第259話 春日未美香の後輩、アキラちゃん。ついに春日家へ来る! ~後輩に先輩風を吹かす春日家の妹~

 コルティオールを襲った空から降る隕石。

 それを無事に粉砕してから、約2週間。


 そろそろクリスマスシーズンが到来しようとしており、街は浮足立っていた。

 今日は珍しく春日黒助が休暇を取得。彼は自宅でのんびりと過ごしている。


 たまの休日。

 黒助ハーレムはさぞかしスタメンを奪い合っているのかと思えば、そうではない。


 「あの人は普段から頑張り過ぎているので、休みの日は家で休養させよう。じゃないとクリスマスに差し支える!!」という総意の元、全員が同意。

 ちなみに、クリスマスの予定を巡っては血で血を洗う争いが起きるかもしれない。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 現在、午後3時過ぎ。

 春日黒助はジーンズに黒いセーターで新聞を広げていた。


 柚葉は大学。未美香は高校。

 ニートは昼食を済ませてから外出中。


「暇だな」


 日本農業新聞提供の農畜産物相場をチェックしながら、黒助は呟いた。

 イチゴの相場がやや重く、それをしばらく憂慮していたものの、そろそろやる事がなくなって来た。


「筋トレでもするか」


 そう言うと、黒助はおもむろに服を脱ぐ。

 続けて、庭へ向かった。


 春日家はコルティオールと関りを持つまで隣接している畑で大規模農業をしていたため、近隣に民家はあまりない。

 よって、真っ昼間から半裸で外に出ても誰に迷惑をかけるでもない。


 12月の寒空の下だが、それが春日黒助にとって障害になるのかと言えば、議論に値しない。


「ふんっ。ふんっ。ふんっ。ふんっ」


 逆立ちして片手腕立て伏せを開始。

 ドラゴンボール的なトレーニングだが、多分これを現実世界でやってもたいして体は鍛えられず、何なら怪我のリスクの方が大きいまである。


 だが、黒助は別に有益な筋力増強を求めている訳ではなく、充実した暇つぶしを求めているため、これは逆にピンポン。

 気分が乗って来て指立て伏せに発展したところ、悲鳴が聞こえた。


「ひぃやぁぁぁぁぁ!! なんですか、このご褒美は!! ゔぁ!!」

「ん? お客か? 聞くが、うちにご用か?」


 制服姿の女子高生が、悲鳴を上げていた。

 ちなみに、黄色い声援寄りの悲鳴であり、よく見ると「はぁ、はぁ。ぐひひっ」と息も荒い。


「何やら呼吸が乱れているな。家に上がって休憩して行くか?」

「お、おうふ!! 令和のご時世に面識のない女子高生を躊躇わず家に招き入れる筋肉イケメン!! ご、ご褒美……!! あ、あのぉ……! 胸筋、触っていいですかっ!!」


「ふむ。よく分からんが、構わんぞ」

「おうふ!!」


 黒助の逞しい胸板をマフラー巻いた女子高生がこねくり回していると、みんなの元気一等賞乙女、春日未美香たんが走って来た。


「ちょちょ、ちょっとぉ! アキラちゃん! 何してるの!?」

「こ、これは未美香先輩!! すみません!! この大槻アキラ!! 活きの良い大胸筋があったので! 辛抱たまりませんでした!!」


「未美香。おかえり。この子は未美香の友達か? 執拗に胸板を触って来る」

「あ、うんっ! 後輩のアキラちゃん!!」


 豊かな胸と豊かな想像力を使役する、時岡高校テニス部所属、煩悩乙女のアキラちゃん。


「待てよ。俺は君に会ったことがあるな? 文化祭の時に。違うか?」

「口説き文句が来た!! そうです! 光栄です!! 主に部活では未美香先輩を推しています!!」


「そうか。テニス部なのにテニスをしないとは。なかなか傾くな。まあ、上がって行ってくれ。どうした? 未美香」

「んーん。なんかね、お兄が後輩に筋肉タッチされてるの見てたら、ちょっとモヤッとしただけだよっ!!」


 その瞬間、黒助のスマホが震えた。

 ラインメッセージを受信。


『くっくっく。たった今、元気娘系妹ちゃんのちょっとしたジェラシーをこちらで確認した。それは大変良いものです。大事になさってください』


 ベザルオール様。今日もガッツリ出番をゲットなされる。

 「なるほど」と頷いた黒助は、未美香の頭を撫でた。


「ほえっ!? な、なに!? なんであたし、褒められたの!?」

「いや。じいさんがな。……まあいいか。未美香は可愛いからな。不意に撫でたくなる。まずかったか?」


「も、もぉ! なんなのー? 全然嫌じゃないけどー!!」

「ふぉぉぉっ!! 未美香先輩のぉ!! 尊いシーンが来た!! 写真撮りたい!! けど、自制心!! ふぉぉぉぉっ!!」


 アキラちゃんの鳴き声がどこかの亀と被っているが、仕様です。

 ご了承ください。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 黒助がココアを淹れて、2人の女子高生の前に置いた。


「ありがとー!! お兄、お休みだったのにごめんね。急に部活がお休みになっちゃって。コート整備なんだって。それで、アキラちゃんと遊びに出かけたんだけどさ」

「み、みみ、未美香先輩が! 風邪が流行っているからと言ってくださいまして!! 手を引かれるままに連れて来られた次第です!! すみませんっ!!」


「いや。俺は構わんぞ。たいしたお構いができず申し訳ないが。これでも食ってくれ。ピンポコ豆で作ったずんだ餅だ。ココアとは合わんがな」

「おおー!! ヴィネさんとこのだ!! アキラちゃん! これね、お兄の農場の人が作ってくれたお菓子だよ!! おっぱいすごくおっきいの!!」


「おっぱい!! 私のヤツはただの肉の塊ですが! 未美香先輩のヤツは尊いものが詰まっています!! つまり、ずんだの中に尊いおっぱいが脈を打っていると!?」

「この子はアレだな。鉄人やミアリスと話が合いそうだな」


 この世界の乙女たちは胸部装甲平均値が高いため、おっぱいトークで涙を流すのはリュックたんのみ。

 ウリネたんも最初は頬を膨らませているが、あの子はお菓子あげるとだいたい機嫌が良くなる。


 しばらく未美香とアキラちゃんの話に耳を傾けながら、ココアを啜る黒助であった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 午後6時になり、柚葉が帰宅する。


「はっ!! 気付けば長居をっ!! す、すみません!! 私、帰ります!!」

「そうか。だが気にするな。用事があれば別だが。暇なら、晩飯を食っていくと良い。うちの柚葉の飯は美味いぞ」


「へゅぐみぁっ!? そ、そんなボーナスステージに、私が!?」

「良ければだがな。聞くが。今の声、どうやって発音したんだ」


「是非食べて行ってください! 未美香がお友達を連れて来るなんて珍しいですから! どうぞ、どうぞ!!」

「アキラちゃん、嫌じゃなかったら食べて行ってよっ!! 本当に美味しいんだよ、お姉の料理!! あたし先輩だし!! 後輩には優しくなんだよっ!!」


「おゅひぅ!! よ、よろしいのですか!? で、では! せっかくなので!!」

「賑やかな友達だな。ん?」


 黒助のスマホが震える。


『くっくっく。先輩風を吹かせる未美香たん。これは大変に良いものです』

『ホントそれ!! 兄貴! 写真撮っといてくれる!? 僕、どうして今日に限って外に出てるんだろう!! 悔しいっ!!』


 尊み有識者が増えた。


 それから3人で水炊き鍋を食し、満足そうなテニス部乙女たちを弟の指示に従い撮影する黒助。

 すぐに「兄さん? それ、ニート……鉄人さんのお願いですか?」と、春日家風紀委員によって写真データは没収された。


 最近同人活動に精力的な柚葉さんはもう少しで風紀委員を更迭されるかもしれないのだが、それは今回の話には収まらないのでのちの機会をお待ちいただきたい。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 夜も遅いので、黒助の運転する軽トラで自宅まで送られている最中のアキラちゃん。

 彼女は言った。


「お、お兄さん! 今日はありがとうございました!!」

「いや。俺は何もしていないが。ただ、未美香は嬉しそうだった。アキラちゃんが良ければ、また来てくれ」


「おうふ。イケメンムーブ……!! あ。そうだ。あの、未美香先輩、お兄さんとテニスしたいみたいです!!」

「ほう?」


 日頃から「お兄とテニスしたけど、忙しそうだから言えないんだよねー。たははっ」と頭をかいている未美香たんについて興奮気味に語ったアキラちゃん。


「そうか。それは良いことを聞いた。ありがとう」

「滅相もないです!! あ、ここで大丈夫です!! 送っていただき感謝でございます!! 失礼しまっす!!」


 マンションのエントランスに吸い込まれていく妹の後輩を見届けてから、黒助は軽トラを発進させた。

 取り立てて何があった訳でもない、冬の平和な1日である。

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