第264話 亀、そろそろ余計な事をしたくなり始める ~もう取り返しのつかない男! 夏の亀祭り!!~

 コルティオールとバーラトリンデ。

 その間に広がる宇宙空間では。


「あっはっはっは!! 何度やっても復元される肉体に!! 甲羅としゃもじと炊飯器がぁ!! なんでこんなに面白要素が山ほど付随されるんですの!? これ、このまま復元させていったとして、完成形が凄まじく残念なことになりませんの!? なりますわよね!! ……慎重に、次の負のエネルギーの送り先は、極めて慎重に行わなければなりませんわ」


 現在再生中。虚無のノワールさん。

 魔改造されたプラモデルみたいになりつつある現状を受けて、さすがに足取りが重くなっていた。


 とはいえ、現状の再生率では暗躍する事は出来ても、策謀の指揮を直接執る事もできず、彼女の生きる意味である負のエネルギー精製もおぼつかない。

 かつて誕生してから途方もない時間をかけて成長してきたように、再び数百年から数千年の時を費やせば理想の再生も可能かと思われるが、それをするには気力が必要。


「……いえ。さすがにですわよ? これから1000年かけてもう一度頑張るのはちょっとですわ。だって、一周目はですわよ? 生まれてからそのルートしか知らなかったので、致し方ありませんでしたわよ? けれど、今はショートカットの方法も色々と知ってしまいましたの。……面倒なんですわよね!! また1000年ルートに移行するのは!!」


 ちょっと横着の味を占めたノワール。

 もう地道なルートは選べないらしい。


「やはり、ターゲットはバーラトリンデですわよ。コルティオールの頭おかしい連中にわたくしの生存が知られたら……!! あいつら、確実に殺しに来ますわよ。下手したら、この空間ごと焼き尽くしにかかるかもしれませんわ。あいつらならやりかねない……!! ですので、今回はポンモニを狙いましょう!! ふふふっ! あのように心が綺麗なだけの存在ならば!! 御しやすいのですわよ!! さあ、行くのです、わたくしの分体!! あっ。ええ……」


 何かをやらかしたご様子のノワールさん。

 では、現場の様子を見てみよう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 バーラトリンデ。

 岩山の館。

 の、近くにある枯れ井戸。


「……ちょっと飽きて来た。私と同じ純粋な生命体はいないし。バーラトリンデは私にはちょっと狭すぎるというか。そろそろ、アレだな。コルティオールに帰ってやってもいいな。柚葉ちゃんやリュックたん。彼女たちも反省して、今頃は私と過ごした日々を思い涙しているだろう」


 亀がいた。

 ヘイトを集めるなら任せとけ。全ての行動、思想、発言に至るまで、徹頭徹尾マイナスを行くこの世界の嫌われ者。

 そしてお前は魔力生命体。動物面するな。


「ゲラルド! こんなところにいたでゲスか!! さあ! みんなでお昼ご飯を食べるでゲスよ!! さあさあ! みんなが待っているでゲス!!」


 そこにやって来るのは、みんなから好かれるアルマジロ。

 サファイアのポンモニさん。


 給食の時間に仲間外れになっているクラスメイトがいれば、率先して机をくっつけてあげる清らかな心はまさに宝石。

 例えはみ出し者が自分から勝手にはみ出していくスタイルでも、彼は見捨てない。


「ポンモニか。私は考えていた。ちょっと、環境が合ってないかなって」

「それはいけないでゲス! アタシにお任せでゲスよ!! やはり、新規入植者には快適な暮らしを得る権利があるでゲスから!! 何でも言って欲しいでゲス!!」


 そこに忍び寄る、悪しき魂の欠片。

 ノワールの放った分体である。


 分体とは言え、このエネルギーの欠片に意思はない。

 ただ、マイナスの心を見つけるとそれに憑りつき、暗躍と策謀の限りを尽くすべく扇動するプログラムが施されているだけ。


 おわかりいただけただろうか。

 ノワールはミスを犯していた。


 彼女の分体は、「マイナスの心に憑りつく」のである。

 対して、今回のターゲットのポンモニには「マイナスの心が一切ない」のだ。


 どう頑張っても取り付く島のない男。サファイアのポンモニ。

 隣にはマイナスが基本であり、何なら一周回ってプラスになってしまうそうなくらいにマイナスを拗らせている亀がいた。


 どうなるのか。


「私はそろそろコルがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「ど、どうしたでゲス!? ゲラルド!!」


「ふぉぉぉぉぉぉっ!! 私は! 私は!! なんだか、とてもいい気分になってきた!!」

「バビディの洗脳を受けたみたいな雰囲気になったでゲス!! 気を確かにでゲス!! げぁっ、ゲスぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」


 亀、ポンモニに向かって真っ黒な魔力を凝固させた塊を放つ。

 その威力は相当なものであり、ポンモニは200メートルほど吹き飛ばされた。


「ふぉぉぉぉぉぉぉっ!! ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! そうだ!! 私がこの地を支配し!! コルティオールを植民地とすれば良い!! そののち、愚かな女たちを集めゲラルドハーレムを作る!! ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!! プランができたぁ!!」



 こうなりました。



 亀は甲羅から魔力を噴出すると、回転しながら創始者の館へと飛び立っていった。

 かつてはガメラっぽい飛行スタイルだったが、今の亀は八頭身。


 見た目も結構キモければ、飛行するシーンは子供が見たら号泣確定のキモさを誇る。

 バーラトリンデが危機を迎えていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ぐ、ぬぐぐぐぐっ。アタシとしたことが、油断してしまったでゲス……。しかし、ゲラルドも今では同じ釜の飯を食う仲間でゲス。それがどうして、話をするだけで警戒などできようかでゲスよ!! アタシ、血の通わぬ鉱石の体でゲスが!! そのような冷血な生き物にはなりたくないでゲス!!」


 良かった。無事だった。

 みんなのアルマジロ、ポンモニさん。

 外皮を少し削られながらも、生命活動には問題のないレベルのダメージに留める事に成功。


 さすがは、かつて春日黒助とベザルオール様の共闘にも堪えて見せた耐久値。

 君がいなくなるとこの世界が少し広くなってしまうので、その隙間を埋めるような事をさせないで欲しい。


「これはいけないでゲス! ゲラルドは混乱しているようでゲス! 今の精神状態では、仲間たちに危害を加える恐れがあるでゲス!! すぐに、館へと連絡しなければでゲス!!」


 ポンモニはスマホを取り出す。

 が、そこで悲劇が彼を襲った。


「なんてことでゲス……。スマホがバキバキでゲスよ……。これでは、連絡が取れないでゲス。コルティ様にはテレパシーの類が届かないでゲスし。輝石三神もいまやアタシが残るだけ。何という無力でゲスか……」


 なお、ポンモニのスマホにはプランター栽培で育てている野菜の生育日誌や、花壇のお花を撮った画像データなどが山ほど記録されている。

 亀なんか放っておいて、誰かデータのサルベージに向かってあげて欲しい。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃の創始者の館。


「コルティ!!」

「なんですか、ヨシコ。あ。また炊飯器を持っていますね……」


「できたよ! あんたの好きな炊き込みご飯が!!」

「あの、私は1度でも炊き込みご飯が好物だと言った事はありましたか?」


「できたよ! あんたの愛してやまない、炊き込みご飯が!!」

「どうして好きの上位互換に? 私、炊き込みご飯を愛した事はもっとないのですが」


「できたよ! この世界の真理!! 炊き込みご飯が!!」

「分かりました。食べましょう。食べますから、どんどん炊き込みご飯の地位を向上させないでもらえますか。いえ、別に炊き込みご飯が悪いと言う訳ではないのですが。私はクロワッサンとかの方が好きなのですよ?」


「ほら! たーんと食べな!!」

「また……。いつも少なめで良いって言っているのに、どうしてこんなに山盛りにするんですか? こっちのオーダーが通らないのはどうしてなのですか?」



「お母さんってそう言うものだよ!!」

「た、確かに、そうかもしれませんが。はぁ。分かりました。頂きます」



 コルティ様とヨシコがいつものように過ごしていた。

 そこに迫る、亀の悪手。


 ヨシコが清らかな電波を受信したのは、その狭間の瞬間であった。

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