第281話 春日大農場主催! 特大! クリスマス&忘年会!!

 ついにやって来たクリスマス。

 の、2日ほど前。


 コルティオールの春日大農場では大規模なパーティーの準備が昼過ぎから行われていた。

 クリスマス会と忘年会を兼ねているため、これまでのパーティーでも最大規模。


 なにゆえクリスマス当日ではないのかと言えば、今年はクリスマスイブが土曜日、クリスマスが日曜日と言う完璧な配置。

 ならばと、黒助は「イブに行うか」と提案した。



 女子メンバーのほぼ全員から言葉のナイフでめった刺しにされた黒助氏。



 これはコルティオールにやって来て彼が受けた傷の中でも、下手をすると最大のダメージだったかもしれない。

 しょんぼりしながら鉄人に電話をしたところ「あららー。それは兄貴が悪いよー」と言われ、さらにしょんぼりして鬼窪に電話したところ「兄ぃ! 悪気がないっちゅうのが余計いけんけぇ!! でも、まあ! 兄ぃはそういう人ですけぇ!!」と言われ、なんだか人が信じられなくなったらしい。


 だが、一晩ぐっすり寝れば何もかも回復するのが黒助のメンタル。


「おーい! 黒助ー!! バーラトリンデから準備できたって連絡来たわよー!!」

「そうか。では、鉄人に迎えを頼もう。しかし便利だな、モルシモシと言うのは」


「ねー。あの子、水と日光があれば元気に生活できるらしいわよ」

「ほう。聞くが、バーラトリンデに日光は届いたか?」


「届かないらしいわねー。ヨシコが熱線浴びせてどうにかしてるらしいわ」

「そうか。逞しいな、モルシモシ」


 便利な通信モンスターのモルシモシくん。

 ついに別の星へと活躍の場を広げていた。


 バーラトリンデにも普通にスマホ持ちは大勢いるのだが、創始者の館に住まわせたことで誰かしらにすぐ連絡がつくため重宝しているのだとか。


「兄さん! お料理の準備できました!!」

「デパートで受け取ってきたヤツもみんなで並べたよー!!」


 大量のデパ地下グルメは岡本さんが転移魔法で運んできており、既に黒助の指示によって膨大な酒が振る舞われている。

 無礼講を作って行くスタイル。


「では、始めるか」


 宴の幕が上がる。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「あー。今年もご苦労だった。来年も頑張ろう。2月の中頃に世界は終わるかもしれんがな。長い挨拶は必要ない。大いに食って飲んでくれ。では、乾杯」


 歓声と共に大盛り上がりのパーティーが始まった。


 今日は飲酒も許可されており、それどころか推奨されている大盤振る舞い。

 現世の酒類が多く持ち込まれ、ヴィネの作った酒の試作品もリッチによって配られている。


 なお、コルティオールに日本の法律は届かないため、酒税法はガン無視される。


「くろしゅけー。ねー。一緒に飲みましょーよー!! ふへへっ」

「べじゃるおーるしゃま……。どちられすかぁー」


 開幕でダメになったのは前職女神と現職女神。

 ミアリス様とコルティ様がベロベロであった。


「なるほど。ミアリス。聞くが、何を飲んだ?」

「うぇー? ヴィネがくれたヤツよー? 梅酒とか言ってたっけー? ふへへへっ」


 梅酒は種類にもよるが、アルコール度数が15パーセントを超えるものもあり、それをストレートでグビグビやると酒に強くても割と酔いが早かったりする。

 飲みやすいと言うのがまた厄介で、若い女性が飲み会でうっかりやっちまうパターンの上位に数えられるとカラフルな週刊誌に書いてあった。


「イルノ。ちょっと来てくれるか」

「うぃぃー。うるせぇーですぅー!!」



 被害者が既にかなり出ている様子。



 代わりに責任者が焦ってやって来た。


「ご、ごめん、黒助! まさかみんな、こんなにアルコールに弱いとは思わなくて!!」

「いや、ヴィネが謝る事はない。子供ではないのだから、飲むのも自己責任だ。……とは言え、少し問題か。そのグラス、一杯もらってもいいか?」


「え゛っ。いや、これは、あたいの飲みかけで。新しいのもってくあ゛っちょっ」

「構わん。もらうぞ」



「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

「ふむ。結構キツいな。やはり素人が作ると問題があるな。おい。誰か。なんか知らんがヴィネも倒れた。飲んでない女子。ああ、大人だ。いたら来てくれるか」



 やって来たのはこちらのご婦人。


「あたしに任せな!! お母さんだよ!!」

「ヨシコか。……待て。聞くが。お前、確か生まれてから1か月経ってないだろう?」


「何言ってんだい! お母さんは生まれた時からお母さんだよ!!」

「ふむ。なるほどな。一理ある。では、女子を介抱してやってくれ」


 よく分からない理屈で納得した黒助は会場の巡回を開始した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「見てー! リュックさん!! ほら!! おっきいエビー!!」

「でかっ!! うぅ……」


「およ? どしたのー? リュックさんの分もちゃんと持って来たよー!! もっとおっきいの!! じゃじゃん!」

「うぎゃっ!! あ、ごめ。あ、あの。私さ。カニとかエビ、怖ぇんだけど……」


「そうなの!? ごめんね、知らなかったよー。でもでも、おいしーよ!」

「うぅぅー。見た目がキモくない? 足とか見てると、背中ぞわぞわーってなるんだけど」


「じゃ、あたしが剥いてあげる!! せっせ、よいしょ! はい! これならキモくないない!! ダメだったらあたしが食べるから! ささ! お試しあれー!!」

「ふぐぅぅ。未美香も黒助さんの妹だわ。強引なんだよなぁ。……はむっ。……うまー!! なにこれ!! うまぁー!! やばっ!! これガチだわ!!」


 女子高生コンビは平和そのもの。

 黒助は目を細めてから次の場所へ。


「くっくっく。アルゴムよ。ガイルが心配なのだが。一緒に料理取りに行っちゃダメ?」

「ダメでございます。ガイル様が久しぶりにお部屋から出られたのです」


「くっくっく。せやから久しぶりの人混みとか、不安やん?」

「いけません。困ったら、ご自分でどなたかを頼って頂かなければ! あ。ご覧ください!!」


「こんばんはー! ガイルさん! ちょっとふっくらされましたか? あの! お料理でしたら、私が作ったカボチャの煮物があるんですけど!」

「で、でででで、では、貰うのだよ……! 柚葉様は食べないのかね?」


「私も頂きますよ! けど、ガイルさんが食べてくれたら、感想を聞きたいです!! ちょっとお顔を見てますね! ふふっ!」

「……お、おうふ」


 部屋から出て来た竜が柚氏に落とされている。

 お願いだから亀の後を追わないで欲しい。


「ねーねー! てっちゃんさー! セルフィの家にお泊りするのー?」

「あららー! バレちゃってるー!! さてはセルフィちゃん?」

「ご、ごめんだし! だって! 嬉しかったからつい……! お、怒ったし?」


「全然! 嬉しい事は友達と共有したいよね! 分かる、分かる!!」

「さすがだしー!! 鉄人、やさしーし!!」

「ねーねー! お泊りしてなにするのー!? ボクも仲間に入れて欲しいなー!!」


「うぇ!? や、やー! それはちょっとだしー? あ、危ないしー?」

「これは! 一見まずいパターンと思いきや! ウリネさんは18!! みなぎって来た!! ……はっ!!」


 忍び寄る柚氏。

 風紀を守るのは彼女の務めだが、同じくらい非モテたちの風紀を乱している事実。



「ニート? ナニしようとしてるんですか? 兄さんの弟が犯罪者になるのは許しませんよ?」

「たはー! 圧がすごいや!! ウリネさん18だよ!? セルフィちゃんの方が年齢的には! あああっ! セルフィちゃんまで!? ああー!!」



 なんだか楽しそうである。

 紹介しきれなかった他のメンバーたちも全員が笑顔で過ごしており、春日大農場主催のパーティーが外れた事は未だ一度もない。


 黒助は空に出て来たコルティオールの月を眺めて、ビール缶を掲げる。


「月が綺麗だな。来年もいい年にしたいものだ」


 静かに喉を鳴らす救国の英雄であった。

 今日もコルティオールは平和だったのだが、いよいよクリスマスがやって来る。


 平和で済むのだろうか。


 なお、世界観のぶっ壊れる事が起きる気がするので、どうか諸君には寛容な心を用意して頂きたい。

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