第260話 春日柚葉の大学生活シリーズ! サークル助っ人編! ~同時上映、春日黒助と鬼窪玉堂の過保護包囲網~

 家族全員で夕食を楽しむ春日家。

 長女がポツリと言った。


「そう言えば、明日なんですけど。ちょっと遅くなってしまうかもしれないので、未美香にご飯をお任せしようと思ってるんです。ごめんなさい、兄さん」

「いや、構わんが。何かあるのか?」


「にししーっ。お姉ね、最近色んなサークルの助っ人してるんだよ! 明日はテニスと! あと、お料理のサークルと!! あとはー。何だっけ?」

「もぉー! 未美香ったら、兄さんに言っちゃダメですよ! 変な心配させたくないんですから!!」


「ごめんなさーい! ってことで、明日はあたしがお料理するよっ!! お兄、何食べたい?」

「未美香の作ってくれるものなら、何だってご馳走だ」


 食後、お茶を啜っていた黒助の隣には鉄人がいた。

 彼もポツリと呟いた。


「柚葉ちゃん、モテるからねー。大丈夫かな?」

「なにか心配事があるのか? 鉄人」


「いやね? 柚葉ちゃんって優しいからさ。あと、意外と流されやすいし。無自覚で油断する事多いし。悪い虫が集まるんだよねー。柚葉ちゃんタイプってさ。ほら、兄貴もJK時代の柚葉ちゃんに集まる羽虫たちを焼き尽くしてたじゃん? 最近はあんまりしてないみたいだけど」

「……い、いや。し、しかし。柚葉も大人に」


「大人って言ってもまだ20歳だよ? 柚葉ちゃん、兄貴大好き過ぎて周りが見えてないし。そろそろモテる自覚を持たないとさー。大学生って色々なところが奔放になるからねー。おろ? 兄貴?」


 兄貴はスマホを持つと、手早く連絡を済ませる。


「ミアリスか? 俺だ。すまんが、明日は休む。柚葉の周りを綺麗にしておこうと思ってな。もう大人だからと思っていたが、それは勘違いだったようだ。お前はどう思う? ……そうか。ありがとう。ミアリスに肯定してもらえると、勇気が湧いて来る。では、後は任せた。ああ。すまんな」

「しまったー。僕、また何かやっちゃいましたかだ、これー」


 黒助テレフォンは止まらない。


「鬼窪か。俺だ。明日は暇か。そうか。では、暇を作ってくれ。お前の力を借りたい。そうか。助かる。今度イチゴを山ほど事務所に持って行くからな。ああ。では、明日な」

「逃げよ! 柚葉ちゃんに怒られるヤツだ! これ!! よし、逃げよ!! ……あっ」



「鉄人さーん? 何やったんですかー? 私、兄さんの電話の声は全部聞き取れるんですよー? 確実に私のために何かしようとしますよねー?」

「たはー!! 逃げられなかったー!!」



 この後、むちゃくちゃ怒られたニートである。

 では、大学シリーズをお楽しみください。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 翌日。

 柚葉さんは大学へ。


 その後ろには、黒い服を着た黒助と、黒いスーツと黒いサングラスをかけた鬼窪が続く。

 今日は講義がなく、朝からサークル活動に取り組む予定の柚葉さん。


「鬼窪。お前のアレ。なんか魔力の銃弾撃ち出すピストル。用意しておけ」

「へい! 撃ってええんですけぇのぉ!?」


「構わん。俺が責任を持つ」

「任せてくだせぇ! 兄ぃ!! ワシ、躊躇なく撃ちますわ!!」


 躊躇なく撃つ予定の黒いコンビ。

 最初の舞台はテニスコート。ここから惨劇は始まるのだ。


「ありがとねー! 春日さん! 助かるよ!!」

「いえいえ! 私の妹がテニス得意なので! 教えてもらいました! ウェアも借りて来たんですよ!! 頑張りますね!!」


 未美香たんから借りたウェア。

 柚葉さんは妹よりも身長が5センチほど高く、胸部装甲も1ランク上。

 おわかりいただけただろうか。


「おいおいおい! 最高じゃねぇか!!」

「春日さんのテニスウェア!! 寒いのに!! 生足ぃ!!」


 悪い虫ホイホイなのである。


「鬼窪。やれ」

「承知!! おらぁぁぁ!! 『魔弾装填回転式拳銃マジック・リボルバー』!!!」


 コルティオールの中でもかなり強い魔法を駆使して、早速やった鬼窪玉堂。

 パタパタと音もなく倒れた悪い虫たちは、刃振組の構成員によって安全な場所で保護され、帰る際にはサランラップとパックジュースを3つ与えられるのでご安心ください。


 ちなみに、テニスは柚葉さんの活躍によって時岡大学が勝利。

 その魅惑のテニスウェア姿は、多くの同性プレイヤーをも夢中にさせた。


 黒助が「柚葉のウェアを買おう。サイズが合ったヤツを」と決断するには充分だったと言う。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 続けて、柚葉さんは大学のサークル棟へ移動する。

 テニスウェアのまま階段を上がると言う無自覚ゆえのサービスシーンを産み出したため、鬼窪の拳銃が数発ほど吠えた。


「お待たせしました!」

「待ってたよー! 柚葉ちゃん!! 助かる! でも、その恰好にエプロンは刺激的すぎかなー!!」


「わわっ! すみません! 急いでいたもので!! すぐに着替えて来ますね!!」


 そのあと、柚葉さんは私服に戻った。

 黒助が鬼窪に指示する。


「おい。あの素晴らしい発言をした女子に、メロンをお贈りしろ」

「へい!! すぐに手配させますけぇ!! スイカも付けましょ!!」


 料理サークルの部長、メロンとスイカをゲット。


「急にごめんね。毎年やってる合同発表会だからさ。メンバーが減っても伝統を維持したいなって思って」

「お役に立てるなら嬉しいです! お料理は好きですし、レシピも頂けるんですから、私もお得しかありません!! 頑張りましょうね!!」


 時岡大学料理サークルは昨年ごっそりとメンバーが卒業したため、今年はわずか4人しかいない。

 その中でも他人に提供できるクオリティの皿を産み出せる使い手は1人のみ。


「お待たせしました! 鱧の湯引きです!! うちの兄が大好きなんです!!」


 集まった他校の学生がざわついた。

 割烹料理を手際よく作る可愛いエプロン女子大生。

 それはざわつく。


「あ、兄ぃ!?」

「ああ。柚葉の作る飯は何でも美味いぞ。鱧料理も絶品だ。今度食っていけ」


「なんちゅうスキルなんじゃ、柚のお嬢……。んあ?」


 残念ながら、こんなところにも悪い虫が。

 鬼窪隊員が発見。


「ふへへっ。エプロンにミニスカ、堪らんですな」

「いやまったく。穴場なんだよなぁ、料理サークルってよ」


 もはや是非もなし。


「鬼窪」

「へい!!」


 鬼窪が2秒でやってくれました。

 後始末が屋内だったので大変でしたが、鱧を捌く手間に比べれば何のその。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 料理サークルでお昼ご飯を済ませた柚のお嬢。

 鼻歌交じりで階段を下りて、サークル棟1階へ移動。


 そのまま、怪しげな部室へと吸い込まれていった。


「ぐふっ。これは柚氏。お疲れ様でござる」

「いやはや。柚氏の熱心さにはわたしも前かがみですな」


 やっちまう案件か。


「いえ! 私がお勉強させてもらっている立場なので! これ、よろしかったら! さっき作ったお料理なんですけど!!」

「これはこれは。サンクスでござるよ、柚氏」

「おふくろの味が来てしまった。ばぶみを感じる」


 薄暗い室内でうごめく怪しい男たち。

 ここは時岡大学漫画研究同好会になれない愛好会。



 薄い本を作るサークルである。



「鬼窪」

「へい! 狙撃も任せてくだせぇや!! 窓の隙間がありゃあ、跳弾でイケますけぇ!!」


「待て。イクな。様子がおかしい」

「へ、へい」


 この兄は過保護である。

 が、前後の事情を調査すると言う機能を実装していた。


「それで! 今日は導入から行為までのスピード感について学びたいんです!!」

「ぽこぉ。ストレートでぶっ飛ばしてくる柚氏」

「そこに痺れる、憧れ……は、しないです。こちらの資料を授けるゆえ、ご覧なされ」


 そうなのだ。

 このサークルには、柚氏が自分から参加を希望している。


 熱心に薄い本の解説冊子である薄い本を読みふける柚葉さん。

 黒助は「そうか」と頷いて、夕方になるまで周辺の警備に殉じていた。


 部室の前で丁寧にお辞儀をして構内を歩き、門をくぐって大学を出る柚葉。

 そこには、黒い服を着た兄が待っていた。


「わぁっ! 兄さん!! 待っていてくれたんですか!?」

「ああ。ちょっとそこまで来たついでにな」


「そうなんですか!? 言ってくれれば急いだのに!! ごめんなさい、お待たせしちゃって!!」

「いや。柚葉も大きくなったからな。やりたい事も色々あるだろう。俺が歩幅を合わせよう」


「なんだか、兄さんがカッコいいです!! えへへっ」


 寄り添って家路につく春日兄妹。

 電柱の陰で潜んでいた黒いスーツは黒いサングラスの奥の瞳を濡らして、天を仰ぐ。


「兄ぃ……!! ご立派ですのぉ……!! ワシ、これからもついて行きますけぇ!!」


 ちょっとだけ分別を身に付けた黒助を見つめて、清らかな涙を流す農の者であった。

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