第265話 ルビーのヨシコVS魔神の亀・ゲラルド

 コルティ様は茶碗に山盛りで鎮座している炊き込みご飯を食べていた。


「あれ。意外と美味しいですね。なんか、カマボコとかチクワとか、やたらと練り物が多いですけど。ヨシコ。思ったよりも美味しいですよ。腕を上げましたね」


 ヨシコは答えない。

 代わりに、創始者の館の入り口に視線を向けていた。


 ヨシコの瞳はおかんアイズ。

 悪いものは見逃さず、ベッドの下にある思春期の宝物は静かに机の上に並べたてまつり、娘が財布から千円札を2枚抜けば、娘の財布から五千円札を抜き、ついでにお年玉を「貯金しとくよ!!」と言って没収しキッズたちをブラックホールへと誘う。


 途中から瞳の説明ではなくなっていたが、悪意は見逃さないのがおかんアイズ。


「コルティ!」

「えっ。なんで急に怒鳴られたんですか? 私、何かしました?」


「下がってな!!」

「は? ふぁー!? な、何事ですか!?」


 創始者の館が爆発した。

 厳密に言えば、外からの攻撃で壁が破壊されたのだ。


「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

「ええ……。またあなたですか。亀。いえ、ゲラルド。いい加減にしなさい。あなた、うちの星の居候なんですからね。お金も一切入れませんし。その上、このような癇癪まで起こされては、いくらポンモニが言っても私だって対処しますよ? 退所させますよ?」


 亀は現在、バーサーカーモード。

 コルティ様の言葉も届いていない。


「コルティ!!」

「なんで私は怒鳴られるのですか。……え? ちょ、亀! ヤメなさい!! あなた、それはシャレじゃ済みませんよ!! 星が壊れますから!!」


 亀の腹部に純度の高い魔力が集約されていく。

 腹部と言うか、ほとんど股間である。



 男の股間はいつでもバーサーカー。って、やかましいわ。



「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! この星! 私が貰い受ける!! コルティ様は後で私の秘書にして差し上げましょう!! ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 いつもより余計に「ふぉぉぉぉぉぉぉっ!」と言っております。


「させないよ! コルティはうちの子だからね!! まずはこのヨシコを納得させな!!」

「ふぉぉぉぉぉぉぉっ!! そもそも、お前は誰だぁぁぁぁぁ!!」


 実はこの瞬間が初対面の2人。

 バーラトリンデは同居人の挨拶などの基本的なコミュニケーションにちょっと問題がある星である。


「あたしゃ! ルビーのヨシコ!! みんなのお母さんだよ!!」

「ふぉぉぉぉぉぉぉっ! そんな若くて美人のお母さんがいるかぁぁぁぁ!! お母さんはだいたいみんなばばあだ!! すべからくぅぅぅぅぅぅ!!」


 個人の、個亀の感想です。


「誰に向かって口きいてるんだい!!」

「うるせぇ! ばばあ!! 私に指図するなぁぁぁぁ!!」


 ヨシコも魔力を蓄え始める。

 ちなみに、この2人にはどちらもノワール分体が付与されているため、魔力の出力も極めて高い。


「なんですか、これ!? 何事ですか!? 私は何に巻き込まれているのですか!?」


 コルティ様も魔力保有量は決して少なくないが、彼女は定期的に鉱石生命体を産み出しているため余剰の魔力を抱えていない。

 よって、亀とヨシコの魔力を10とすれば、コルティ様はだいたい4。


 結構な勢いで次元が違った。


「邪魔なばばあはここで消す!! 見た目は20代後半の清楚系美人OLっぽいのに!! 騙されたぁぁぁぁぁぁ!! サムネ詐欺ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

「勝手に理想押し付けてくるんじゃないよ!! お母さんだってね! 昔は若かったんだよ!! あんたが大きくなったって事は! お母さんもそれだけ年取ってるの!! バカな子だよ!! 本当に!! だからあんたは童貞なんだよ!!」



「童貞関係ないだろうがぁぁぁぁぁぁ!! 『亀極光砲ゲラルドスプラッシュ』!!」

「なんてもん出してるんだい! うちの子に向かって!! 『紅玉母愛砲ルビーおかんガン』!!!」



 亀と母の魔力は同時に放たれ、創始者の館の中心で爆ぜる。

 その威力は筆舌に尽くしがたいものがあり、ヨシコの炊飯器の破片が荒野に向かって吹き飛ばされた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 コルティ様は思った。

 「夢ならばどれほどよかったでしょう」と。


 普段の口調がこれまでの誰よりも歌詞にコミットしており、なんだか彼女の口調っぽかったため悲壮感が増したという。


「よ、ヨシコ!! 無事ですか!? ヨシコ!! あああっ! ヨシコぉ!!」


 コルティ様は、自分を守ってくれたヨシコの名を呼んだ。

 途中からは半ば叫んでおり、それは喪失の予感を招いているようでもあった。



「んがあああああっ! なんてことだい!! こんなに汚しちまってぇ!!」

「あ。普通に元気だったんですか? 私、クライマックスっぽく叫んでしまいましたが。ちょっと恥ずかしくなってきました。うちの館が更地になったのに、あなたの耐久値、すごいですね。ヨシコ」



 死亡フラグがやってきたら「帰れ!!」と追い返す。

 それがおかん感。


 なお、創始者の館は吹き飛ばされて、ほとんど何も残っていない。

 これは甚大な被害であり、ポンモニが綺麗に使っている台所も、ポンモニが毎日掃除しているトイレも、ポンモニが最近買い替えた洗濯機も全てが消失した事になる。


 いくらなんでも非道が過ぎる。

 これが悪のやり方か。


「うけけけっ。ご無事で何よりでゲス。コルティ様。よくぞ我らの母を守ってくれたでゲス。ヨシコ。サファイアのポンモニ。ここにおりますでゲス」

「ポンモニ!! 良かった! 無事でしたか!! って、あなた!! 背中が削れているじゃないですか!? えっ!? うちの世界観でこんなリアルな怪我するんですか!?」


「安心して欲しいでゲス。この程度の怪我、なんてことはないでゲス」

「冗談じゃありません! すぐに修復させてもらいます!! あなたに万が一の事があれば、私はどうすれば良いのですか!! 嫌ですよ、ずっとツッコミ役で生きていくのは!!」


 コルティ様。なりふり構わずポンモニの応急処置を開始。

 彼女は鉱石生命体の生みの親であるため、魔力を消費する事で傷を癒し欠損した部位を復元させる事も可能。


 だが、そこにやってくる亀。


「ふぉぉぉぉぉぉぉっ! やるな、母さん!! 下手したら、1キロくらい吹き飛ばされたぞ!! だがぁ!! 明らかに魔力が減ったな? 私も同じだけの魔力を使ったが!! 不思議と体の奥底から満ち満ちて来る!! ふぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 再び股間を光らせる亀。

 体の奥底がそこになると、なんだかすごく嫌である。


「ゲラルド! どうしたでゲスか!! あなたの心は、もっと美しく綺麗だったはずでゲス!! かつての自分を取り戻して欲しいでゲスよ!!」



「えっ。そうでしたか? 元からあんな感じでは?」

「コルティ。多分、今回はあんたが正しいよ」



 一体感を見せる、母と娘。もしくは娘と母。

 だが、亀の股間が吼えるのも時間の問題。


 万事休すか。


 そう思った次の瞬間である。

 時空が歪むと、楕円形のドアが出現する。

 それが開くと、あの男がやって来た。


「ひぃえぃああぁぁぁぁぁ!! ああ、これは失礼しました。どうも、皆様。私、時岡農協の次長を務めております。岡本と申します。何やらね、甚大な魔力を感じまして。私でお役に立てる事はないかと思い、馳せ参じました。こちら、サブレーです」


 僕らのヒーロー。正義の組織農協からの使者。岡本さん、降臨。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ゲス!! 岡本さん!! どうしていらっしゃったのでゲスか!?」

「いえね、ポンモニさん! 先日、農協観光のバスプランを予約なさったでしょう? 私の部下が担当になりましてね! そこに魔力反応! これはもう! 伺いますとも!! あら! どうなさったんですか!? お宅がなくなっているじゃないですかぁ!! コルティさんでしたね?」


「えっ? あ、はい」

「お勧めの共済があるんですが! 時間遡行共済と言いましてね! 消失した建物や車、機材などを修復いたしますよ! 今でしたらね、入会特典で初回のお見積り、2割引かせて頂きます!! どうですか?」


 コルティ様は色々と考える事をヤメて、笑顔で「あ。入ります」と答えていたという。


 創始者の館、復元シークエンスへと移行。

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