第270話 輝石三神、再集結!! 地獄の監察業務の準備回!!

 永遠に続くかと思われた熱を持つ嵐は10分ほど猛威を振るった。

 だが、ここにはベザルオール様がいらっしゃる。


 ベザルオール様は創始者の館はもちろん、離れた場所に避難していたバーラトリンデの民たち全員を個別に守る防御膜をいくつも発現させ、それらに魔力を放出し続けた。

 凄惨な事態に恐怖する者も多かったが、大魔王は別の星でも偉大なる統治者としての威厳を発揮する。


 嵐が治まると同時にバーラトリンデでは大きな歓声が上がった。


「じいさん。聞くが、問題ないか」

「くっくっく。余は全知全能の大魔王。ベザルオールである。力なき者を守る事は力を有する者の義務よ。それが果たせずして、何が大魔王か。くっくっく」


「そうか。コルティ。こっちに来てじいさんを支えろ。どうみても限界を超えているが、うちの岡本さんはさらに疲弊の極み。鉄人にはまだ転移魔法を使ってもらわねばならん。魔力を貸与できる者を集めて、じいさんを診てやれ」

「は、はい!! かしこまりました! 黒助さん!!」


「最初に会った時とはずいぶん印象が変わったな。今の面構えならば、じいさんとも上手くやれるだろう」

「ひゃ、ひゃい!! ポンモニ。ヨシコ。黒助さんはもしかすると、とてもいい人なのでは!?」



「元からいい人でゲスよ!」

「コルティ。あんた、ディカプリオと接触する機会を作ってもらった途端にそれかい。ヨシコは悲しいよ。女子中学生だってもっと思慮深いよ」

「……すみませんでした」


 なにやら、雪解けの気配である。



 さらに黒助は目を凝らす。

 コルティ様を凝視した。


「え、ええと? あの、私は何をされるのでしょうか? これまでのご無礼を体で支払わされるのですか?」

「やはりな。先ほどノワールを見た後だからよく分かる。動くなよ、コルティ」


 黒助は手を伸ばすと、迷わず上着をはぎ取った。


「ひぃぃぃぃ!!」

「おい。動くな。ポンモニ。それから、お前はヨシコと言ったか? コルティを押さえろ」


「ゲス!!」

「任せな!!」

「や、ヤメてください! 2人ともぉ! 私! 初めてはベザルオール様にと決めているのです!! 分かりました! 分かりました!! 胸を差し出しましょう!! これで許してください!! お願いします!!」


 コルティ様の右肩を掴むと、何かを思い切り引き抜いた。


「げひぃあぁぁぁぁぁ!! ヤメロ!! ハナセ!!」

「見覚えがあるな。なんと言ったか。このデカいキクラゲみたいなヤツは」


 ムンクの「叫び」みたいなヤツである。

 諸君覚えておいでだろうか。

 これはノワールの分体に魔力を注ぎ成長させた悪霊。

 名前は傀儡霊スブアルトくん。


「私の身体にアレがいたのですか? ヤダ。ちょっと気持ち悪いですね」

「くっくっく。余もかつてアレに蝕まれておった。今の気分はいかがか、コルティさん」


「は、はいっ!! 天にも昇る気持ちです!! ああっ! ベザルオール様!! いけません! 私ったらこのような恰好で!! すぐバニーの衣装に着替えて参ります!!」

「くっくっく。ちょっと前までのミアリスと同じ雰囲気で草。これは本当に悪霊から解き放たれたのか判断に苦しむ」


 そんなやり取りを高齢カップルがしている間に、傀儡霊スブアルトが黒助の『農家のうかパンチ』によって塵となった。

 この瞬間、ノワールの支配からコルティ様は真の解放に至る。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 落ち着きを取り戻した一同は、現状の把握に努める。


「鉄人。考えを聞かせてくれ」

「兄貴ったら! こんな豪華メンバーでまず僕に振るんだから!! 超プレッシャー!! 僕と岡本さんの転移魔法で、可能な限り遠くには飛ばしたけどさ。僕はこの世界の宇宙がどこまで続いてるのか分からないからねー。ポンモニさん、分かります?」


 コルティ様が現在、洗脳から回帰して本能の恋愛脳へとシフトしたため役に立ちません。


「ゲス! であれば、お役に立てるでゲスよ!! かつてコルティ様がお戯れに作られた、『宇宙観測探索装置バーラトアストロサーチ』があるでゲス!! しかし、動かすためのエネルギーがないでゲス。アタシもヨシコも魔力を消費しているでゲスから……」

「そうか。ポンモニ。しょげる事はない。要は頼りになる鉱石生命体がいれば良いのだろう?」


 黒助は鉄人にアイコンタクトで意思を伝える。

 すぐの自慢の弟が空間を歪め始めた。


「ちょっと行ってくる」

「すぐに戻ってきますので! あっ! なんかお菓子持ってきますね!!」


 春日兄弟がバーラトリンデから瞬間移動した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 春日大農場の母屋に現れた2人。


「く、黒助!! 平気!? 心配してたのよ!!」

「ああ。ミアリスか。すまん。気を遣わせたな。少し待っていてくれ。バーラトリンデの始末がついたら、お前のところへ一番に戻る」


「お、おうふ……! これは久しぶりに、なんかセクシーな恰好した方がいいかしら。水着でも出そうかな」

「まーたミアリス様がダメになろうとしてるですぅー。鉄人さん、ずんだ餅がいっぱいあるのでお持ちくださいですぅー」


 お菓子をゲットした鉄人。

 黒助はリュックたんの元へと急ぐ。

 従業員の家は全て暗記している黒助。迷いなく扉を開けた。


「リュック。いるか」

「ほ、ほあぁぁぁぁぁ!! く、くく、黒助さん!? やっ。いますけど!!」


「そうか。すまんが一緒に来てくれ」

「え。あ。うす。分かったんで! ちょ、ちょっと待ってください!!」


「何故だ?」


 リュックたんは耳まで真っ赤にして、叫んだ。



「き、着替え中なんでぇ!! つか、今、普通に下着なんすけど!! う、あ……。あ、あの? 慌てて出て行ったりとかは?」

「いや。ここで待たせてもらって構わんか? 急ぎなんだ。それに、その下着も着替えようとしている服も俺と一緒に買ったじゃないか。今さら隠す事もなかろう。よく似合っているぞ。実に可愛い。スマホの待ち受けにしたいくらいだ」



「う、うがぁ……。一緒に買ったから見ても良いの理屈が分かんねぇ!! やべぇ。この人、そーゆう人だった。おお。マジかよ。着替えシーンガン見されてんぞ。け、けど! 可愛いとか言われたら追い出せねぇ!! ぐぅぅぅ!!」

「もしもし。俺だ。ゴンツは行けそうか? そうか。では俺が担ごう。リュックも担いでいく。ああ、待っていてくれ」


「普通に電話しとる!! しかも視線が私から離れてねぇ!! なんだこれぇ。俺様過ぎんぞ、黒助さん……。マジでぶっ刺さる!! 好き過ぎるんだが!!」

「支度はできたようだな。実に可愛らしいぞ。長い靴下と短いスカート。領域展開だったか? 実に良いと思う。では、行くぞ」


「うぎゃ!! マジで担がれた!! ミニスカなのに!! マジかよ。やべぇ。こんな扱い、ご褒美過ぎんだろうが。雑にされてるようで、触り方優しい……。あー。今晩ぜってぇ寝られねぇわ」


 そのまま黒助に担がれリュックたんと、母屋の前に転がっているゴンツを拾って、急ぎバーラトリンデに再転移する春日兄弟であった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 リュックたんとゴンツ。

 久しぶりの里帰りをキメる。


「ああ! リュック!! 久しぶりですね!! まあ! そんなに可愛い服を着て!! 見違えましたよ!!」

「うす。女将、久しぶり。……つか、女将も雰囲気変わった?」


「そうですか? 普通ですよ! ふふふふふっ」

「いや。バニースーツ着てんじゃん。普通? 常軌を逸してんだが?」


 こちらは盟友の邂逅。


「ゴンツ!! どうしたでゲスか!! 手足が鉱石化してるでゲスが!!」

「ポンモニ。久しぶりだなぁ。これはね、農場の仕事でうっかり煮えたぎるジャムの鍋に落ちたんだよ。はははっ。鉱石生命体で良かった」


 ゴンツさん。未だに怪我の治療中。

 軽いネタで負傷しても軽々に回復しないのがこの世界。


「うけけっ! この2人が来てくれたならば安心でゲス!! なにせ、アタシの信頼する、敬愛する仲間でゲス!!」


「うっせぇ! このアルマジロ!! なんだよ! 頭撫でてやるから近く来いよ! スカートの下ガチパンだから、足元まで距離詰めんのは禁止な!!」

「ふふふっ。リュックも優しくなっただろう? 今では恋する乙女さ」


「ばっ! てめぇ、ゴンツ!! バーラトリンデの砂利食わせるぞ、てめー!!」

「うふふふふっ。賑やかな子供たちが戻ってきました。うふふふふっ」


 完全に穏やかな星になったバーラトリンデ。

 これから地獄の観察をする必要があるのだが、それを幸せフェイスのコルティ様に指摘するのは無粋だろう。

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