第278話 コルティオール選抜VS農協選抜 仁義なき草野球!! ~勝利か接待か~

 時岡市営野球場で行われる、勝っても負けても何かが起きそうな戦い。

 コルティオール選抜と農協選抜のガチンコ草野球対決。


 プレイボールのサイレンが鳴る。


「ゲルゲ。ギリー。ゴンツ。ちょっと来い」


 1番、2番、3番の打者が選手兼任監督の黒助に呼ばれた。


 コ軍の先頭打者はゴンゴルゲルゲ。

 メゾルバとのスタメン争いに勝った火の精霊だったが、謎が渦巻く1番器用。

 別に足は速くないし、選球眼が優れているわけでもない。


 2番は鬼人将軍ギリー。

 影は薄くなったものの、フィジカル面では未だにコ軍でも上位ランカー。


 3番はダイヤモンドのゴンツ。

 彼はパワータイプに見える巨体を有しているが、ポンモニやリュックたんに出力で劣っており、やはり首をかしげたくなるクリーンナップ。


「良いか。お前たち。農協の投手は山口さんだ。あの人は営農課。つまり、補助金を司るお方なのだ。高校時代は甲子園を目指していたが、今はもう40手前。制球がしばらくおぼつかないだろう」


 ギリーが指をパチンと鳴らした。


「要するに! 山口さんの抜けたストレートを狙い打てばいいんだな! 旦那!!」

「バカタレ!! 狙い打つな!! 全力で見送れ!!」


 続けてゴンゴルゲルゲが厳かに首を縦に振る。


「なるほど。荒れ球を見極めて四球狙いであらせまするな!?」

「バカタレ!! 見極めるな! 外れた球は全力で振っていけ! バットには当てるな!!」


 ゴンツが恐る恐る発言する。


「黒助様のお考えがお察しできませんが。私が愚考するに、とにかくストライクカウントを取られれば良いのでしょうか……?」

「ゴンツ。お前は実に頭が切れるな。察しているぞ。胸を張れ。愚考なものか。賢者の思考だ。付言するならばな。デッドボールが来たら、絶対バットに当ててファウルにしろ」



 つまり接待プレイである。



 試合には勝ちたい。

 共済の減額など都市伝説であり、そんなものと出くわす前にツチノコとかネッシーと遭遇するのがこの世の理。

 よって、それは絶対に欲しい。


 しかし、営農課の40代になろうかと言う職員が相手。

 機嫌を損ねるのは愚の骨頂。

 営農課に嫌われると、国から出た補助金などの関係で非常にごたつく。


 まずいのである。


「いいか。不自然なく、全力プレイを心がけろ。だがな。絶対にヒットを打つな。と言うか、出塁するな。分かるな?」


 3人は「了解!!」と元気よく返事をして出撃して行った。

 その後、無事に3人とも三振して帰って来た。


 さあ、守ろう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 試合はハイペースで進行中。

 こちらはスタンドで応援するコルティオール女子チア軍団。


「なかなか良い感じね!! さあ、みんな!! コールするわよ!!」

「ミアリス? 大丈夫なのかい? あんた、歯が……!!」


「平気よ、ヴィネ。黒助たちがあんなに頑張ってるのよ? わたしが神経抜かれて痛み止めが切れる度にビクンビクンなってたって!! そんなの関係ないもの!!」

「ミアリス……!! さすが、あたいのライバルだね!! あたいも頑張るよ!!」


 ミアリス様が歯痛を押してチアリーダーのリーダーを務めていた。

 彼女はコルティオールでもリーダー。リーダー言いたいだけである。


「ねーねー。セルフィー! クロちゃんたちさー! ライト方向が穴だよねー!! ゲルっちは一歩目の動きだし遅いしー! ギリリンは守備範囲広いからって動き過ぎー!! リュっちは頑張ってるけど球際の判断が危ないよねー!!」

「あーね。分かるしー。ゴンツはベースカバー行きすぎでもうへばってるしー。ベザルオール様は両翼のほとんど守ってるからなんか死にそうだし!!」


 意外と野球に詳しい土と風の2人。

 若くて元気な女の子が野球に詳しいだけで、野球おじさんの好感度は跳ね上がる。


 もはやウリネたんとセルフィちゃんとお小遣いチャンスをゲットしている事実。

 近くでおじさんが観戦していたら、飲み物とポップコーンの差し入れは確定コース。フランクフルトも買っちゃう。


 他の女子も頑張って応援中。

 そのかいあってか、5回終了時点で2―2の同点。


 これから6回の攻撃に移る。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 コ軍は巡り良く、6番からの好打順。

 先頭はリュックたん。ここまで2打数2安打。


「リュック」

「うす」


「山口さんはどうやら、お前に酔っている」

「うす。薄々気付いてたっす。ガン見してくるんで。私の太もも。うす」


「もはやこの回で点を取らねばまずい。分かるか?」

「うす。私らが倒れたら、次は上位打線の下位打線に回るからっす」


 難しい日本語である。


「そうだ。だが、それだけじゃない。草野球は4回で試合が成立する。既に6回。つまりな。農協チームが飽きたら、その瞬間に試合が終わる」

「マジすか。ヤベェ。そんな特殊ルールが」


 この物語はフィクションです。


「つまり、絶対にこの攻撃で1点取りたい。多分な。点が入った瞬間に皆さんやる気を失われて、コールドが成立する。無気力コールドだ。リュック、できるか?」

「うす。太もも見せていきます。私、黒助さんのためならそのくらい余裕っす」


 リュックたんは世界線を間違えると、ダメ男を養うタイプの女子になると思われた。


 山口さんのクソみたいなストレートを痛打して、ライト前ヒットで出塁するエメラルド乙女。

 非実在女子高生の控えめなガッツポーズに内野陣が腑抜けになった。


「じいさん。ファーストを狙え」

「くっくっく。余にだけヒットマンになれとか酷すぎワロタ」


 7番ベザルオール様。

 ここまで犠打が2本。

 リュックたんが自動で出塁するため、絶対に送れと指示される大魔王様。


「おかしいと思っていた。ファーストの人だけ、俺は知らない。鉄人に調べてもらった。あの人、いや、あいつはただの助っ人だ。おまけに農協と全然関係ない。構わん。撃て」

「くっくっく。それ先に言って欲しい定期。殺ってくる。くっくっく」


 山口さんのよく曲がるスライダーを捉えたベザルオール様。

 ファースト強襲のライナーを放つ。

 名前も知らない助っ人が吹き飛んで行った。


 8番は鉄人。

 ここまで1安打1四球。


「鉄人。不味い事になった」

「把握してるよー! 岡本さんがファーストに来ちゃったね!!」


 名も知らぬ助っ人をぶっ飛ばした結果、今日はベンチでのんびりとビールを飲んでいた次長を目覚めされる結果となった。

 こうなると、もはや一塁ベースが踏めない。


「すまんが鉄人」

「オッケー! 任せといて! 兄貴の腹心として、いつでも自分を犠牲にする準備はできてるの、僕!!」


 山口さんの意表を突いたカーブを叩きつけた鉄人。

 一塁線を大きなバウンドの打球が襲う。


 既にリュックたんとベザルオール様がスタート済み。

 エンドランを華麗に決めた。


 ここでやって来たのが9番。春日黒助。

 本日2三振。


 接待プレイである。


 彼の取る作戦は1つ。

 もはやホームラン狙い以外はない。


 一塁に行けば岡本さんに屈する事になる。

 三塁ランナーがリュックたんのため、本塁クロスプレーは避けたい。

 長打を放っても一塁手前で屈する事は確定なので、外野手が農協パワーの使い手だった場合、やはりリュックたんの身が危ない。


 ホームランなら一塁ベースの端を踏んで全力疾走すればセーフ。


「……申し訳ないが、俺がキメる」


 だが、ここで農協の頭脳が動く。

 岡本さんが審判にハンドサインで意思を伝えると、主審が頷いた。


「申告敬遠……だと……!!」


 一塁に歩かされた黒助。

 岡本さんに屈するも、逃げられない地獄の縛りに遭う。


 一死満塁となるが、次打者はゴンゴルゲルゲ。

 2三振とここまで良いところがない。


「くっ。俺のミスだ。この試合、勝ち目はなくなった……!」

「あ。おめでとうございます。春日さん。ゴンゴルゲルゲさん、デッドボールですよ」


「本当ですか? でかした! ゲルゲ!!」

「ぐえぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 山口さんは農協パワーの使い手。

 ここぞで力を込めた結果、手元が狂ったらしく『農凶曲球デススライダー』が脇腹を直撃。


 リュックたんが可愛くホームベースを踏んだところで、岡本さんが「これは私たちの負けですねぇ! なっはっは!!」と敗北を宣言した。

 エメラルド乙女が農協選抜の心を癒し、平和なゲームセット。


 こうして、仁義なき草野球大会はコルティオール選抜に軍配が上がったのである。


 今日も現世は平和であった。


 ゴンゴルゲルゲは10日間の故障者リストに入った。

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