第271話 地獄のカムバックコンサートチケットをゲットした人々 ~休戦協定だ! コルティオールとバーラトリンデ!!~

 もはやできない事は定職に就く事だけになった賢人。

 春日鉄人によって、改めて状況の共有が行われた。


「……マジ? やべぇじゃん。女将、なにしてんの? せめてさ、亀だけは殺しとくべきだったろ? その、亀は分かるよ。ノワールとか言うのがこれまで暗躍してたのも分かったよ。最後のはなに? 黒助さんでもビビるレベルのヤツが敵なん? マジで? うわっ。最悪過ぎんだろ。現世逃げよっかな」


 リュックたんの率直な感想が女将の胸に刺さる。

 黒助が悲し気にリュックたんの肩を叩いた。


「無理なんだ、リュック。原さんは元々、現世の人間だ。つまり、時岡市はあの方の庭。仮に現世にコルティオールとバーラトリンデ、全ての住人が疎開したとしても。普通に追いかけて来るぞ。むしろ、現世まで破壊される」

「マジすか。やべぇ。えー。マジかよ。せっかくガチ恋勢になったのに。うあー。短すぎんだろ、期間がよぉ。くそー。女将、もっと早くコルティオールを攻めろよなぁ。そしたら、私だってもっと早く裏切ってんのにさー」


 恋する17歳の発言にはオブラートが存在しません。


「よろしいですか? 私が愚考するに、岡本さんと鉄人さんの2人で使った転移魔法ですよね? どこか、別の時空に飛ばされたと言う事はないのでしょうか?」

「ああ……。やはりゴンツは賢い子です。変なキャラ付けヤメてくれましたし。良かった。……私の息子が40になる前に普通の喋り方になってくれて」


 ダイヤモンドのゴンツさん。

 名前の割に柔軟な発想を披露する。


 が、それは転移魔法を使った2人によって否定される。


「大変申し上げにくいのですがねぇ。手ごたえはありました。確実にどこか遠方には飛ばせたと思います。ですが……」

「僕は覚えたてのペーペーですけど。転移魔法って自分を中心に発動させるタイプと、相手だけを吹っ飛ばすタイプがあるんですよ。前者なら時空を超える事も可能ですけど、後者だとねー。相手がハナクソみたいな人だったらワンチャンって感じでしたけど、ガチってる人が3人でしょ? 10万回トライしても無理な気がしますねー」


 そこにポンモニが巨大な装置を持って帰って来た。


「ポンモニぃ!! あなた! さっき傷を塞いだばかりなのに!! 無茶をしないでください!!」

「やっべぇ。女将がマジでなんか綺麗になっとる。なにこれ。私、知らねぇぞこんな一面。ええー。大魔王にくっ付いてるし。自分のおかんのそーゆうシーンとか、思春期には1番キついんだが!!」


 『宇宙観測探索装置バーラトアストロサーチ』のセッティングを済ませながら、ポンモニは答える。


「お気遣いは不要でゲス! アタシ、もはや戦場では弾除けにもなれないでゲスよ! であれば、後方支援に命を賭けるだけでゲス!! 多くの人たちのおかげで生きながらえたこの矮小な体!! 多少擦り減ろうとも、何のそのでゲス!!」



「こいつ。農場に欲しいな」

「やはりうちの農協の幹部に欲しいですね」

「くっくっく。魔王城の要職にちょうど空きが出ておる」



 ポンモニの争奪戦がスタート。

 今年のドラフトは盛り上がりそうである。


 『宇宙観測探索装置バーラトアストロサーチ』の準備が整い、輝石三神が魔力を送ると装置が輝き始めた。

 いざ、地獄のウォッチングへ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 こちらはバーラトリンデから凄まじく離れた、この宇宙空間の果ての果て。

 とある岩石で出来た惑星があった。


 名前はウィシュマルバグ。

 とはいえ、この星の名前が呼ばれていたのは今から数万年前の話。

 もはや生物がいなくなってから壮絶な時が過ぎていた。


「あらぁ!! ちょっと二人とも! 見なさいよ、これ!! ほら!! この岩、なんかカマキリに似てない? ねぇ!!」


 そんな惑星に飛ばされたのが、原さん。


「……何という事になってしまったのだろう。私は、一時の気の迷いで取り返しのつかない事を。柚葉たん。リュックたん。きっと私を思い泣いているだろう。悔やんでも悔やみきれない。ああ。あの時、彼女たちを抱いていれば」


 黙れ、亀。


「お黙りあそばせ!! 元を正せば、亀!! あなたがもっと積極的に負のエネルギーを蓄えないからいけないのですわよ!! おかけでわたくしは、不要な魔力を多く浪費してしまいましたわ!! あれさえなければ、1メートルサイズは……言い過ぎですわね。40センチくらいには復活できていたはずですのに!! どうするんですの!? こんな宇宙の果てに来てしまっては、わたくしエネルギーの補充もままなりませんわよ!!」


 このミニキャラも大概は身から出た錆なのだが、亀の後に発言するだけでなんだかちょっと気の毒に思えてくる不思議。


「無用な争いはヤメませんか。ノワールさん」

「亀に諭されるとそこはかとなく腹が立ちますわね。この欲情の亀」


「あなたも人型のサイズになれば、私のストライクゾーンに余裕で入るのですが。それ、いつになったら完成します?」

「こ、こいつ……!! 既にわたくしを性的な目で見てやがりますわよ!? 恐ろしい性欲ですわね……!! 間違いなく負のエネルギーなのに、わたくしの身体が吸収しませんもの!! 危機管理シミュレーション能力が戻ってきておりますわ」


 原さんがウィシュマルバグの観察を終えて、2人の元へと戻って来た。

 続けて言う。


「あのさ、ノワールちゃん」

「なんですの? 原」


「握りつぶそうかな? さんを付けな?」

「申し訳ありませんわ。原さん。いかがされましたの?」


「あっちに星が見えるじゃない? あそこ。ほら」

「え、ええ。ですが、見えるからと言っても、距離は相当ですわよ? 50万キロくらいありますのもの。あれ? 原さん?」


 亀が目を細めながら報告した。


「ジャンプして飛んで行かれましたが」

「ええ……」


 それから1時間半が経つ。


「原は死んだんじゃありませんの? 最悪ですわ。ついに亀と2人きりになりましたわよ。わたくし、もう消滅するのも悪くない気がしてきましたわ」


 ズンッと音が鳴ると同時に、ウィシュマルバグの大地が揺れた。

 原さん、帰還。


「あんたら。これ、イケるよ。気合入れてジャンプしたら、星と星の間くらいイケた。それ繰り返してたらさ、プサンに戻れないかね? BTSのコンサート行かなきゃなのよ」


 ノワールと亀は答える代わりに、跪いた。

 原さんによる星間旅行が始まろうとしている。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 そんな地獄の使者の帰還を察知したバーラトリンデ惑星観察隊。

 事実を共有すると、もれなく全員が下を向いた。


 だが、この男は前を向く。


「おい。お前たち。聞け。ひとまず、コルティオールとバーラトリンデの争いは休止だ。両陣営にとっても無視できん脅威が現れた以上、俺たちがつまらん争いをしている場合ではない」


 それに同調するのが我らのベザルオール様。


「くっくっく。然り。余たちは今こそ手を取り合う時。余も黒助と一度は拳を交えたが、今では友誼を築いておる。ならば、相手が誰であろうとも、友誼は築ける。違うか、卿らよ」


 ここに、両星間の休戦協定が締結した。


「それで、原さんたちはどの程度で戻って来る? 輝石三神。できるだけ正確な数字を出してくれるか」


 輝石三神の役割分担は明確。

 パワータイプのリュックたん。

 魔力コントロールに長けたポンモニ。

 力は弱いが演算処理に優れるゴンツ。


 つまり、ゴンツが計算を弾き出した。


「私がお答えします。確認できた原さんの移動速度と、バーラトリンデまでの距離を加味して計算しますと。だいたい3か月ほどで彼らはこちらに到達します。ですが……」

「ああ。だいたい分かる。原さんはまだ、力のコントロールに慣れておられない。が、星と星の間を移動する事で直にマスターされるだろう。それを考慮してくれ。最悪なケース寄りで再計算を頼む」


 黒助が冷静な切り口で返すと、ゴンツは再び計算を始めた。

 3分で結果は出る。


「……2か月。これが、恐らく我々に残された時間かと愚考する次第です」

「そうか。では、俺たちはその間を使い、準備をしよう。得難き時間だ。各々、悔いのないように。死んだら後悔もできんからな」


 こうして、災厄は去った。

 が、災厄の再臨も確定的となる。


 コルティオールとバーラトリンデ。

 最期の時までのカウントダウンが始まった。


 だが、今は帰ろう。

 農場へ。従業員たちが待っている。

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