第253話 コルティ様、新しい眷属創るってよ!! ~ルビーのヨシコ、爆誕~

 バーラトリンデ。

 岩山にある館では。


「ふっふっふ。よくぞ集まりました。私の忠実なる子供たちよ」


 コルティ様がポンモニの献身的な看病により、復活していた。

 なお、上級幹部がいなくなってしまったので全員を「子供たち」とか言って、ちょっと今さらな悪の組織感を演出する事を選ばれたかつての女神様である。


「女将! もう大丈夫なのかよ!?」

「そうでございますぞ! 女将! ご無理はいけません! 小官をなじってください!!」



「ふっふっふ。……あの。なんで私が寝込んでいる間に、私の事を創始者ではなく、女将と呼ぶようになったのか。その辺を説明して頂けますか」



 それは、リュックたんが定期的に手紙をファックスで送ってきており、バーラトリンデでは結婚式の祝電システムで、「今日のリュック様のお手紙」として掲示板にてそれを公開しているからである。

 リュックたんは文章力も高く、読んでいて楽しいお手紙を書いてくれることで、娯楽の少ないバーラトリンデ軍のエンターテインメントとして地位を確立していた。


 そんな彼女の手紙の書き出しは決まって「拝啓。女将。お元気ですか」で始まる。

 語感が良すぎたため、今ではみんながコルティ様を「女将」と呼んでいる。


「そ、そうですか……。リュックが。ま、まあ、そう言う事ならば、致し方ありません。リュックは私の可愛い娘も同然。ならば、所属を変えても彼女の意思は尊重したいですからね」

「コルティ様はご立派でゲス!! こちら、本日のおやつでゲス!! 湯葉を使ったスイーツでゲス!! さっくりと揚げて、シナモンと砂糖で味付けしているでゲス! 今日はバニラアイスを添えてあるでゲス! まだ病み上がりのコルティ様にも食べやすいかと愚考したでゲス!!」


「ポンモニ……。あなた、今の流れで私のことをコルティと……。あなたは自慢の息子です。それにしても、なんですか。このオシャレなスイーツは。どこで覚えて来るのですか」

「うけけけけっ! 最近、アタシは和食にハマっているのでゲス!! コルティオールの賢者、春日鉄人様が先日、京都に恋人と観光旅行に行かれたらしく、ブログに記事が載っていたのでゲス!!」


「そ、そうなのですね。というか、普通に敵の幹部のブログ読んでいるのですか?」

「うけけけっ! 敵とは言え、紡がれた文章に罪はないのでゲス! それから、彼のブログは写真だけでなく、レシピまで公表してくれているので助かるのでゲス!! 恋人とも楽しそうにしておられたでゲス!! アタシは繁殖機能がないでゲスから、若い恋人は応援したいでゲス!! 子供手当を拡充して、子育て世代を応援するでゲスよ!! うけけけけっ!!」



 なお、ポンモニさんは農協の通販をよく利用するため、日本に納税もしている。

 現在はふるさと納税も検討しているアルマジロ。日本に住んでいないのに。



「……美味しいですね。紅茶ともよく合います。京都ですか。一度、私も行ってみたいものです」

「オレも行きてぇ!!」

「では、小官が予定を組みましょう! 同じ部屋でよろしいですか!?」


「どうして急にアットホームな空気に? あれですか? 私がうっかり、子供たちとか口走った後に女将がどうこうという話題になったため、家族ムーブが進行したのですか? うちは相撲部屋ですか? それにしても、旅行は手を伸ばし過ぎなのでは?」


 ポンモニが電話をかける。


「うけけけっ。こちら、サファイアのポンモニでゲス! リュックでゲスか? 来月にでも、バーラトリンデで旅行に行こうと思っているでゲス! そうでゲス!! まあまあ、そう言わずに! リュックの欲しがっていたマイク、実はアタシご用意しているでゲスよ!! ゲスゲス! では、ゴンツにも伝えておいて欲しいでゲス! ゲス!!」

「あの。裏切った幹部たちが普通に参加するのですか? 旅行に?」


「お言葉でゲスが、コルティ様! 先ほどあなたがおっしゃっていたでゲス! どこに行っても子供は子供! 親は親でゲス! 所属が変わったところで、コルティ様と彼らの絆は変わらないと思うのでゲス!!」

「……分かりました。京都に参りましょう。イラミティ。部屋は男女で分けなさい」


「拝承仕りました!! 亀様はどうされますか?!」

「呼んだらあなたもろとも殺します。そもそも、定例会議にも呼んでいないのですから、察しなさい。あれを家族にするくらいなら、私が先に嫁ぎます」


 結構平和に会議を終えたバーラトリンデ軍。

 だが、これからコルティ様が行われる儀式で、新たな災厄が誕生する。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 創始者の館には、『生命の部屋』という場所がある。

 その名の通り、コルティ様が鉱石生命体を産み出す際に使われる部屋である。


 高密度な魔力と、バーラトリンデの母星から噴き出している魔素が充満しており、新たな命を誕生させる条件が整っているのだ。


「ポンモニ。用意できましたか?」

「うけけっ! ルビーでゲス!! バーラトリンデで採れた最良のものでゲス!!」


 今回、コルティ様は輝石三神に代わる新しい幹部を誕生させるおつもり。

 そのために、依代となる鉱石も用意していた。


 ルビー。

 冠する言葉は「勝利」である。


 コルティ様は未だにちょっとだけノワールに精神干渉されているため、まだコルティオールの制圧を諦めてはいない。

 かなり精神汚染は浄化されているのだが、なにせ1500年以上もその身を蝕んだ悪意であり、なかなかすぐ抜け切るものではない。


 ベザルオール様も同じく1500年以上の精神汚染を受けていたが、あの方はベースになる負の感情が体内に少なすぎたため、黒助が杖をへし折ったらものの数秒で克服された。

 コルティオールのメンタル強者番付で、春日家に次ぐのはベザルオール様。


 その偉大なる精神力を誰しもが持てとは、いささか無理がある。


「では。生み出すとしましょう。私の忠実なる! 新しい子供よ!! はぁぁぁぁぁ!! さあ、産声を上げるのです!! はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

「おおお! 何という眩い光でゲスか!! アタシのように矮小な生き物は、これを浴びるだけで消えてしまいそうでゲス!! うけけけけっ!!」


 しばらく赤い光が部屋を包み込んだ。

 3分ほどかけて、ゆっくりと穏やかになっていく光を見つめるコルティ様とポンモニ。


 すっかり消えた光の中から現れたのは、女性の姿だった。


「これは……!! 美しい方でゲス!! それにしても、コルティ様! 今回は生み出されたばかりなのに、見たところ20代後半くらいの女性でゲスね?」

「良く気付きましたね、ポンモニ。即戦力となる必要があるので、魔力を過剰に込めたのです。……私の見た目よりも年上になるのは想定外でしたが」


 そう。

 コルティ様の想定と違うのには、理由がある。


 畜生生命体である虚無のノワールが、誕生の瞬間に分体を紛れ込ませたのだ。


 よって、このルビーから生まれた鉱石生命体には、負の感情が宿っている。


「とにかく。まずは名前を付けて差し上げましょう。名前を付ける事で、法術から生まれる生命体は完成するのですから。……あなたの名前は」


 ルビーの女性が口を開いた。


「あたしゃ! ヨシコだよ!! ルビーのヨシコ!! よろしくね! コルティ!!」


 ヨシコと言うらしい。



「すみません。ちょっと、少し待ってくださいね。……なんでこの子、普通に名乗るんですか!? おかしいでしょう!? ヨシコ!? いえ、ヨシコが悪い訳ではありませんが!! 世界観が!! あと、なんで私は呼び捨てにされているのですか!?」

「うけけけっ。これは、危険な香りがするでゲス!!」



 ルビーのヨシコ。爆誕。

 彼女はこれから、バーラトリンデの戦力となるのか。


 それとも、良くないハッスルをするのか。


 良くないハッスルをするのである。

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