第275話 リュックたんとコルティ様の合同水着回 ~ベザルオール様の水着もあるよ~

 バーラトリンデ。

 岩山にある館では。


「コルティ!! これにしな!!」

「ヨシコ! それは無理です!! 紐じゃないですか!! 私、一応女神ですよ!? 女神で紐はまずいです!! 清楚でお淑やかが私のキャラじゃないですか!!」


「女将!! 持って来たぜ!! オレ様のとっておきだ!!」

「ゴリアンヌ! ありがとうございまバカぁ!! スクール水着ぃ!! それぇ!! 私、いくつだと思ってるんですか!? 1500超えてるんですよ!?」



「いつだったか、リュックにスク水バニーセット送ったじゃねぇですか。女将」

「あ。はい。あの頃は、アレです。洗脳されてたので。はい」

「コルティ! 何でもかんでも洗脳のせいにするんじゃないよ!! この子は!!」



 この始まり方は当然だが、水着回である。

 「水着回を全ヒロインでコンプリートせよ」と言う神々の啓示が届いたのだ。


 コルティ様はヒロインなのか問題については大いに有識者を悩ませることになると思われるが、今回はギリギリセーフと言う判断に至った旨をお伝えしておきたい。

 「ばばあ枠ならせめてロリババアやろ」との意見も分かるが、コルティ様は若作りババアなのである。


 「それただのばばあじゃねぇか」と思っても、口に出してはいけない。


 今の世の中、平和が1番。

 ばばあだって恋がしたいのである。


 はて、ベザルオール様? 余裕のヒロイン枠では?



◆◇◆◇◆◇◆◇



 コルティオール。

 春日大農場では。


「すまんな。鉄人。最近はお前を便利に使ってしまう」

「なんの、なんの! 僕も先週の即売会では車出してもらっちゃったし! ちょっと行ってくるね!」


 鉄人が転移魔法でバーラトリンデへと向かった。

 既に他のメンバーは集合している。


「うああー。プールかぁ。プールはなぁ。けど、貴重な機会だもんなぁ。うぐぅぅぅ! 行くしかねぇ!!」

「くっくっく。プルプル震えるリュックたんかわゆす。余、新しい水着買っちゃった」


 今回のメンバーは黒助、ベザルオール様、リュックたん、コルティ様の4人。

 ベザルオール様が単身でツッコミ役を担われる気配が色濃く漂う布陣である。

 またRPGだと最終盤を思わせるパーティー。


 鉄人がコルティ様を連れて転移して来た。

 白いワンピースに豪華な装飾品が付いている。


 娘が代表して意見した。


「女将! 女将ぃぃ!! なんつー恰好してんだよ!!」

「えっ? おかしいですか?」


「おかしいよ!! 現世、12月だぞ!! 冬なの!! まあ、そこは女将、初めての現世だから目ぇつぶるとしてもぉ!! なんだよ! その服ぅ!!」

「女神として、清楚な中にも威厳をと試行錯誤した結果なのですが」


「錯誤で終わってんだよ!! 『魅せられて』の時のジュディ・オングの衣装じゃんか! 娘に恥かかせてくんなよぉ!! 分かんねぇヤツはググれ! すぐ出てくっから!!」

「えっ? おかしいのですか?」


 駆けつけたミアリス様によって、コルティ様は母屋の衣装部屋へ。

 女神はだいたいスタイルが似通っているので、ミアリス様の冬コーデがジャストサイズ。


 なお、前職の女神と現職の女神が初めて顔を合わせたが、「いつもお世話になっております」「あ。こちらこそ。ご挨拶が遅れてすみません」とつつがなく対面の義が済まされた。


 農協で借りて来たハイエースに乗り込んで、出発進行。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 時岡市には1年中稼働している温水プールがある。

 かつてニートとギャルの水着回でも使っている、実に便利な施設。


「じいさん。水着姿を見るのは初めてだな」

「くっくっく。ガイルがネット通販で買ってくれたのだ」


「そうか。あいつ、部屋から出て来たのか」

「くっくっく。まだである。しかし、封筒のラベル貼りの内職を始めてくれた。水着の代金も一部出してくれたのだ」


「そうか。良かったな。しかし、じいさん。なかなか引き締まった良い体だな」

「くっくっく。然り。良かった。うほっ。急に肉体についてコメントされると余もビクンビクンしちゃうから、段階を追って欲しい件」


 そこにやって来る母娘。


「うす。お待たせっす。……だぁぁ! 離せよ、女将!!」

「リュック! 待ってください! リュックさん!! リュックたん!!」


「たんは敬称じゃねぇ!! キモオタ御用達の付属品だって言ってんだろ!! 胸張って歩けよ! おっぱいでけぇんだから!! 腹立つなぁ!!」

「そんな……!! 胸の大きさなんてただの個性ですよ!!」


「うがぁぁぁ! 持ってるヤツが言うなよ、それぇ!! 嫌味じゃん!! 私キャラメイクしたのも女将だし!! なら、私のおっぱいもっと盛れよ!!」

「えっ? 必要でしたか?」


「ぶん殴りてぇ……」

「は、反抗期……!!」


 なお、この母娘は2人とも複数の水着を用意しており、2人ともスクール水着を持って来ていたと言う仲良しエピソードがある。


「来たか。可愛いじゃないか。リュック」

「う、うす。未美香に相談して、なんか黄色いヤツにしました。髪が緑なんで。ビキニとかはずいっすけど。……うああああ! すっげぇ見られてる!!」


 最近は呼吸するように「可愛い」と吐くようになった黒助。

 今日も見事に可愛いをキメる。


「くっくっく。コルティさん。敢えての白ビキニ。余はその勇気に応えたい。実に美しく、可憐である。余の中では千石撫子たんの水着に次ぐ高評価を記録した」

「あ、ありがとうございます!! リュック? 千石さんと言う方は、スタイルが良いのですか!?」


「知らねぇ方が良いっす。女将。ジャンルが違うんだわ。あんたと」

「では、泳ぐか。じいさん。どちらが早いか競争しよう」


「くっくっく。体育会系のノリを隠そうともせずに草。そしてお年寄りにガチンコバトルをけしかけて来るメンタルには芝。目が合ったポケモントレーナーかな? マジぱないの!」

「そうか。たまには体を動かしたいと思ったのだが。ん?」



「うぎゃあぁぁっ!」

「あああ! リュックぅ!! 誰かぁ! 助けてください! 助けてくださぁい!!」


 リュックたんが沈みました。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 黒助によって救助されたリュックたんは、ベンチでしょんぼり中。

 彼女は鉱石生命体。

 要するに、体を構成している物質は石とか岩とか宝石である。



 浮くはずがないのだ。



「さーせん。予想できてたんすけど。魔王城のデカい風呂でこの間、お尻とか浮いたんで。ワンチャン行けるかなって……。行けなかったっす。……さーせん」

「気にするな。それよりも、俺が誘ったせいで気を遣わせてしまったか。配慮をするべきだったな。許してくれ」


「や! えと! 黒助さんとお出かけしたかったんで!! あの! もぉ、水着褒めてもらえただけで嬉しいんで! 黒助さんもあっちでじじいとばばあ……じゃねぇ。大魔王と女将に混じって遊んできてください。くそぅ。女将、ガチ泳ぎしてやがる……」


 黒助はリュックたんの濡れた髪にポンと手を置いた。

 イケメンにしか許されない、モテムーブ。


 リアルでうっかり真似すると、男女の関係が断絶する秘奥義である。


「お、おお、うああああ!!! な、なんすか!? え。や。なんすか!?」

「たまにはプールサイドで過ごすのも悪くないな。これは俺の知らなかったプールの使用方法だ。リュックは色々な事を教えてくれる。今日はこのまま、のんびり過ごそう。聞くが。二の腕から出ている湯気はなんだ?」


「あ。ああ。やべぇ。これっすか? ちょっと興奮して。格納されてる兵器が火ぃ噴きそうっす」

「そうか。落ち着け。じいさんが頑張る事になるぞ」


 その頃のじじいとばばあ。


「うふふふふふ!!」

「くっくっく。笑顔のままガチクロールとは恐れ入った。ちょっと怖い。が、それ以上に見事なフォームである。余も負けてはおられぬ」


「べ、べべべ、ベザルオール様!! バタフライ!! ヴァラヴラァイ!! なんて雄々しいお姿!! ああ! 息継ぎの瞬間を狙って飛び込みたいです!!」

「くっくっく。ちゃんと聞こえているぞ、コルティさん。危ないから、めっ、だゾ」


「うふふふふふふふふふふふふふふ」

「くっくっく。くっくっく。くっくっく」


 彼らの周りに他のお客が近寄らないのは何故だろうか。


「何やってんだ、あの2人。マジかよ。すげぇ目立ってんだが。ヤベーな。平然と泳いどる。メンタルお化けばっかだよ、私の周り。おあぁぁぁぁぁ!?」

「すまん。先ほど、あっちのカップルがやっていたのが見えてな」


「いや! 冷たい飲み物ビトってするヤツぅ!! 女子憧れのヤツぅ! けど! 普通、ほっぺにしないっすか!? 背中にきます!? 私ビキニっすよ!? 剥き出しの背中に来られると!!」

「悪かった。慣れん事はするものじゃないな」


「も、もう1回お願いしまっす!! あ、アレだったら! 体のどこでも、好きなとこにオナシャス!!」

「そうか。気に入ったか。では、隙を見て何度か繰り返そう」


 リュックたんは肉体が成長しない代わりに、メンタルが成長中である。


 今日も現世は平和であった。

 プールの他のお客は平和ではなかったかもしれないが、そこにツッコミを入れるのは無粋なのだ。

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