第225話 春日鉄人、物理に目覚める ~禁術で肉体を強化させ、いよいよ最強戦士になりつつあるニート~

 バトル展開において、巨大化と言うギミックはどうしても一度出てくるとその後は影が薄くなりがちである。

 古くはピッコロさんの巨大化。サイヤ人の大猿化。


 ほらご覧なさい。影が薄くなっている。

 ピッコロさんについては言いたい事もあるが、それを語るのはギルティ。

 気になった人はお勧めしないが検索してみよう。自己責任で。


 「くっくっく。最新映画を見に行くのが吉である」とは、ベザルオール様のお言葉。


「これは見事な精製魔法ザンス!! ここまで巨大なモンスターを魔力だけで産み出すとは……! さては、あなたが大魔王ザンスね?」

「とんでもない! 僕はただのニートです!! 大魔王の魔力を見たらビビりますよー!! ベザルオール様はすごいんだから!!」


 返事をしながら、鉄人は巨大スケルトンを操作する。

 携えている剣だけでも十数メートルはあると言う規格外の戦闘。


 ペコペコ大陸は長らく毒に侵されていたため、周囲には何もない。

 よって、多少の環境破壊には目をつぶる事で思い切り戦う事が出来る。


 ちなみに、「そこってコルティオール男子プリティーダービーしたところじゃね?」と思われた方は記憶力が優れているどころか、無駄遣いを注意しなければならないレベル。

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「げははははっ! これは強烈ザンス!! だが、私の、あっ! 間違えた!! ワイの肉体はダイヤモンドの強度を誇るザンス!! そう易々と傷はつかないよ! ……ザンス!!」


 鉄人は思った。

 「この人、キャラ設定を守っててマジメな人だなぁ」と。


 だが、敵の人柄が優れていても侵略者と言う肩書は変わらない。

 ならば、叩いて潰して後顧の憂いを少しでもへらすのは軍師の務め。


「んー。これはちょっとミスったかな。巨大化には巨大化で応じるのがマナーなんだけど。僕のスケルトンくんじゃ、ゴンツさんにダメージ通らないや。魔力だけが減ってくねー」

「大丈夫だし? ウチのおっぱい揉むし? あ、間違えたし! ウチの魔力いるし?」


「あらー! 積極的なギャル、キタコレ!! セリフは堂々としてるのに、顔が真っ赤でモジモジしてるところが高得点ですなぁー!!」

「ヤメろしー!! 恥ずいしー!! 鉄人ってSっぽいとこあるしー!!」


 まだイチャイチャする余裕はあるニート軍師。

 だが、前述の通り、スケルトンの使役は維持するだけでも魔力がゴリゴリ減っていく。


 敵に通らないダメージと言う結論が出ている以上、それを続ける事に意味はない。

 そこで鉄人はスケルトンを変形させて、頭蓋骨を尖らせた。


「こうなったら、特攻だ! いけ! スケルトン!! 君に決めた!!」


 巨大な質量を持つスケルトンで、防御力極振りの敵を攻撃する最適解の1つは捨て身のタックル。

 どうせ消すなら敵にぶっこむ! と言う、シンプルながら効果的で無駄もない戦略。


 ただ、尖った頭蓋骨のスケルトンはビジュアルが結構キモかった。


「思い切りの良い戦闘スタイルでゲス! あ、間違えた! ザンス!! 避けるのは容易いザンスが、武人としてここはお受けするのが筋でガンス!! ぐおぉぉぉぉおっ!! あああっ! 痛い!! 私の想定よりずっと強かった!! 痛い!!」


 マジメなゴンツは戦いの作法を順守する。

 ポンモニもそうだが、彼らの正々堂々とした性格はコルティさんが綺麗だった頃の名残だと思われる。


 ただし、コルティさんの綺麗なところを彼らが吸収し尽くして生まれてきた可能性も捨てきれない。


「ぐふぅぅぅぅぅぅっ! これはいけない!! ダメージを受ける面積が大きすぎる!! 巨大化は解除するよ!! ああっ! ザンス、ザンス!!」


 ゴンツは肉体のサイズを2メートルまで戻した。

 その右胸には、スケルトン特攻による傷がしっかりと刻まれている。


「おおー。どうやら、アレだね! 頑張れば僕程度の力でも、攻撃が通る事もあると!! ちょっと希望が見えてきた!!」

「頑張れだし! 鉄人!! ミアリス様の勝負服からチアコス持って来れば良かったしー!!」


「えっ!? なにそれ、超見たい!! 帰ったら着てよ、セルフィちゃん!! もちろん、スパッツなしで!!」

「えー? オタク彼氏の要求がキモいしー。マジで困るしー。帰ったらそっこー着るしー。確か、ミアリス様は夜戦用のヤツも持ってたから、そっちも着てやるしー」


 夜戦はお控えください。描写が出来ません。


 楽し気なニートとギャルを見て、ゴンツも思った。


 「あっちの女の子。うちのリュックと同い年くらいなのにずいぶんと優しいなぁ。リュックの友達になってくれないかなぁ」と。


 輝石三神の全員が戦いに不向きと言う悲しい現実をコルティさんが知るのは、この戦いが終わった後である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 鉄人は「次で決めます! チアコス撮らなきゃなので!!」と言って、魔力を極限まで解放した。

 一時的な火事場のバカ力のようなもので、ベザルオール様に匹敵する出力を得てはいるが長続きはしない。


「来るザンスか! コルティオールの賢者!!」

「とぉぉぉ!! 魔の邪神! 禁術シリーズ!! 『魔力外装オーバーフロー肉体強化ガチムチマッスル』!!!」


 春日鉄人。

 彼はついに魔の邪神の魔導書の全てを完全に自分のものにしていた。


 その中にはいくつかの禁術も記されており、それらは魔力の消費量や肉体への負荷から使用を推奨されないものである。

 が、ニートは限界を超えるために生きている。


 「チャレンジを恐れたら、ニートは終わりですよ!!」とは、ニート界のトップを狙う若者の言葉。


「すごいし! なんか義兄さんみたいなマッスルパワーを感じるし!!」

「いやー。初めて使ったけど、これはキツいねー!! すぐに倒れそう!!」


 鉄人は構えた。

 それは兄の黒助にそっくりであり、当然だがこのニート、来るべき日に備えて自慢の兄の戦闘データは既に何度も確認済み。


「兄貴の完コピはできないけど! モノマネ程度ならやってみせなくちゃ!! 春日家は名乗れないでしょ!!」

「凄まじい秘術だね! まさか、魔力で肉体そのものを変質させるなんて!! 私たち鉱石生命体ならばまだしも、あなたは人間なのに!! 賞賛に値する技量だ!!」


 ゴンツさん、キャラ作りを諦める。

 彼も戦士の本能で「これは全力で応じなければまずいね!」と察していた。


「では! ご覧に入れますよ!! コルティオールに伝わる、『黒の暗殺拳ブラックアーツ』の技を!!」

「なんと! そのような秘奥義が……!! これは、創始者様に良いお土産ができたなぁ! リュックが映像データを撮ってくれてるだろうし!!」


 2人の戦士の肉弾戦が始まろうとしている。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃のラブラブベザルの内部。


「はい、どーも。今日はねー。スマブラの配信しまーす。おー! みんなノリ良いじゃん! って! ちょちょ、待て待て! なんだこいつ、『大魔王@ガチ推し』とか言うお前! いきなりスパチャ投げてくんなって! まだ挨拶しただけって! おい! バカ! あははっ! 連打すんなって!! なにこいつ! ちょーウケるんだけど!! 暴走すんなってば! あはははっ!! おい、誰か大魔王止めろって!!」


 リュックさんはゲーム実況配信が忙しかったため、戦闘に興味を示していなかった。

 ちなみに、データの集積装置の電源は引っこ抜かれて、配信機材が代わりにコンセントを占領している。


 ゴンツさん、お気の毒ですが情報は何も残りません。

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