第254話 好戦的すぎるルビーのヨシコさん、とりあえずコルティオールに隕石を降らせる

 ルビーのヨシコは全身から真っ赤な魔力を噴き出していた。

 輝石三神も自分の原材料となっている鉱石と同じ色の魔力を放出させるが、ヨシコの出している魔力には明らかに負のエネルギーが混じっている。


 ノワールの暗躍、成功する。

 今のところは。


「ええと。まあ、いいでしょう。自分の名前を生まれた時点から持っているというのは、自立心の高さからと思えば。ええ。納得できます。では、ヨシコ? あなたの声を聞かせてください」


 ヨシコは頷いた。

 従順な態度を見せる。


「コルティ!! あんた、頑張ってるねぇ!!」

「えっ!? やっぱり普通に呼び捨てしますよね!? 私を!?」


「あんたの頑張りな? あたしに届いたよ!! ヨシコが来たからにはもう安心!! ドンと構えといていいからね!! いわば、あたしゃタイタニック!! コルティオールのディカプリオと一緒に! さあ! あたしに乗り込みな!! イエス、高須クリニック!!」

「ものっすごい勢いで私を沈没させようとして来る!! ……いえ。きっと、私のストレスを解消させるために、ジョークを考えてくれたのですね? ヨシコは優しい子です」


「コルティ!!」

「どうしてこの子、本当に私のことを呼び捨てしかしないのですか? たまに呼び捨てするならまだギリギリ分かりますけど。呼び捨てがデフォって。どういうことですか?」



「もう、ディカプリオとはキッスしたんか? ん? おっぱいくらい揉ませたんか? んん? ほら、言ってみ? ヨシコに言ってみ?」

「ちょっとすみません!! 1回! 1回止めてもらってもいいですか!?」



 コルティ様。

 さすがに気付かれる。


 「これ、おかしいですよね!?」と。


「ほ、ポンモニ? 私、どこで何をミスしましたか? もう、絶対に何か失敗してますよね!? というか、失敗していなかった方が問題なのですが!! これ、私のどこの深層心理から出て来たんですか!? 私、自分で思うよりもずっと病んでますか!?」

「うけけけっ。コルティ様。アタシのサーチ能力はたいしたものではないでゲス。が、どう見てもコルティ様のものではない魔力が混ざっているでゲスよ。恐らく、ヨシコがあり得ないはっちゃけキメているのもその影響かと思われるでゲス!!」


 ここで働くのは、バーラトリンデの綺麗なアルマジロ。

 的確に原因を見破る戦功を挙げる。


「私には分かりませんが。そうなのですか、ポンモニ?」

「うけけっ。生命を産み出す事は、コルティ様のお力をもってしても相当な集中力が必要となるでゲス。ゆえに、コルティ様にはご自身の魔力が生命に変わる瞬間を確認できないのでゲスよ」


「そうでしたか。で、では。一度、ヨシコを分解しましょう!」

「おい、コルティ!!」


「もう、普通に呼び捨てして来るんですけど。しかもちょっとキレてますよ。ヨシコ。私、いくらなんでもこんな失敗します? 自分がひどく心配になってきました。ポンモニ。良い心療内科を知っていたら教えてください」

「うけけっ。それよりも、まずい事が判明したでゲスよ」


「これよりもまずいのですか!? それ、もうベザルオール様が心不全を起こして倒れるとかくらいしか思いつきませんけど!?」

「うけけっ。コルティ様。落ち着いて聞いて欲しいでゲス」


 ポンモニは、一拍ほど間を置いた。

 恐らく、自分の生みの親に覚悟を完了させるためかと思われた。


 そして、アルマジロは言う。



「ヨシコでゲスが。アタシよりも極めて高い魔力を有しているでゲス。それは当然として。コルティ様。あなたよりも魔力の密度が……! これ、分解するの無理でゲス!!」

「嘘でしょう!? 私、自分の魔力を分け与えた子に生後15分で抜かれたんですか!? 分解ができない!? ポンモニ! ポンモニぃ!! 私を追い詰めないでください!!」



 ヨシコ。呪いの装備を確定させる。


「おい、コルティ!!」

「思春期の息子ばりに呼び捨てしてきますけど!! 一度でいいから、様を付けてもらえませんか? 無理ならさんでも良いです。たんでも、ちゃんでも良いです」


「こら、コルティ!!!」

「語気が強くなりましたけど? 私、そんなに過分な理想を口にしましたか?」


「任せときな! ヨシコ、やるかやらないかで言えばね。やる方だよ!!」


 そう言うと、ヨシコは『生命の部屋』のステンドグラスを叩き割って外に飛び出した。

 凄まじい飛行速度であり、それは亀に匹敵するレベル。


 比較対象が亀の時点で哀しみしかないが、新しい哀しみの物差しとしては最適なのかもしれない。


「ひとまず追うでゲス! コルティ様!!」

「ええ……。私、もう部屋に戻ってベッドに潜りこみたいのですが。ダメですか?」


 ポンモニは何も言わない。

 それはつまり「ダメでゲス」と言っているのだが、心優しきアルマジロは「ご無理をなさらないで欲しいでゲス。アタシが見届けるでゲスから」とも言っていた。


 どうにか心を折らずにコルティ様は立ち上がる。


「分かりました。参りましょう。ヨシコはどこへ行きましたか?」

「お待ちくださいでゲス。……ゲス。コルティ様」


「あ。その表情は、悲報を伝えて来ますね?」

「ゲス。あちらには、超遠距離攻撃用の惑星兵器があるでゲス。リュックにしか扱えず、彼女が使用を拒んでいたため、最近は凍結されっぱなしでゲスが」


 そこまでポンモニが言うと、バーラトリンデ全域に向けて警告音が鳴り始めた。

 けたたましいサイレンの音は、コルティ様の絶望をより鮮明な色に染めていく。


「緊急地震速報って、本当に驚きますよね。いえ、驚かせるためにあのように不安を煽る音なのだと理解はしていますが。何度聞いても心臓がキュッとなります」

「コルティ様。お気を確かにでゲス。急がなければ、大惨事の予感がするでゲス」


 コルティ様とポンモニも飛行して、ヨシコの後を追った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 バーラトリンデの超長距離攻撃システム。

 『対惑星用決戦兵器バーラトシューター』は既に起動しており、後は使用者権限の承認と、魔力による稼働を待つだけであった。


 ちなみに、ヨシコは輝石三神と同等の権限を付与されて産み出されているので、最初のステージを難なくクリア。

 さらに、コルティ様を超える魔力を有しているため最終安全装置も解除。


「コルティ! 安心していいよ! このヨシコがね!! ディカプリオと一緒の、豪華客船クルーズをプレゼントするからね!!」

「なんでこの子、私を沈没させようとシャカリキなのでしょうか。というか、待ちなさい! ヨシコ!! それを使用するのは許可しません!!」


 『対惑星用決戦兵器バーラトシューター』は、文字通り星を対象に想定された攻撃装置。

 撃ち出されるのは弾丸でも光線でもない。


 近くを漂う隕石群である。


 これを作ったのは今から200年ほど前であり、コルティ様の中に芽吹いた負の感情と、ノワールの良くないハッスルが奇跡的にジャズった瞬間であった。

 そののち、すぐに正気を取り戻したコルティ様が「こんなもの使ったら! コルティオール消えるじゃないですか!! バカなんですか、私は!!」と慌てて封印し、以降そのまま放置されていた。


 使用可能なのはコルティ様とのちに生まれて来た娘のリュックたん。

 破壊してしまわなかったのもまた、負の感情が作用しての事だろう。


「コルティ! あんたに確実な勝利をプレゼントするよ!!」

「ここに来て、ルビーが冠する言葉を出してきた!! ヤメてください!! やっぱり私が責任者ですから!! そんな凄惨な事になったら!! あの星には、ベザルオール様以外にも、私の子供であるリュックとゴンツがいるのですよ!! 良いですか! 私は自分の身を削り産み出した子供たちを」



「あっ。コルティ様。隕石が発射されたでゲス。4……5発。これはまずいでゲス」

「なんでですか!? 普通、私の最後の説得を聞いてから、その上で悪い顔して撃ちますよね!? まだセリフの途中なんですけど!! 結構序盤だったんですが!?」



 バーラトリンデから極めて攻撃性の高い、凶暴な悪意が放たれた。

 コルティオールサイドも予測不能。急にやって来た狂気である。


 久しぶりにのっぴきならない展開が訪れようとしていた。

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