく。教えちゃう?』
『んー。自分で気付いて欲しいですけど。明日っていうか、今日ですからねー』
『お前ら! ぶち殺すぞ!!』
『くっくっく。リュックたん。今日の昼過ぎから、クロちゃんと遊園地行くやろ?』
『な……。何で知ってんの? つか、クロちゃん言うなや!』
『どうも! 身内です!!』
『くそがぁぁぁ!!』
『くっくっく。さては、着て行く服を1時間くらい迷って、お化粧どうするか迷って、何喋ろうか考えて、そろそろ寝なくちゃと思ったのに不安になって最初に戻っとるやろ? これ、スカート短すぎ? やべ、生足とソックスどっち? 話題どうしよ! ネットで調べよ! みたいな。くっくっく』
『……見てたの? てめぇ! ストーカーしてんだろ!! このハゲ!!』
『あらー!! 可愛い!! それね! 初クリスマスデートに体と心がふっとーしちゃってるんだよ!!』
『は? ふざけんな。んなことねーわ。この童貞』
『くっくっく。古来より、クリスマスにデートをする男女は高確率で大人の階段を上ります。くっくっく。リュックたん、今、ものっすごく動悸激しくなったのでは?』
リュックたんは控えめな胸を押さえてはぁはぁ言っておられます。
プルプルと小刻みに震えながら「へっ? マジで? いやいやいや、都市伝説だろ? ……マジで?」とブツブツ唱えております。
スマホにメッセージが連投される。
『おめでとう』
『おめでとう』
『おめでとう』
『おめでとう』
『ありがとうって黙れ、バカども!! もぉ寝る!! お前らは朝までネトゲでもしてろ! バーカ、バーカ!!』
そう言って、最後に可愛い猫が「ありがと」と呟いているスタンプを送信。
リュックたんはベッドに潜り込んでしばらくジタバタしていたところ、明け方近くになってやっと眠りについた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
時岡ランド。
オープンして25年が経つ、時岡市唯一の遊園地。
アトラクションの老朽化も進んでおり、本来ならば遊園地の目玉である絶叫マシンもそれほど迫力のない動きをするが、カタカタと不気味な音を立てて別の意味でお客を恐怖させるのが売り。
普段は下手をすると係員の方が多い日もあるくらいに閑散としているが、さすがに土曜日のクリスマスイブであれば賑わう、と言う事もなく、やはり閑散としていた。
絶対にイオンの方が楽しいからである。
事前にリュックたんの希望を聞いた黒助は「遊園地か。近くにあったな」と、迷わずここをチョイスする。
春日黒助に夢の国を求めるのはいささか厚かましいと既に大半の者は理解していた。
待ち合わせの時間を過ぎても、リュックたんが現れない。
黒助は当然迎えに行くと何度も申し出たが「う、うす。クリスマスなんで! 私、待ち合わせとかしてみたいっす!!」とエメラルド色の髪を揺らして彼女が主張するので意向に沿ったのだが、リュックたんは現世での単独行動の経験がない。
はじめてのおつかいに娘を出演させたような気持ちになっていたところ、リュックたんが慌てながら走って向かってくるのが見えた。
「す、すぅ……! すみません!! 私、あの、興奮して、全然寝られなくて、えと、起きたらヤベー時間で!! 黒助さんを待たせるとか、マジ、死にたいっす……!!」
「何事も無くて良かった。別に構わん。それよりもリュックが心配だったからな。頑張って来たな。えらいぞ」
頭を撫でるイケメンムーブが発動。
繰り返しますが、現実世界でこれをやっていいのはイケメンだけです。
とあるアンケートの「女子が付き合う前のデートでやられてうぜぇ事ランキング」によるとこの行為は3位に堂々入賞。
「気安く髪触んな。セットしてんだよ、こっちは!」とのコメントも確認済みです。
「う、うす……。その、せっかくオシャレしたんすけど。走ったらぐしゃぐしゃになって。あんま見ないでほしいっす」
「いや? 可愛いが? 普段よりずっと可愛いな」
散々迷った結果、白いプリーツミニスカートに「大人の階段上るとやべぇな」と思い、ノースリーブのニット。下着も気合を入れて、見せパンは捨ててきた。
その上に丈の短いコートで若さを前面に出す。
が、全力疾走のせいでかなり乱れている。
「うああああああ!! なんだこの動悸!! 死ぬ、死ぬぞマジでぇ!! 胸がすげぇ痛い!! でも触ったら、デート来ていきなり乳触る痴女と思われる!! それはやだ!!」
「では入るか。まったく客がいないからな。リュックも過ごしやすかろう」
「わ、私のために、こんなとこを選んでくれたんすか……!! くぁぁぁぁっ!!」
黒助は特に何も考えずにこんなとこを選びました。
いざ入園。
◆◇◆◇◆◇◆◇
とりあえずお化け屋敷に入ろうとしたところ「今日、やってないんですよ」とやる気ない中華料理屋で酢豚頼んだ時みたいな事を言われた2人。
早速ベンチに不時着した。
「すまん。まさか、アトラクションの半分が休止中とは。これも時代か」
「うす。や! 別に私、気にしてねぇんで! 一緒にいるだけで楽しっす!!」
「む。あのジェットコースターは動いているな」
「え゛っ!? や、やー? 私はあ、あのー。あんま無理してアトラクションとか乗らなくてもいいって言うぎゃぁぁ!! 手ぇ握られとる!! 恋人つなぎってヤツぅ!!」
「どうした? 嫌だったか?」
「全然嫌じゃねっす! どこでもついて行きます!!」
5分後。
散々叫んでぐったりして死にそうなリュックたんが、先ほどのベンチにて黒助に膝枕されながら涙とヨダレを流してほぼ死んでいた。
ミニスカートの上には黒助の黒いコートがかけられている。
「さーせん……。私、絶叫系ってダメみたいなんです……。トイレ済ませといてマジで良かったです……」
「そうだったか。悪い事をしたな」
リュックたんは泳げなかったり、飛べなかったり、高速移動で死にそうになったりと多くの欠点がある。
だが、それでも一途に初めての恋に邁進する彼女は魅力的なのだ。
「では、観覧車にでも乗るか? 遊園地デートと言えば観覧車なのだろう? じいさんが言っていた」
「の、乗るっす! 実はぜってぇ乗りたくて、楽しみにしてて!! ゔっ……。けど、もうちょい休んでからでいいっすか……」
それから30分ほど休んだリュックたんは「あれ? 私、膝枕されてね!?」と気付いた瞬間、ショックで体調が回復した。
現在、ギギギギと音を立てる観覧車に乗って低い景色を堪能中。
「俺たちがジャンプした方が高いな」
「ははっ。そうですね! けど、黒助さんと観覧車乗れて、嬉しいっす!」
「そうか」
「うす。あの、その、ま、また……。や、なんでもねぇっす」
「次は違うところに行くか。行きたいところがあるのだろう? 俺でよければ、いつでも付き合うぞ」
「……っ!! は、はい! よろしくっす!! えへへっ! あざっす!!」
帰り道は一緒に電車を乗り継ぎ、帰宅したのち転移装置まで送られてリュックたんはコルティオールに帰って行った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その日の夜。
ラインを立ち上げたリュックたんはメッセージを発信した。
『クリスマス! やべぇ! なにあれ! すげぇ楽しかった!! お前らにも感謝!!』
賢者たちは基本的に1分以内に反応する。
『くっくっく。たいしたものですね。膝枕プレイからイチャイチャ観覧車とは』
『はぁぁぁ!? なんで知ってんだよ!?』
『どうも! 身内です!!』
『だぁぁぁぁぁぁ!! 黒助さん! 口が軽いんだよぉぉぉ!!』
『くっくっく。ところでリュックたん。クロちゃん、リュックたんの写真撮ってるで?』
『は? 嘘言うんじゃねーよ、ハゲ』
『待ち受け画面にするって言ってたよ! リュックたんの寝顔!!』
『え……? 嘘だろ……? あれ……? そう言えば私、途中ちょっと寝てた……? えっ? ……嘘だ』
その晩、リュックたんは一睡もできず朝を迎え、翌日、原因不明の胸の痛みで初めて仕事を休んだと言う。
この時空のクリスマスも平和であった。
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