第277話 草野球だ! コルティオール選抜チーム!!

 コルティオール。

 ペコペコ大陸にあった宇宙要塞ラブラブベザルの跡地では。


「お前たち。よく集まってくれた。まずは礼を言う。各々が仕事を抱えている中、そして年末が近づくクソ忙しい中。俺もこんな風に幹部連中を一気に招集させたりしたくはなかった。だが、聞いてくれ」


 多数の幹部が集結していた。

 と言うか、限りなくフルメンバーである。

 ついに地獄の原チームにカチコミをかけるのだろうか。


「昨日の事だ。岡本さんから連絡が来た」


 現状を鑑みて、岡本さんの名前が出て来る。

 それだけで一同は息を呑んだ。

 のっぴきならない事態が訪れたのではないかと予感するのは当然の流れ。


「明日。現世で草野球の試合をすることになった。これはもう決まった事だ。諦めろ。俺も辛い。鉄人が言うにはな。ドラゴンボールも普通に野球するだけで1話使った事があるらしい。と言う訳で、俺たちに回避する策はない。では、野球の練習を始める」


 なんか始まった瞬間であった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 コルティオールの男子メンバーがキャッチボールを始めた。

 それを見守っているのは、コルティオールの女子メンバー。

 だけではない。


「ええと。どなたか、野球のルールについて教えて頂けませんか?」

「女将さん。ご存じないのでござるか」


「あ。はい。あなたは魔獣将軍さんでしたね? ベザルオール様のところの。……あなたも私を女将と呼ぶのですか?」

「これはすまないでござる。ベザルオール様がそう呼ぶようにと通達されておられたのでござるよ。ご不快でござったか」



「女将です!! よろしくお願いします!!」

「おお! 実に堂々とした態度!! これはまごう事なき女将でござるよ!!」



 ブロッサムは「デカいヤツが多すぎるからお前はベンチだ」と言われたので、現在レモンのはちみつ漬けを抱えて脇に控えている。

 代わりにメンバー入りしているのがゴンゴルゲルゲとメゾルバ。

 さらにゴンツ。ベザルオール様もおられる。


 確かにデカいヤツが乱立していた。


 ブロッサムはコルティ様に基本的なルールを説明した。

 春日大農場では夕食時にパブリックビューイングが設置され、プロ野球中継を放送している。

 スカパーとDAZNを契約している春日大農場に死角はない。


 そのため従業員の大半は野球に親しんでおり、贔屓の球団を推している者も多い。


「な、なるほど。大衆的なスポーツなのですね」

「然りでござる」


「それで女子の皆さんはチアのユニフォームを?」

「ミアリス様が組織されたでござるよ。用具も急遽だったので、創造で産み出されたでござる。ちなみに、用具の代金は少年野球連盟に寄付したでござる」


 そのミアリス様は、魔力を使いすぎた影響らしく「歯が痛いのよ……。わたし、今日はお留守番してるわね。本番には頑張っていくから。あ。ロキソニン飲まなきゃ」と言って、今は母屋で静養中。

 春日家の妹たちは学校があるため不参加。


 逆に言うとそれ以外の女子はほとんど勢揃いしていた。


「オッケーだし!! みんななかなか良い感じだし!! じゃ、ウチに続いてダンスするし!! その後はコールの練習だし!!」


 金髪ギャルとチアの相性はバツグン。

 応援チームのリーダーを務めるのはセルフィちゃん。


「オレ、こんなヒラヒラした服で動けねぇぞ……」

「まあまあですぅー。ゴリさんもそのうち慣れるですぅー。イルノもこのノリにはついて行けないと思ってたですぅー。慣れたら一瞬で染まったですぅー」


 恥じらいオレっ子キャラでわずかなファン増加を狙うゴリアンヌ。

 イルノさんと一緒にポンポンを振っている。


「ボクねー! いっぱい応援するんだー!!」

「ウリネは元気がいいねぇ! あたいはミアリスがいない分、胸でも揺らしとくよ!!」


 ミアリス様が虫歯で死んでいるのに、ちょっと前まで虫歯でしょんぼりしていたウリネたんは既に復帰。

 小さい子は回復も早い。


 なお、18歳である。


 ヴィネ姐さんは食品加工業がくっそ忙しいにも関わらずの出張。

 現在ゴンツも選手として出ているため、工場ではリッチたちが「オォォォォォォオ」とガチで苦しみと恨みの唸り声を上げている。


 どちらもチアが似合っており、これは大変良いものですとベザルオール様の感想が聞こえたのも空耳ではないかと思われた。


 リュックたんをお探しの諸君はあちらをご覧頂きたい。

 ライトの守備に就いている緑髪の美少女を。


「な・ん・でぇぇぇ!! 私は選手なんだよ!! くっそ! 私もチアしたかった!! 何回も着たことあんのに!! 私が1番見せパンを上手く使えんのにぃ!! しかもこのユニフォームなんだよ!! なんでスカートにスパッツ!? スライディングしたら怪我すんじゃんよ!!」


 リュックたん。

 その身体能力を買われて、選手として招集されていた。


 文句と不満を垂れ流しているが、選手兼任監督が黒助のため監督に指示されると途端にニコニコしながらだいたい何でも言うことを聞く。


「くっくっく。リュックたん、かわよ」

「だぁぁあ! うっせぇ!! 大魔王!! あんた独りで外野守れんだろ!! 私はベンチで黒助さんにタオル渡したり、ドリンク差し入れたりしてぇの!!」


「くっくっく。おじいちゃんに無茶言うのはワロス。余はセンター。つまり、このチームの1番人気よ。くっくっく。重責過ぎる件」

「いや。野球のセンターはアイドルの立ち位置と全然関係ねぇかんな?」


 ちなみにレフトはゴンツ。

 強肩外野手が揃う鉄壁の布陣である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ピッチャーを務めるのは当然の春日黒助。

 彼は空気を投げつけて「魔法だ」と言い張ったり、最近ではミニノワールを全力で投げ飛ばしたりもしている。


 キャッチャーは春日鉄人。

 黒助の球を捕球できる人材でフィルター検索かけたところ、彼しか残らなかった。

 ベザルオール様も該当したが、あのお方はセンターへと逃亡を果たしている。


「おらぁぁ!!」

「おー! 兄貴! 球走ってるぅー!! 久しぶりだねー!! 昔はよくキャッチボールしたっけ!!」


「そうだな。道に落ちている砲丸投げの球をよく拾ったものだ」

「ねー。兄貴の球はすごかったなぁー」


 最近、「こいつらコルティオールに来る前から人間じゃなかったのではないか説」が囁かれている春日兄弟。


「ぬぐあぁぁぁぁ!! 股がぁぁぁ!! これはいかん!!」

「くははっ。火の精霊ともあろう者が情けない。我が変わろう」


 ファーストの定位置を争うデカい体コンビ。

 ゴンゴルゲルゲは捕球に難があり、メゾルバはベースカバーを理解していない。


「次はセカンド! 参りますよ、ギリー殿!!」

「おっしゃ! 来いや、アルゴム!!」


 動けるセカンドの鬼人将軍ギリー。

 考えるサードの通信指令アルゴム。


 多分この2人は特に何も言わなくても普通に活躍するだろう。


「ポンモニさん! 捕殺プレー行きます!!」

「うけけけっ! アタシのような矮小の身がまさかショートを頂けるなんてでゲス!! 命に代えてもエラーはしないでゲス!!」


 心が綺麗なショート。

 このアルマジロには誰も併殺崩れを狙わないと断言できる。


 これがコルティオール軍のスタメンメンバー。

 なお、相手は農協選抜。


 ただの草野球で終わるはずがないのである。


 日が暮れるまでみっちりと練習をして、彼らは翌日に備える。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 翌日。

 時岡市営野球場にて両軍が向き合った。


「なはははっ! 今日はいい試合にしましょう! 春日さん! こんな時だからこそ、息抜きは必要ですよ!!」

「はい。岡本さん。胸を借りさせて頂きます」


「ええ、ええ! 楽しい試合にしましょう! 皆さんが勝たれたら、来年度の共済ね! 勉強させて頂いちゃおうかなぁ! なんて! なっはっは!!」


 黒助は自軍のベンチに戻ると、深刻な表情でメンバーを鼓舞した。


「聞け。お前たち。負けられなくなった。チャンスで打てなかった者。エラーをした者。気にするな。責めたりはしない。だが、好打、好守を見せた者には俺から何かボーナスを出そう。全員の奮戦に期待する。俺たちが先行だ。かかるぞ」


「「おおおっ!!」」


 まさかの回跨ぎである。

 野球だけに。


 果たしてここまでのネタが何人に伝わっているのだろうか。

 滅びる世界なら何やっても良いと言う風潮は良くないと思う。

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