第257話 残り1つを墜とすは、引きこもりのドラゴン!! ~最後の出番となるのか、狂竜将軍~

 隕石破壊任務も終盤戦。

 こちらは春日黒助サイド。


 コルティオールの東端にある荒野に到着したところである。


 迫りくる隕石の中でも、質量、魔力量ともに最大のものを担当している。

 なお、彼はリュックたんを運搬してペコペコ大陸経由で来たが、現地では既にお手伝いチームが準備をしていた。


「黒助! あたいたちが破片を粉砕させるからね! 手加減なしでやっておくれ!!」

「すまんな。ヴィネ。仕事が忙しいだろうに。だが、お前の完璧な仕事は心強い。後詰は任せるぞ」


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 逝っちまいそうだねぇ!! 最近はリュックに出番取られてるけどさ! あたい! 人の10分の1の出番でも簡単に逝っちまえるのさ!! 全然平気! 何なら、放置されている間がご褒美まであるねぇ!!」

「そうか。よく分からんが、それなら良かった。おい、ゲルゲ。ブロッサム。そっちも問題ないか?」


 急に連れて来られたデカい体の戦力外コンビ。

 ちなみに、彼らは魔王城最終決戦でも戦場の解説役兼リアクション要員として仕事をしている。


 なお、その際に亀もいたという事実は既に多くの人の記憶から消え去っている。


「ワシ、もう一生戦場とは関係ない役職に就いたとばかり思っておりましたが」

「吾輩もでござる。コカトリスに餌あげてたらミアリス様に呼ばれて、ついにリストラかと震えたでござるよ」


「何を言っとるんだ。お前たちは遠距離攻撃に長けているだろうが。俺はこれから隕石を破壊するが、パンチで割るからな。どうやっても破片が飛び散る。鉄人からのラインで、破片も1メートルくらいのサイズになると結構ヤバいらしいことを知った。ゆえにお前たちの出番だ。期待しているぞ」


 出番が減っている従業員にも気を配る事業主。

 事業主に気を遣ってもらっているため、出番がなくても腐らない従業員。



 比較的出番があったにも関わらず、勝手に闇堕ちした亀へのヘイトが溜まる一方。



 肉眼で確認しても大迫力な隕石が、そろそろ近づいてきた。

 というか、結構近づいており、既にちょっと暑いくらいだった。


「では。取り掛かるとするか。3人とも、準備は良いな」


「あいよ! 任せときな!! ちょっと薄着して来たからね!!」

「ヴィネ様。最近、この世界のデカ乳・露出ブームに変化の兆しが……」

「ゲルゲ殿! それは言ったらダメなヤツでござる! 割と皆が乳自慢ばかりでござるゆえ!!」


 黒助が地面を蹴り、そのまま空中も3度蹴る。

 階段を2段飛ばしで駆けあがる小学生のような躍動感そのままに、隕石までの距離を詰めた。


「……黒助殿は熱くないのでござろうか」

「あの方はワシの炎の拳を涼しい顔でぶち壊しておられたゆえ、問題ないのだろう」


「黒助は恋愛の炎でもまったく焼けないどころか、むしろこっちを焼き尽くす男だよ。今さら、隕石程度の熱でどうにかなると思うのかい?」

「あー。凄まじい納得感でござるなぁ」

「確かに。ミアリス様など、一度燃え尽きてフェニックスしておられますからなぁ」


 事業主の身を案ずるどころか「やっぱあの人すげぇよなぁ」と目を細めながら見守る古参の従業員3人。


「おらぁぁぁぁぁぁっ!! 『ブラスト農家のうかパンチ』!!」


 当然のように粉々になる隕石。

 思った以上に破片が飛散したため、地上のサポート班も気合が入る。


「いくよ! あんたたち!! そぉぉれ!! もう名前にしか死霊将軍の面影ないけどね!! 『エビルスピリットボール』!! と言う名の、ただの魔力砲だよ!! 腐敗属性ないから!!」


 ヴィネの放った無数の魔力弾。

 これは腐敗属性を失ってもなかなか効果的であり、対象に張り付いて爆発していく。


「ぬぅおぉおおぉぉ!! 『フレアボルトナックル』!!」

「『狂獣進化トランスフォーム』!! あっ。しまったでござる。吾輩、ここからもう一度技名叫ばなければ!! あっ! 間に合わんでござる!! しからば無言で熱線ブレス!!」


 続けて、広範囲におよぶ遠距離攻撃をデカい体コンビが発動。

 そのコンビネーションはまだ健在であり、しっかりと隕石をなかった事にした。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 最後の隕石。

 現在、その落下予測ポイントにはこの男がいた。


「くくくっ。私がまさかこのような大役を……! ちょっと喉渇いたから、冷蔵庫に行っただけなのに!! まさか、ベザルオール様とアルゴムに挟み撃ちにされるとは思わなかったのだよ!!」


 狂竜将軍・ガイル。

 最近は部屋から出てこない、出て来てもすぐに戻る、戻ると返事をしなくなる。

 そんな頭ドラゴンズ。


 ちなみにずっと部屋でDVDと配信動画ばかり見ているため、ガイルはちょっと太っていた。

 具体的には20キロ増。割と見た目にも表れてしまう太り方である。


「しかし、大きいのだよ。あんなサイヤ人の宇宙船みたいなヤツを、今の私に破壊できるのかね。そもそも、どうして私には援護がいないのだよ」


 ベザルオール様もソロ活動でした。


「ベザルオール様は大魔王だろうに。今となっては私、魔王軍の仕事すらしていない。ベザルオール様がくださる小遣いを握りしめて、イベントに行くのが精いっぱいの活動だというのに。これはあまりにも負担が大きすぎるのだよ。オマケに、ミスしたらこの世界が消し飛ぶとか。それを引きこもりにやらせるかね。社会が悪いのだよ。あと政治。私がこんな風になったのは、だいたいそのせいなのだよ」



 しっかりと引きこもりムーブをキメてくるガイルさん。

 ところで、そろそろ隕石との距離がまずいです。



 狂竜将軍は覚悟を決める。

 彼だって、別に死にたいわけではない。


 推し活は忙しいし、今日もこの後に配信があるし、再来週はリアルイベントが控えている。

 こんなところで立ち止まっている訳にはいかないのだ。


「かああぁぁぁぁぁっ!! 私もかつては魔界の狂える竜として名を轟かせた男!! ならば! やれる、やれる! 大丈夫、大丈夫!! 中学生の頃とか、何でもできる気がしてた!! あの頃の根拠のない自信よ! 1割で良いから戻ってきてくれるかね!!」


 ガイルは口を開けると、「あっ。違った。私、こんな見た目でブレス攻撃したことなかったのだよ」と気付き、慌てて爪を伸ばした。

 そうとも。ガイルの必殺技はあまりの速さにインパクトが遅れて現れる、狂爪の一撃。


「かぁぁぁぁぁぁぁぁ!! ……私、気合の入れ方も違った気がするのだよ。とりあえず! 『デスクロス・クロー』!!!」


 爪から放たれた斬撃が片手で5つ。両手で10。

 隕石に向かって飛び出した。


「……やったか!!」


 やっていなのいのだが、この瞬間。

 ガイルの後方で待機していた、魔王軍一の切れ者が姿を現す。


「……ガイル様。その立ち向かう姿勢を拝見できただけで、私は!! あとは少しずつ、社会復帰して参りましょう!! 援護します!! 雷よ、巨大な光に以下省略!! 『デライド・ブラスト』!!!」


 金色の閃光がガイルの背を通り越して、隕石へと迫る。

 先んじて飛んでいた狂爪の斬撃と合わされば、金色の爪弾が生み出された。


 それは隕石を激しく揺さぶったのち、細切れにする。


「……私の中の眠れる力が、覚醒したのだよ! 金色の斬撃が出てくるとか、明らかにこれは覚醒なのだよ!! そうか! 私だって、まだやれるのだ!! まだ自分に見切りを付けるのは早計たったのだよ!!」

「……ガイル様!!」


 アルゴムは再び身を隠した。

 ガイルの社会復帰の足掛かりを曇らせる必要はないのである。


「……よし! 私は明日から! やり直す!! 農作業も頑張って! ご飯のあとはお皿も洗う!! 浴槽の掃除だってする!! だから! ……ん。しまったのだよ。このアラームは、配信の時間!! 隕石なんぞにかまけている暇はないのだよ!! ベザルオール様のクレカ勝手に借りて、スパチャ投げるのだよ!!」


 そう言うと、ガイルは魔王城へと飛び去って行った。

 アルゴムはしばらく天を見上げてから、「クレジットカード会社に連絡しておきましょう」とだけ呟いた。


 こうして、コルティオールに襲い掛かった悪意の惑星兵器は無事に精鋭たちの手によって葬り去られる。

 では、バーラトリンデサイドの様子を見てみよう。


 コルティ様はご無事か。

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