第285話 【ヴィネルート】春日黒助とヴィネのお見舞いデート

 黒助は自宅で身支度を整えていた。


「いいなー! お兄、ヴィネさんとケーキ食べに行くんでしょー?」

「ああ。なんでもケーキ作りにも挑戦したいらしくてな。クリスマスと言う事もあるし、せっかくなので出かける事にした」


「ぶぅー。恨みっこなしだから仕方ないけどさー。いいな、いいなー」

「ちゃんとお土産を買って来るぞ」


「そうなの!? やたー! お土産!! なら仕方ない! ヴィネさんと楽しんで来てね!」

「そうだな。あいつとはあまり出かける機会もないし、今日は……ん? すまん。電話だ」


 スマホをタップする黒助。


「俺だ。どうした、イルノ」

『急にすみませんですぅー。それが、お知らせがあるんですぅー』


「そうか。あまり時間がない。手短に頼む」

『その予定に関わる事なんですぅー。ヴィネさん、今朝から熱があるんですぅー。どうしても行くって言って聞かないから、さっきみんなで家に閉じ込めたところですぅー』


「それはいかんな。容体は悪いのか?」

『ゴンツさんが言うには、たいしたことないらしいですぅー。けど、無理してこじらせてはいけないと思ったですぅー』


「イルノが正しいな。では、残念だが。予定を変更しよう」

『ほわぁー。さすが黒助さんですぅー。きっとそう言ってくれる気がしてたですぅー。よろしくお願いしますですぅー。ヴィネさん、今日のために仕事の予定を詰めていたので、きっと無理してたですぅー』


「ああ。分かった。イルノ。連絡、感謝する。ではな」


 スマホをポケットにしまった黒助は玄関へ向かった。

 未美香が見送る。


「いってらっしゃーい! およ? 軽トラで行くの?」

「ああ。スーパーに寄ったら、コルティオールへ行ってくる。遅くなるかもしれんから、柚葉と鉄人に伝えておいてくれ」


 黒助は軽トラを走らせ目的の買い物を済ませると、そのまま転移装置に突っ込んだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 死霊将軍の家では、もう死霊も腐敗の要素もなくなったおっぱいデカいピュアなお姉さんが泣いていた。


「ひどいじゃないか……。あたい、行けるって言ってるのにさ……。ひっく……」


 リッチたちが看病中である。


「オォォォォォォオ。39℃は全然イケない。オォォォォォォオ」

「オォォォォォォオ。汗だく、ヴィネ様。下着替えて。オォォォォォォオ」


「ぐぐぐ……。こんなのってないよ……ぐすっ……。ん?」


 扉を叩く音が家に響いた。

 リッチが対応する。


「誰だい? あたい、あんまり人と会いたくないからさ。帰ってもらいな」

「そうか。では、見舞いだけ置いて引き上げるとしよう」



「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

「む。いかんな。リッチたち。ヴィネが失神した。理由は分からんが、冷たい水とタオルを用意してくれ」



「オォォォォォォオ。無自覚系イケメン、危険すぎる。オォォォォォォオ」

「オォォォォォォオ。だいたい全部あなたのせい。オォォォォォォオ」


 それから1時間。

 冷えたタオルを黒助は10分おきに交換しながらヴィネの額に当て続けた。


「んん……。ああ、すごい夢を見た……よ……」

「落ち着け。ヴィネ。深呼吸しろ。叫ぶな。お前、熱が40℃近いぞ」


「ひぃ、ひぃ、ふぅ、ふぅ……。なんで! 黒助がいるんだい!?」

「バカかお前は。一緒に出掛ける予定だったヤツが倒れたと聞けば、見舞いに来るだろうが」


「ま、待っておくれよ! あたい、こんな格好じゃ!! 着替えるから!!」

「ヴィネ。病人が恰好を気にするな。良いじゃないか。猫のパジャマ」


 リッチがやって来る。


「オォォォォォォオ。黒助様。ヴィネ様、下着交換の時間。オォォォォォォオ」

「そうか」


「オォォォォォォオ。黒助様にお任せ。よろしくどうぞ。オォォォォォォオ」

「よし。任せろ」


「バカ!! リッチたち!! それやられたらね、あたい!! ガチで死ぬよ!! 死霊将軍だったのに! 死ぬよ!? ていうか、あたいはちゃんと死ぬのかい!?」

「これはいかんな。お前に死なれては困る。よし。……もしもし。イルノか?」


 今日はヴィネ姐さんの全力サポート隊なイルノさん、すぐに馳せ参じる。


「下着はイルノが脱がせてあげるですぅー。汗も拭き拭きですぅー。黒助さん、ちょっと邪魔ですぅー」

「よし。分かった。台所を借りるぞ。リッチ。器具の場所を教えてくれ」

「オォォォォォォオ。普段使ってるのは我々。お任せ。オォォォォォォオ」


 ヴィネ姐さん、涙ぐむ。


「イルノぉぉぉ……! あたい、どうなってんだい!? なんで黒助が!? これって何かのドッキリかい!?」

「黒助さんは、今日をヴィネさんのために空けていたんですぅー。だから、ヴィネさんと一緒に過ごしたいそうですぅー。ヴィネさん、愛されてるですぅー」


 そう言うと、イルノは「また何かあったら来るですぅー」と言って母屋に戻って行った。

 30分ほどで黒助が台所から帰って来る。

 エプロンを装備しており、その姿を見て逝っちまいそうになるヴィネだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 黒助は料理ができない訳ではない。

 むしろ、器用なので普通に上手い。

 普段は妹たちの好意か厚意、どちらかの邪魔をしないように敢えて何もしていないのだ。


「簡単な料理を作ったが、食べられそうか?」

「た、食べるよ……!」


「よし。待て。俺が支えよう」

「はぁぁぁぁぁぁ!! 背中がぁぁぁ!! そう言えば! イルノ! 下着奪うだけで付けてくれてないんだけど!? はぁぁぁぁぁ!!」


「何か問題があるのか? 妹たちも寝る時はたまに付けないらしいぞ。ただ、常時付けないままだと形が崩れるらしいな。ヴィネはデカいから、気を付けろ」

「はぁぁぁぁぁぁぁ!! 女子事情に詳しいぃぃぃ! 逝っちまう……!!」


「逝くなよ。シャレにならん。口に合うと良いのだが。雑炊だ。消化の良い野菜と、しょうがとネギがたっぷり入っている。食欲があればそっちの鳥団子も食ってくれ」

「いい匂いだね。あたいのために。ありがとう。うぅ……」


 黒助がタオルでヴィネの涙を拭う。

 なお、ヴィネはこの世界で最強のおっぱい強者のため、黒助の手がナニに触れました。


 激しく体を震わせたヴィネ姐さん。

 あまりの衝撃に、うっかり逝っちまいそうになる事も忘れる。


「ああ。すまん。胸に手が当たった」

「スルーしてたのに!! はぁぁぁぁぁ!! 興奮してどうにかなりそうだよ!!」


「大丈夫だ。柔らかかった」

「大丈夫の意味が分かんないよ!! けど! 大丈夫ならあたい! とても嬉しいよ!!」


 それからヴィネは雑炊をゆっくりと食べた。

 黒助が「冷ましてやろう」と申し出たが、あと一押しでヴィネは本当に死にそうだったのでリッチが制止した。


「美味しかったよ! 黒助の手料理が食べられるなんて。あたいは幸せだよ!」

「そうか。この程度なら、いつでも作ってやるぞ」


「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「オォォォォォォオ。ヴィネ様、汗びちゃびちゃ。オォォォォォォオ」

「オォォォォォォオ。これまた着替え。ストックなくなる。オォォォォォォオ」


 黒助が洗濯物の入った籠を手に取ると「洗濯機はあっちか?」と言って、歩いて行った。

 ヴィネ姐さんが真っ白になって横たわり何も言わなくなったので、リッチがスマホでイルノを召喚したのであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 翌朝。


「嘘みたいに体が軽いよ! ありがとね、リッチたち!!」

「オォォォォォォオ。ヴィネ様。うるせぇ。オォォォォォォオ」


「ええ……。迷惑かけたから怒ったのかい?」

「オォォォォォォオ。黒助様。寝てる。オォォォォォォオ」


「は!? は、はぁぁ……!! 危ない!! な、なんで黒助がいるんだい!?」

「オォォォォォォオ。これ、イルノ様の手紙。オォォォォォォオ」


 そこには「黒助さんが、ヴィネが心配だ。それに、夜中に目を覚まして独りでは心細かろう。楽しみにしていたクリスマスだからな。今晩は俺が付いていてやろうと思う。と言うので、イルノは止めないですぅー」と書かれていた。


「な、なんだい……。あたいは別に、独りに慣れてるってのにさ。……こんな事されちまったら、ずっと一緒にいたくなっちまうじゃないか……」


 それから黒助が目覚めるまでの1時間。

 ヴィネはしっかりと思い出を作った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 黒助の帰ったあと、洗面台で顔を洗おうとしたヴィネだが。


「は、はぁ、はぁぁぁ、はぁぁぁぁぁぁぁぁ!! あたいの下着が……!! 丁寧に干されてるぅぅ……!! こ、これは……!! これは恥ずかしいよ! あたいだってぇ!! ひぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 次の日。

 ヴィネはまた熱を出して寝込んだ。


 この時空のクリスマスも平和であった。

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