第224話 死霊使い・春日鉄人(ニート)VS輝石三神・ダイヤモンドのゴンツ ~リュックさんは傷心のためお休みです~

 鉄人は躊躇なく、ガリガリとラブラブベザルの外壁を削っていく。

 持参したスコップに硬化魔法を付与して軽快に削り散らかす。


 その破片を下で袋を広げてキャッチするのがセルフィ。

 鉄人の動きを先読みできるセルフィは、実に手回し良く彼氏のサポートをこなす。


 ものの5分と少々で敵の要塞の外装と言う、結構重要な情報をゲットした。


「次はどうするし?」

「そうだねー。できれば、武装の種類を見たいかなー。アルゴムさんが言ってたんだよね。前にやられちゃった時は、女子高生? の出したドローンがメインで、要塞の兵器はレーザー砲しか確認できなかったって」


「そうなんだし。ってかさ、敵に女子高生がいるし?」

「どうなんだろ? アルゴムさんが制服着てた女子がって言ってたから、多分いるんじゃないかな? だって、アルゴムさんだよ? アルゴムさんが言うんだもん」


「あーね。確かにだし。アルゴムが言うんだったらそれはもうアリ寄りのアリだし」

「だよねー。バーラトリンデって高校があるんだねぇー」


 アルゴムの発言はコルティオールでも屈指の信頼度を誇り、彼のもたらす情報は基本的にベザルオール様や黒助でさえ確認せずに鵜呑みにする。

 それは彼のここまで積み重ねて来た実績によるものなのだが、今回はそれが裏目に出ていた。



 バーラトリンデに高校はない。



 だが、その情報が間違っていたとしても特に被害は起きないため、訂正する必要性についてまず議論が起きるだろう。

 女子高生の恰好はリュックさんの趣味である。


「さてー。覗きみたいで申し訳ないけど! 魔の邪神直伝!! 『一里透視眼クレアボヤンス』!! あー。なんかいっぱいあるね。セルフィちゃん、スケッチブック貸してくれる?」

「りょー! 鉄人、絵も上手いし! おおー! しかも描くの速い!! すごいし!!」


 鉄人の絵心はなかなかのものである。

 高校時代から暇に任せて好きなキャラを描き散らかしていたところ、あまりのクオリティに時岡市のコンテストで入選を果たした。それも2度。


 萌えアニメのキャラの絵で。

 どこの問題のある美術部だろうか。


「なんだかよく分かんない兵器もあるねー。とりあえず、外見だけでも鮮明に模写しとけば、後でアルゴムさん辺りの研究資料にはなるでしょー」

「あーね。確かにだし。アルゴム、そーゆうとこあるし!」


 それから、20分ほどかけて透視できた全ての兵器のスケッチを終えるニートスパイ。


「これで終わりだし?」

「んー。まだ気づかれてないっぽいから、中に忍び込んでみようかな?」


「えー!? それはヤバくないし? 鉄人が危ない目に遭うのヤダし!!」

「平気、平気! ヤバそうならすぐに逃げるから! セルフィちゃんはちょっとここで待っててね! 行ってきまーす!!」


 ニートスパイ、敵の要塞内に侵入する。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 鉄人にやりたい放題されていたラブラブベザルだが、さすがに内部に侵入されると異変に気付く。

 ゴンツは常に鉱石兵を数十体単位で自律行動させており、その1つずつに魔力検知と生体検知の機能を付与していた。


 高性能なセコムである。


 相手がセコムとなれば、さすがのニートスパイも分が悪い。

 なにせ、セコムは警備業界シェアの一等賞を長年取り続けている優良企業であり、その占める割合は実に6割に迫る勢い。


 ちなみに時岡市農協もセコムのお世話になっている。



 それだけで、もはや説明は不要なのがこの世界の戦闘力。



「うわっ! しまった!! これ、気付かれちゃったねー!!」

「げはははははっ」


 鉱石兵の警戒網に引っ掛かった鉄人。

 魔力は完全に消していたが、生体検知は心臓でも止めない限り完全な隠匿など不可能。


「まずい! 逃げよう!!」

「げはははははっ」


 鉱石兵の得た情報は、親であるゴンツも共有している。

 鉄人が逃走を開始する数秒前に、ゴンツは侵入者に感づいた。


 さすがはセコム。


「リュック! 敵だよ!!」

「や。無理っす。私まだ心の傷が癒えてないんで。つか、亀だったどうすんの? 私、マジで怖いんだけど。次あんな目に遭ったら、ガチで帰るから」


 ゴンツは「リュックはまだ幼いからなぁ。仕方がないね」と納得して、「では、私が行ってくるよ。要塞の指揮権を委譲するから。そっちはお願いね」と言って出撃して行った。


「はいはい。ま、頑張って。亀だったらそっこー主砲撃つかんね!!」


 リュックさんのトラウマは結構深刻であった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 一方、大急ぎでセルフィのところまで戻って来た鉄人。


「どしたん? なんか焦る鉄人って新鮮だし! あーね。トイレだし?」

「んー。違うんだよねー。ごめん、ちょっとヘマしちゃった! 敵さんが来るよ!」


「マジだし!? ヤバいじゃん!! あのアルゴムがやられた相手だし!!」

「そうだねー。でも、ただ逃げ帰るのはもったいないよねー。ついでに、敵さんの情報も欲しいかな!」


「……ウチの彼氏、イケメン過ぎん!? あー。今のはヤバいし! ウチのハート持ってかれたし!!」

「僕も抱きしめてあげたいけど! これは思ったよりもすごいのが来ちゃったねー」


 ダイヤモンドのゴンツ。

 特性は力。トリッキーな使い手が多いバーラトリンデの民の中でも、かなりシンプルな戦闘スタイルを好む彼は、既に準備を終えていた。


「げっ! なにあれ!! デカいし!! えっ、シン・ウルトラマン見たんだし?」


 ゴンツは巨大化していた。

 そのサイズは軽く見積もっても魔王城と同じか、下手をするとそれよりも大きい。


「うわー。これは欲張り過ぎたかなー」

「どうするし!? あんなデカいから、動きが遅いとかあるっぽいし?」


 ゴンツは「そんなお約束はないザンスよ!! 麗しのお嬢さん! げはははははっ!! ヴォエ!!」と、驚異的な聴力でセルフィのセリフを聞き取っていた。

 そして、ここぞのキャラ付けも発動していた。


「……なんか、ちょっとキモいし」

「ダメだよ、セルフィちゃん! そんなこと言ったら!! 今は個性が尊重される時代だからね!!」


 ゴンツさん、10代の女子にとことんウケが悪い模様。

 だが、彼はそんな事を気にしたりはしない。


「よーし! 久しぶりに、アレ使っちゃうぞー!! とぉりゃぁぁぁぁぁ!! 出てこい!! 僕の眷属!! ヴィネさん直伝!! 『死霊使役ネクロマンシー』!!」


 諸君。覚えておいでだろうか。

 このニートが、死霊将軍時代のヴィネからアンデッドを使役する術を学んでいた事を。


 巨大なスケルトンが地面から出現した。

 そのサイズはゴンツよりもやや小さいが、充分に超巨大の領域には到達している。


「げはははははっ!! なんと、なんと!! こんな魔法の使い手がいたでザンスか!! げはははははっげっほげほヴォエ!!」

「さあて! 僕ごときが、どこまでやれるかなー? セルフィちゃんの前だから、少しくらいいいとこ見せたいよねー!!」


 ニート死霊使い。

 久方ぶりの戦闘開始。


 相手は敵の最高幹部の一角。いかに立ち回るのか、現世の賢者ニート

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